受付嬢・ライカ
「んっ」
私は眠りから目が覚めて、眠気眼をこする。カーテンの方に目をやると、少しだけ明るく今は日が昇り始めた時間であることが分かる。
ふかふかで暖かいお布団から体を起こし、背伸びをする。
敢えて何も考えない時間を設けて瞑想のようなことを十分程行う。
本格的な瞑想ではないので効果があるか分からないけど、以前病院でお世話になったミーシャさん曰くこれをやることでその日一日を集中して物事に取り組むことができるとのこと。
私は瞑想のやり方を教えてもったその日から今日までほぼ毎日取り入れて行っているが、ミーシャさんの言った通り物事に集中しやすくなっている、気がする。
瞑想を終えて、私は布団から出てリビングに行く。
今の時間帯はまだ誰も起きていないらしく、足音や物音が一切聞こえてこない。
私たちが借りているアパートメントはオープンキッチンが備わっていて、私はそこでみんなの朝食を作り始める。
昨日余ってしまった残り物を少しだけアレンジして、スープとトーストの用意をする。
トーストの香ばしい匂いが私の鼻孔を襲い、空腹を加速させていく。
トーストの匂いにつられたのか、それとも元々この時間に起床するのか分からなかったけど、アルカ、リゼ、続いてシルフがリビングへやってきた。
「おはよう」
「おはようございますカノン、部屋まで美味しそうな香りが漂ってきたので起きてしまいました」
「おはようカノン、朝食の用意を手伝おう」
「おはようございます花音、私もお手伝いします」
「ありがとう、お願いします」
私たちが朝食を済ませる頃には太陽はすでに王国全体を照らすほどに昇っていた。
シャワーを浴びてからこの世界で愛用している前世で使用していた制服に着替える。
「それではギルドへ行ってクエストを受注しに行きましょうか」
「うん」
私はドアに鍵をかけて、きちんと閉まったかあまり良い手段ではないんだけど、ドアを何度か引っ張り、ドアが開かないことから鍵がかかっていることを確認する。
それから二十分ほど歩くと久しぶりのギルドが見えてきた。朝早いというのに扉の外からでも分かるほど賑わっている声が聞こえてくる。
私は扉を開けて、中に入ると先ほどまで騒がしかったギルドないが急に何事もなかったかのように静まり返る。さらには全員私たちのことをじっと見つめてくるものだから不気味だった。
「私たち、もしかしてお尋ね者か何かになっちゃったのかな?」
「それは無いと思いたいですが、まずは受付の方に会いに行きましょう」
「そうだね」
不安な気持ちを飲み込んで受付の方へ重い足取りを運ぶ。
「あ、みなさん!無事に帰ってきたんですねー!」
「うわ、何々!?」
受付のお姉さんがスタイリッシュにカウンターを乗り越えてこちらへ来た、そう思ったら今度は私の手を掴んでブンブンと勢いよく上下にシェイクしてきた。
うん、以前に会ったときと変わらず元気だということは分かったよ。
「無事、というのはどういうことだ?」
「それはですね、ってあれ、貴女は新しくカノンさんのパーティーに加わった方ですか?」
「ああ、エルフ族のリーゼロッテ・ラビティリスだ。よろしく頼む」
「リーゼロッテさんですね、私はライカって言います、よろしくお願いします。ついでにギルドのメンバー登録もしちゃいますね」
「ありがとう、ライカ」
リゼがお礼を言うと、ライカは何かを思い出したようでどこかへそそくさと行ってしまう。それにしても受付のお姉さんの名前、ライカっていうんだ。知らなかったよ。
少しして興奮気味にライカが戻ってきたかと思えば、手に青く輝く水晶を持っていた。あの水晶には見覚えがある。ギルドに初めて来たときにやらされた魔力検査に使用するための水晶だ。
「カノンさんのパーティーメンバーということは、この水晶を簡単に壊せるほどの魔力量をお持ちなのではないかと思って急いで持ってきました!」
「この水晶で魔力量が分かるのか?」
「はい、水晶に魔力を込めていただければ結構です。さあさあ、どーんとやっちゃってください!」
ライカは期待の目でリゼにやや強引に手渡した水晶を見る。
リゼはライカに言われた通り、水晶に魔力を込めると徐々に水晶は青く輝いて、やがてひびが入り粉々にはならなかったものの半分に割れた。その瞬間にライカの表情は、くじ引きで一等賞を当てたときのような喜びの表情をしていた。
「すまない、割ってしまった」
「いいんですいいんです!この水晶は使い捨てなので気にしないでください!それよりも水晶を割るなんて、流石カノンさんのパーティーメンバーです!」
ライカが嬉々とした表情でリゼにそう言ってるけど、当の本人はその雰囲気についていけず苦笑いしている。
「では魔力検査もメンバー登録に追記しておきますね。あ、話しが脱線してすみません。無事というのは、皆さんが向かったアステール火山に魔王軍四天王のアドラメレクが来たって噂で聞いたんですよ。それで心配だったんですが、みなさんのお顔をもう一度見れて安心しました」
「そうだったのですね、ご心配をおかけしました」
「それで、倒したんですか?」
「えっと誰を、ですか?」
「決まってますよ、アドラメレクですよ。ギルド内ではカノンさんたちが倒したんじゃないかって予想していたんです。ほら、ギルドにいる方々を見てください」
ライカに言われて私たちは周囲を見渡すと、ある者は固唾をのんで私たちの発言を待っており、ある者たちは賭け事をしているので、もしかしたら私たちがアドラメレクを倒したか倒していないかで何かを賭けているんだと思う。
うーん、この場合は正直に言ったほうが良いのか、それとも言わざるべきか、私が悩んでいるとアルカが一歩出てお姉さんにギルドのみんなが待ち望んでいる回答を口にする。
「私たちは」
「私たちは?」
「アドラメレクを見てすぐさま逃げましたよ。勇者ですら倒すことが難しい悪魔を私たちが討伐できるはずないじゃないですか」
と、アルカはさも常識を語るようライカに回答する。
「なーんだ、ちょっと期待してたんですけどね。流石のカノンさんたちでも無理か~、で本当は倒したんですよね?」
「倒してないよ?」
「はいダウト。もう裏は取れてるんですからね、私の情報網をなめないでください、何て言ったってこの私、ライカの以前の職業は…」
ああ、そういえばライカって一つでも疑問が浮かぶと解決するまでとことん追求する人だったね。これ以上はライカには申し訳ないけど時間がもったいないからさっさとクエスト選んだほうがいいよね。
私がそんなことを考えていると、シルフが修行になりそうなクエストをいくつか持ってきてくれた。ありがとうシルフ、貴女は私の救世主だよ。
「じゃあ懐かしいレッドスライムの討伐をやって、その後にスピアー?ってモンスターの討伐に行こう」
「いいですね、ではこの二つのクエストに行きましょうか花音」
「あ、待ってくださいまだきちんとした回答が…」
「ごめんなさい、また今度話すから!行ってきまーす」
こうして私たちはライカからの質問攻めを回避し、クエストの目的地であるレッドスライムが生息する平原へ向かった。
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