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普通の女子高校生が精霊界の王女として転生したようです  作者: よもぎ太郎
第3章 四大精霊・イフリート
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鎖を視て、断ち切る手助けをする力

 私たちはアルカが拠点にしている宿に辿り着いた。

 アルカは受付の方に借りている部屋の鍵を借りて、拠点に向かう。

部屋の前まで来て、アルカは借りた鍵を用いてロックを解除し、ドアノブを倒しつつぐっとドアを押す。

扉が開かれると、目前に灰色のカーペットが敷かれている廊下が見えた。私はアルカたちが借りている部屋に入り廊下を抜ける。

大広間にはダブルベッドが二つ並んで置いてあり、入り口側のベッドの上には何枚か紙が散らばっていた。

何だろうと思い、私はそれを一枚だけ拾い上げる。そこには色鉛筆で描いたのだろうか、黒い髪に花が咲いたような笑顔をしている美少女が描かれたいた。

「これってもしかして」

「わー!恥ずかしいので見ないでください!」


 シルフは目にも止まらぬ速さで私から似顔絵を取り、さらに散らかっていた紙を拾い上げた。今の早さ、リーゼロッテに匹敵するんじゃないかな。それから丁寧に紙の向きを整えて、円筒形の茶色の小包にそれをしまい込んだ。

「シルフって絵を描くの上手なんだね、驚いちゃった」

「そう言っていただけるのは嬉しいのですが、あまり他の人に見せられるものではないですよ」

「そうかな、私の似顔絵じゃなければ見せられると思うけど」

 

  私はシルフの意外な才能を目の当たりにし感心していたけど、すぐに我に返る。今は私が気を失ってから退院するまでに何があったのか話を聞かないと。

 ダブルベッドとは反対の方向にテーブルが一つと向かい合うようにイスが二つずつ並べられていた。私たち各々椅子に腰かける。私の隣にはリーゼロッテが座り、私の正面にはシルフが座り、リーゼロッテの正面にはアルカがテーブルの上に、畳んだハンカチを座布団に見立ててその上に座る。


「それじゃあ、今までのことを聞かせてくれるかな」

「はい」


 アルカは私がいない間にどんなことを話したのか丁寧に説明してくれた。

 イフリートが私のことを認めて炎の加護を与えてくれたこと、リーゼロッテが私のために必死になって病院を探してくれたこと、アルカが自身の秘密をシルフとリーゼロッテに話したこと、諸々の費用を稼ぐためにリーゼロッテが力を貸してくれていたこと。


「そっか、そんなことがあったんだ。心配かけさせちゃってごめんね」

「いえ、むしろ花音に大変な思いをさせてしまってすみませんでした。これからは花音にだけ負担をかけさせないように私たちも強くなります」


 私も、また気を失ってアルカたちに心配をかけさせないように頑張ろうと決心したところで、リーゼロッテが急に立ち上がり私に向けて頭を下げる。

「ど、どうしたの!?」

「申し訳なかった!」

「えっと、どういうこと?」

「私は復讐にばかり目を向けてカノンに迷惑をかけてしまった。本当に申し訳ないことをした」

「そんな、私は迷惑だなんて思ってないよ」

「だが…」

「リーゼロッテ、顔を上げて?」


 リーゼロッテが私の言葉を素直に聞いて顔を上げると同時に、私は椅子から腰を離して立ち上がる。そして、リーゼロッテの両手を握ってとびっきりの笑顔を見せてあげた。

「今の私、迷惑そうな顔してる?」

「い、いや、していない」

「うん!だって私、リーゼロッテのこと迷惑だなんて思ってないもん。むしろ感謝してるぐらい」

「私は、感謝されるようなことはしていないと思うが」

「えーしてるよ。例えば、アドラメレクの強さに圧倒されて、すごく挫けそうになっちゃったときに、リーゼロッテが先陣を切って戦ってくれたこととか。リーゼロッテが絶望の糸を断ち切ってくれたからまだ頑張れるって思えたんだよ。ありがとう」


