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普通の女子高校生が精霊界の王女として転生したようです  作者: よもぎ太郎
第4章 灼熱の勇者
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温もり

「それじゃあ、家具とかキッチン用品、他にも生活必需品を買わないとだね」

「そうですね、では家具屋さんへ行って必要なものを揃えましょう。その他の物については個人で購入するということでいいですか?」

「ああ、問題ない」

「私もそれでいいですよ」

「みんなとお買い物楽しみだなー」


 私たちは家具屋へ行き、組み立て式のベッドやテーブル、それ以外にも必要な家具を購入する。私たちはアルカの身体強化魔法で筋力を強化してもらい、購入した家具を軽々と持ち帰った。アルカ曰く物を運搬するために魔法を使用したのは初めてだと呆れながらに言う。

 持ち帰ってきた家具を組み立て、組み終わったものをどの位置に配置するかなど試行錯誤を重ねるうちに、日はすでに沈んでおり外は街灯に照らされて、私はなんともノスタルジックな気分になった。


「一通りやるべきことは終わりましたし食事にしますか?」

「いいね!じゃあ今日は私が手料理を振るまっちゃうよ」

「カノン、お料理できるんですか?」

「うん、前にいた世界では家でよく料理してたんだ。あと朱莉ちゃんにもお料理を作りに行ってたな」

「アカリとはカノンの友人か?」

「そうだよ、大親友!」


 懐かしいな、朱莉ちゃん元気にしてるかな。朱莉ちゃんのことを思い出したら少しだけ胸がチクチクと痛んだ。前の世界に未練はないと思ってたけど、朱莉ちゃんとまたお話ししたかったな。


「花音、大丈夫ですか?」

 私が感傷に浸っているとアルカが心配そうに声をかけてくれた。アルカだけでなく、シルフとリゼも私の方を見て不安そうな表情をしている。


「大丈夫だよ、ちょっとだけ懐かしいなって思い出してただけだから。私、食材買ってくるね」

「私も一緒に行こう。四人分の食材を買うにはカノン一人では持ちきれないだろう」

「ありがとうリゼ」

「では私たちは部屋のごみを片しましょうか」

「ええ、それではカノン、リゼ、行ってらっしゃい」

「うん、行ってきます」

「行ってくる」


 私とお休みモードなのか髪を下ろしているリゼは食材を買いに商店街まで行く。現在は夕食の前ということもあり、なかなかに賑わっていた。

 私がぼんやりとその光景を眺めていると、リゼの右手が私の左手に沿って触れてから優しく手を握られる。

 これは一体どういう意図で手を握ってきたのかな、私は脈打つ速さを感じながらリゼの方を見る。私の視線に気が付いたのか、リゼは私の方を見てから左手で髪を左耳にかける。その所作はとても美しくて、魅入ってしまっていた。


「どうしたカノン?」

「えっと、今日はなんだか雰囲気が違うなって思って」

 綿がそう答えると、リゼは少しだけ目を見開いてから左手を口元に持ってきて笑みをこぼす。


「ふふ、そうかもしれないな。戦うために外出しているわけではないから気が緩んでいるんだ。」

「そうなんだ。そう言えば私、戦う目的以外でリゼと外に出たの初めてかも」

「言われてみればそうだな、アルカやシルフとは何度かで歩いたことはあるがカノンとは初めてだな」


 シルフの言葉を最後に沈黙の時間が流れる。その間も食材を真剣に選びつつ、でも手は握られていたままだった。

 私たちは食材を買い終え、私は右手にリゼは左手に買い物袋を持って帰路に就く。


「ねえリゼ、どうして手を握ってくれてるのか聞いてもいいかな?」

「ん?ああ、嫌だったか?」

「ううん、そんなことないよ。でもどうして握ってるのか気になっちゃってさ」

「深い意味は特にないんだが、そうだな。カノンが少しだけ寂しそうな顔をしていたから、かな」

「そんな顔してた?」

「してたぞ、親友の話をしたあたりからだな。さしずめ、もう一度会いたいと考えていたのだろう」

「…私って結構顔に出やすい?」

「ああ、他の者にもよく言われるだろう」

「うん、言われる」


 そうそう、朱莉ちゃんやアルカにも表情を読みとられて思っていることがばれちゃうんだよね。そっか、リゼは私が寂しそうにしてるのを気にして一緒に買い出しに来てくれたんだね。でも、手を握るっていう回答ではないよね。

