退院
アルカたちと感動の再会を果たしてから数日後、辛くも楽しかったリハビリがようやく終わり、私は退院することになった。
大変だったリハビリを乗り越えられたのは、アルカたちやリハビリをしている患者さんの応援や、それだけでなくミーシャさんの献身的なサポートが大きかったと思う。ミーシャさんはリハビリのときだけでなく、私の病院での生活でも本当にお世話になった。
私はピンク色の患者衣から、この日のためアルカたちが仕立ててくれた制服を身にまとい、ミーシャさんと共に病院の出入口に向かう。
出入口に向かう途中、共にリハビリを頑張っていた患者さんたちが私たちの方へ来てくれた。
「カノンさん、貴女のおかげで今まで辛かったリハビリが楽しくなったんだよ。不謹慎なことは重々承知しているが、言わせてほしい。この病院に来てくれて本当にありがとう」
「そんな、私もみなさんと一緒に頑張れて楽しかったですよ、ありがとうございました。早く退院できることを祈ってます」
「ああ、ありがとう」
それから一言二言しか話したことのない職員の方たちにも、元気をもらったとお礼を言われた。そんなこと言われたら寂しくなっちゃうね。
とうとう病院の出入り口まで来た。私は今までお世話になったことを伝えるために、感謝の気持ちを込めてお礼をする。
それからミーシャさんと共に外へ出ると、そこには花束を持ったアルカ、シルフ、そしてリーゼロッテが笑顔で出迎えてくれた。
アルカが持っている花束は私の退院祝いのために送るものではない。この花束はミーシャさんにお礼をするためのものだ。仕事とはいえ、とてもお世話になったので私はミーシャさんに何かお返しをしたいと考えた。そこで思いついたのが花束だった。
私はアルカたちに頼んで花束を買って来てもらい、それをミーシャさんにサプライズでプレゼントをした。
ミーシャさんは最初、とても驚いた顔をしていたけれど、すぐに笑顔になってくれてとても喜んでくれた。
患者さんから贈り物を貰ったのは今回が二回目だと嬉し涙を流しながら言う。
ミーシャさんから、お返しにと私に退院祝いとしてピンク色の花の形をした小さくて可愛いヘアピンを貰った。
「わぁ、すごく可愛いですね」
「ええ、カノンさんにとっても似合うと思います」
「ミーシャさんありがとうございます。早速つけてみてもいいですか?」
「もちろんです、是非着けてください」
「やったー!」
私は可愛いヘアピンを右側頭部に着ける。
「どうですか、似合ってますか?」
「とても似合っていますよ」
「えへへ」
私は似合っていると言われてたことが嬉しくてついそんな声が出てしまう。アルカたちの方を向き似合ってるかな、と聞いてみるとみんな頷いてくれた。
「とても似合っていますよ」
「ああ、とても可愛いぞ」
「絵画にでもして私の森に飾りたいぐらいです」
「それはちょっと恥ずかしいから止めてね」
その後、私はミーシャさんにお辞儀をする。病院以外でまた会うことを約束して私たちはその場をあとにした。
「ねえアルカ、この後はどうするの?」
私は退院してからのことをアルカから何も知らされていなかったので確認をしてみる。
「今後のことについてですが、私たちが拠点にしている宿で話し合いましょうか。そういえばシルフ、部屋に散らかっている花音の似顔絵ですが、ちゃんと整理するか捨ててくださいね?」
「ちょっとアルカ!カノンの前で似顔絵の話はしないと約束したじゃないですか!重い女だと思われたらどうするんですか!」
私がいない間にシルフは私の似顔絵を描いてたのか。私がいなくてシルフに寂しい思いをさせてしまったのは申し訳ないけど、流石にその想いはちょっと重いかな。
「今更だと思うが…」
リーゼロッテはさらっとそういうことを言うので、シルフは私の味方をしてくれるのはカノンだけです、と言って泣きついてくる。いや、似顔絵の件は嬉しいけども、対処しきれないよ。
「ま、まあ兎に角宿に行こっか。シルフが描いた私の似顔絵も気になるし」
「もう、カノンまでからかわないで下さい、本当に寂しかったんですよ。それにアルカたちは意識してるのか分からないですけど、私のことを散々いじり倒してくるので大変だったんですから」
アルカだけでなくリーゼロッテまでシルフをいじっていたのか。シルフには悪いけどその光景を見てみたいな。アルカは意識していじっているのだろうけど、リーゼロッテはきっと無意識に言ってるんだろうなと思う。
「ん?ちょっと待って!」
私は慌ててアルカたちの前に立って歩みを止めるように促す。ホイッスルがあったら何度もピーピーと鳴らしていたところだよ。
今の会話で気になることが一つ、それもとびっきり気になることがあったんだけど。
「どうしたんですか?」
「いやいや、え、いつからシルフに様付けするの止めたの?」
私の記憶では、確かアルカ自身の素性を隠すためにシルフや他の精霊に対して様付けをしていたはずだけど。私の問いにアルカとシルフは顔を合わせて、お互いに首を傾げてから、アルカが口を開く。
「私の正体をシルフとリーゼロッテに話したって言いませんでしたっけ?」
「聞いてないよ!いつの間に話してたの!?」
私が起きるまでにどこまで話が進んでいるのだろうか、空白のページを埋めるためにも宿で根掘り葉掘り聞かないと。
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