 私はリーゼロッテに感謝を告げると、リーゼロッテはとても照れちゃったのかな、プイッとそっぽを向いてしまった。それから再び私の方に視線を戻し、先程の罪悪感に苛まれていた表情から変わって、優しい笑顔に変わっていた。

「私の方こそ共に戦ってくれてありがとう」

「えへへ、どういたしまして。っとそういえば気になってたことがあるんだ」

「ん、何だ?」

「最終的に復讐したかったのってアドラメレクだよね。でも、戦いの中盤ぐらいからリーゼロッテはちゃんと周りが見えていたというか、復讐に囚われていなかったけど何かきっかけでもあったの?」

 私の問いにリーゼロッテもそう言えばとそうだなと考え込む。私たちの様子を見てアルカがその疑問について答えてくれた。

「それはイフリートの仕業ですね」

「イフリート?イフリートががリーゼロッテに何かしたの?」

「ええ、私たちがイフリートに会ったときリーゼロッテはどのような状態だったか覚えていますか?」

「たしか、ボロボロの状態だったよね」

「そうです。何故そうまでしてリーゼロッテを追い込む必要があったか気になりませんか?」


 言われてみると気になるかな、あのときは単純にイフリートが精霊を本当に裏切ったものだと思っていたから深くは考えていなかったな。何だろう、喧嘩がしたかったってことしか思いつかないな。ごめんね、イフリート。

「まずイフリートの力について説明します。イフリートは炎を操る以外に特殊な力を所持しています。それは因果の鎖を視る力とそれを断ち切るための手助けをする力です」

「因果の鎖、とは何だ?」

「因果の鎖とは、過去の出来事が起因して現在の状態、例えば悲しみや怒り、復讐といった感情によりその者の生を縛る鎖のことです。他にも私が花音に施した能力を封印する鎖も見ることができます」


 イフリートってそんなことができたんだ、知らなかった。ということはアルカやシルフも何かしら特殊な力を持っているのかな。

「では、私はイフリートの力によって因果の鎖を断ち切られた、ということか?」

「いえ、イフリートには鎖を断ち切る力はありません。あくまで手助けをするだけです」

「どういうことだ?」


 リーゼロッテの問いにアルカは申し訳なさそうな顔をしていた。どうしてそんな顔をしているのか私とリーゼロッテには分からなかったけど、どうやらシルフは何故アルカがそのような顔をしているのか心当たりがあるらしく同じように申し訳なさそうな表情をしている。アルカはコホンと一度咳払いをしてから、リーゼロッテの問いに対して回答をする。

「それはですね、イフリートが鎖を断ち切るために最善だと思ったことをするのです。まあほとんど実力行使なのですが。リーゼロッテの場合であれば、聞く耳を持たないほど復讐に囚われていましたよね」

「イフリートはリーゼロッテが話を聞いてもらえる状態にするために、行動不能になるまで攻撃したんだね…」

「そういうことです」


 ここで、アドラメレクが自身の正体を話したときにイフリートが呟いていたことを思い出した。

やっと来たか、とイフリートは言っていた。まるで私たちとアドラメレクが集結したことで全てのカードが揃ったと言わんばかりに。

「話を続けますね。イフリートは多分アドラメレクが来ることを予想していました。そしてアドラメレク、つまり鎖の根源が現れ半ば強制的に話が聞けるようになったリーゼロッテは真実を知ることになります」

「あの時は、カノンに酷いことを言ってしまったな。申し訳ない」

「ううん、大丈夫だよ…あ、そっか、そういうことか」

「気付いたようですね。そう、イフリートは場を作り、鎖を断ち切る手助けをしました。そうして花音はイフリートの思い通りリーゼロッテの鎖を断ち切ったわけです」

「うわー、何か釈然としないな」

「同感だ、全てはイフリートの筋書き通りだったというわけか」

「まあ他にもやりようはあったと思いますが」


 アルカの言う通りだよ、リーゼロッテを戦闘不能にする必要はないと思う。でも、他に方法あったのかといわれるとなかなか思いつかないのも事実なので、やるせない気持ちになった。

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