 リゼは夜空を照らしている無数に輝く星々を見上げながら、懐かしむように話し始める。

「私は物心がついたときから両親がいなくてね、祖母と二人で暮らしていたんだ。祖母は私のことをとても可愛がってくれていたのだが、当時の私は父や母がいないことが不満で、祖母にどうして私には父や母がいないんだって文句ばかり言って困らせていたよ」

「へえ、意外だね。今のリゼからは想像できな…いやできるか」


 そう言えば私が悪いとはいえ『エア』でリゼを吹っ飛ばしたことに文句を言っていたことを思い出した。

「そこは想像できない、でいいだろう。それで寂しくて泣いていた時に、祖母は微笑みながら私の手を握ってくれるんだ。手を握られると不思議と寂しくて冷たい気持ちがだんだん温かくなって胸を満たしてくれるんだ」

「そうなんだ、きっと優しくて心が温かいおばあちゃんだから、リゼの心も温かくなったんだろうね」


 リゼは言葉にはしなかったが、私の言葉に静かに首を縦に振った。

「だから私も手を握ってあげればカノンの心が温まると思ったんだ」

「リゼ…」


 リゼは私のために手を握ってくれていたんだ。もう朱莉ちゃんと会うことは叶わないこの冷たい気落ちを優しく温める為に。

 私はリゼの優しさが嬉しくってつい、手を握る力を少しだけ強めてしまった。そのせいか、リゼは少しだけ驚いて私の方を見る。

「あ、ごめん。嬉しくってつい力をこめちゃった」

「いや、いいんだ。私も温かい気持ちで胸が満たされると手を強く握っちゃうんだ」

「ふふ同じだね。リゼ、手を握ってくれてありがとう」


 生きていれば寂しいという感情はいつかまた訪れるだろう。いつかの親友や家族のことを思い出しては心細くなり胸をチクチクとさす痛みが襲ってくる。

 そんなときは周りを見回してみればいいんだ。寂しい気持ちを放り出さず、優しく包み込んで温めてくれる大切な仲間が近くにいるんだから。

 だから、私はお返しにと強めていた手を緩めてから、再び優しく握る。


「カノン?」

「リゼに温かい気持ちをお裾分け。あとね、リゼのおばあちゃんがやってきたことを今度は私がしてあげる。寂しくなったらいつでも手を握ってあげる!」


 私がそう言うと、リゼもありがとうと言わんばかりに手を握り返してくれた。それから少しだけ意地の悪い顔になって私に言う。

「私の祖母は、五千年は軽く生きてきたから、カノンが祖母のようになるにはそれぐらい生きないとな」

「ええ、そんなには生きられないよ」


 リゼの突然の無茶な要求に私が戸惑っていると、リゼは冗談だと一言添えてから私の耳元に顔を近づける。

「もう、カノンから十分すぎるほど温かい気持ちを貰っているよ」

「~っ!?」


 リゼが囁くようにそういうことを言うものだから、照れくさくて、同時に胸の鼓動が早くなるのを感じて顔が熱くなる。

「あはは、顔が真っ赤だぞ」

「あ、赤くなるに決まってるでしょ!急に耳元でそんなこと言われたら、ドキドキしちゃうよ。あー、多分耳まで真っ赤だな、恥ずかしいよ」


 私はこれ以上顔を見られたくなかったので、リゼの左肩にコツンと頭をつける。すると、リゼは身体をビクッと震え上がらせたので私は不思議に思いリゼの方を見る。

 リゼの顔も何故か真っ赤になっている。

「もう、どうしてリゼまで顔を真っ赤にしてるの?」

「カノンが急に身体を寄せてくるからだ!照れない方がおかしいだろう!」

「手を握るのは照れないの?」

「普通に繋ぐ分には照れないな」

「じゃあこれは照れるのかな?」


 私が指と指を絡ませてリゼの手をぎゅっと握る。リゼの細い指がしっかりと私の指の感覚に伝わってくる、はっきり言って最高です。

「おい、カノン!どうして指を絡めるんだ!?」

「んー、最近シルフのキャラが濃いせいで、こういうスキンシップしてないなーと思ったから、かな」

「理由になってない!」

「家に帰るまででいいから、お願い!」

「分かった、家に帰るまでだぞ」

