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普通の女子高校生が精霊界の王女として転生したようです  作者: よもぎ太郎
第3章 四大精霊・イフリート
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リハビリの日々

 リハビリテーション、それは言葉とは裏腹にとてつもなく過酷なトレーニングだった。


 私の想像していたリハビリテーションは、女医のミーシャさんに手取り足取りご指導いただき、ときどきミーシャさんに私なりの愛のスキンシップをして怒られたりして楽しくやるものだと思ったいた。


 だけど現実は違った。

 まず、リハビリテーションを行うための部屋があるんだけどそこへ行くまでが大変だった。

ミーシャさん曰く私は二週間ほど眠っていて、その間は当たり前だけど呼吸をする以外身体を動かしていなかった。つまり全身の筋力がかなり衰えていたのだ。また呼吸器官も必要最低限しか活動していなかったため、腕に力を入れようと酸素を多く吸ったものだから肺がビックリして、痛みが生じとても苦しかった。それに痛みを堪えて酸素を吸っても腕にも力がなかなか入らないので、ミーシャさんに助力してもらわないと身体を起こすことすら困難だった。

 体を起こすのがこれだけ大変だったのだから、普通に立つことはさらに困難を極めた。なんといっても足に力が入らない。

ミーシャさんの支えてくれているにも関わらず、足はがくがくと震えて立つことができなかった。たった二週間身体を動かさなかっただけで、こんなに筋力が衰えるなんて知らなかったよ。


 あと、一つだけ絶望しだけど犯罪者にならずに済んだことがあった。それはある日のこと、身体を支えてもらっているときに、ちらっとミーシャさんの左薬指にきらきらと光る指輪を見たのだ。

「あの、もしかしてミーシャさんはご結婚されているのですか?」

「ええ、そうなんです。式も挙げたばっかりなんです」

私は既婚者だということを知り絶望したと同時に。既婚者にうっかり手を出すところを未然に防げた。今日は寝る前に私の観察力を褒めてあげてから寝よう。。


 リハビリテーションが始まってから一週間が経ち、やっとミーシャさんの支え無しで立てるようになった。歩くにはまだミーシャさんの支えが必要だけど、初めの頃より確実に一歩前進した。

ここまで来るのに何度も挫けそうになった。だけどミーシャさんやリハビリをしている患者さんに応援してくれて、そしてアルカたちに一刻も早く元気な姿を見せたい、その一心が私を何度も奮い立たせた。

 ちなみに私が目覚めてから一度もアルカたちと顔を合わせていないが、それは入院費や治療費を稼ぐために泊まり込みのクエストを行っているからだとミーシャさんに教えてもらった。

 そろそろ帰ってくる頃だと言っていた。早くみんなに会いたいな。


 さらに三日が経ち、私はようやく支え無しで歩けるようになった。


「ミーシャさん、何とか歩けるようになりました!」

「遂にここまで来ましたね、お疲れ様でしたカノンさん!」

「頑張って良かったー、っとと」


 私は嬉しくて気が抜けると、途端に足に力が入らなくなりよろめいてしまった。歩くには集中しないと今みたいによろめいてしまうけど、支え無しで歩けるようになったことは素直に感動している。


「カノンさん、少し休憩しましょうか」

 ミーシャさんはよろめいた私の身体を支えて、近くにある長椅子まで一緒に歩いてくれた。


「ミーシャさんありがとうございます」

「いえいえ、そうだ飲み物持ってきますね」

 そう言ってミーシャさんは水が入ったコップを持ってきてくれた。私はミーシャさんからコップを受けとり、乾いた喉を潤おす。その姿をまじまじとミーシャさんが私ことを見てくる。