「ありがとう、それでご飯食べ終わったらまた手を繋ごうね」

「分かった、ってさっきといってることが違うぞ!」

「だめ?」


 私は首を傾げつつリゼの顔を覗き込むように見てお願いをしてみる。

「そんな風に言われたら、断れないじゃないか。夕食後も手をつなぐのは流石に恥ずかしいから、時々ならいいぞ」

「えへへ、ありがとうリゼ」


 気が付くとすでに『フォルテューナ』の目の前まで来ていた。最上階にある私たちの部屋までくるとちょうど外に出る用事があったのか、アルカとシルフが玄関から出てきた。

「ただいまー」

「おかえりなさいってどうして二人とも手を握ってるんですか!しかも恋人つなぎで!」

「これにはちょっとした訳があってだな」


 シルフの指摘にリゼがおろおろとしていると、アルカがシルフの方を向いてから人差し指を口まで持ってきてしーっとジェスチャーをする。

「ちょっとシルフ、大声出すと近所迷惑になりますからボリュームを下げてください」

「でもー、でもー」

「シルフも後で手、繋ごうね」

「はい、このシルフ手をピッカピカに洗って待ってます」

「全くもう、それより花音がいつもの調子に戻ったようで良かったです」

「やっぱりアルカも気づいてた?」

「カノンは顔に出やすいので分かりますよ」

「シルフにもばれてたか。そういえばアルカたちはこれからどこか行くの?」

「はい、食器類が足りないので買い足ししようかと思いまして」

「そうなんだ、じゃあお料理作って待ってるね」

「楽しみにしてます」

「それでは行ってきますね」

「「いってらっしゃい」」


 アルカとシルフが買い足しに行くのを見送ってから、私たちは早速家に入り、食事の用意をする。リゼが手伝いたいと言ってきたので一緒に料理をすることになった。

リゼは一人旅の経験からか、手際が良くスムーズに調理を終えることができた。

あとは食器に料理を並べるだけ、というところでちょうどいいタイミングでアルカたちが帰ってきた。

「ただいま戻りました。見てください可愛い食器をたくさん買ってきたんですよ!」

「わぁ、お皿に動物の絵が描いてあって可愛いね。お料理を乗せるの躊躇っちゃうな」

「四人お揃いマグカップも買ってみました。四つとも色が違うので早い者勝ちですよ」

「ふふ、賑やかで楽しいな」

「うん、みんなと一緒だから本当に楽しいね」


 私とリゼはアルカたちが買ってきてくれた可愛いお皿に料理を盛り付けて、テーブルにそれらを並べた。

 そして私たちは各々の椅子に腰をかけて、食事を楽しんだ。

 食事を終え、各自で気ままに時間を過ごしてから寝室へと向かう。

 私はドアに手をかけると、あることに気が付く。ドアの大きさは二メートルないぐらいでそこは別段変ってはいない。不思議に思ったのはドアノブが二つあること。一つは私の腰より少し高めの位置にあり、もう一つは私の頭の上にあった。うーん、上にあるドアノブは何のために使うんだろう。

今日は疲れちゃったし、これを考えるのは明日にしよう。私はドアノブに手をかけてからドアを押し部屋に入り明かりを点ける。

私の部屋は引っ越ししたばかりとはいえダブルベッドとタンスしか置いてなくて、かなり殺風景だった。だけど、これから少しずつ家具もそろってきて立派なお部屋になるんだろうな。

私は明かりを消して、ベッドに潜りこむ。

…あれ、ドアの方にロフトがあるな。今まで気が付かなかったよ。みんなの部屋にもロフトあるのかな。聞いてみよう。

それにしても今日は新しい発見がたくさんあな。みんなとお買い物や久しぶりに楽しくご飯を食べれて幸せだった。


 こんな毎日がずっと続くように、明日から修行を頑張ろう。


 きっと私は疲れていたんだと思う、ベッドに入ってからものの数分で眠りについた。

ご覧いただきありがとうございます。

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