「あの、どうしたんですか?」

「カノンさんって、意外と真面目な方ですよね」

「意外ってどういうことですか!?」

「だって、病室にいる時のカノンさんっていつも下心丸出しな発言ばかりしてくるじゃないですか」

「ばれてましたか」

「ばれない方がおかしいですよ。でも、リハビリになるとすごく真剣な顔で頑張っていて、やるときはしっかりとやるんだなと思いまして」

「だって、アルカたちに一日でも早く元気な姿を見てほしいから。それにミーシャさんやリハビリをしてる患者さんを見たら、情けない顔なんてできないですよ」

「そうだったんですね。そうだ、どうして他の患者様がカノンさんのことを応援していたか知っていますか?」

「いえ、知らないです」

「それはですね、あんなに頑張っている姿を見せられたら応援せずにはいられないって仰っていたんですよ」

「私、そんなに必死な顔してました?」


 私はもう一口水を飲んでから、ミーシャさんの続きの言葉を待つ。

「してましたよ。それにカノンさんのやる気が患者様だけでなく職員にも伝染していって、以前よりも活発になっているので、病院内ではもっぱらの噂にもなっているんです」

「そんなことになってたんですか。嬉しいような恥ずかしいような」

「カノンさんにはみんなを元気にさせる才能があるのかもしれませんね」

「元気にさせる、才能」


 才能、か。最近、才能について嫌なことがあったので素直に受け止めきれないのが心苦しい。

「はい。誰にでも出来そうで、やろうと思っても意外とできないことですから。自信を持っていいと思いますよ。あ、そうでした。院内では下心のある発言は自重してくださいね。それも噂になってますから」


 これは本当に恥ずかしい案件だ、院内ってことは知らない人はほぼいないってことだよね。それはミーシャさんの言う通り自重しなければ。

 話がひと段落し、会話が途切れてしまったので、私はミーシャさんに気になっていたことを聞いてみる。

「ミーシャさんはいつご結婚されたんですか?」

「ちょうど二ヶ月前ですね」

「新婚さんだったんですね」


 どおりで指輪がきらきら光っていたわけだ、新婚なら納得ができる。

 こんなに美人で患者さんや同じ職場の仲間に気を配れる人が奥さんだなんて、旦那さんが羨ましいな。

「旦那さんに毎日お食事を作ってあげたりするんですか?」

「えーっと、旦那さんじゃないです。お嫁さんです」

「お嫁さん?」

「はい、同性婚したんですよ」

「あ、そうだったんですね」


 そうなのか、同性婚なのか。え、そうだったの!?

 私がいた世界で同性婚は徐々に受け入れられてはいるものの、未だに風当たりが強い。だからそこまで親密ではない私に同性で結婚したと言うものだから、内心驚いていた。何とか平常を装ってみるけどミーシャさんには簡単に見抜けれてしまう。


「意外でした?」

「えっと、そうですね。この世界では一般的なんですか?」

「異世界から来た勇者様と同じことを言うんですね」

「勇者も病院に来るんですか!?」

「来ますよ、稀にですけどね。それで先ほどの問いに答えるとこの世界では同性婚は一般的ですよ。異種間での結婚も普通にあります。むしろそういった多様性を受け入れられない者の方が珍しいです」

「なるほど、勉強になります」


 偶然にもミーシャさんのおかげでこの世界の常識を学ぶことができて良かった。それから、この世界で生きていくのだからこういった常識を身につけなくてはいけないと思い知った。

 そろそろリハビリを再開しようと思った瞬間、ドアの向こう側から複数のにぎやかな声がだんだん近づいてくるのが聞こえてきた。それに、この声には聞き覚えがある。

 ドアが開かれそちらを見てみると、たった三週間ほどしか経っていないのに数十年ぶりに会ったような懐かしさが込み上げてきた。ドアの方にはアルカとシルフ、そしてリーゼロッテの姿があった。


「花音、目が覚めたんですね」

「うん。あれ、おかしいな。私今すごく元気なのに、みんなが、歪んで、見えるよ…」

「カノン...!」


 シルフの駆け寄ってくる音が聞こえたと思ったら、私のことを優しく抱きしめてくれた。


「良かったです、目が覚めて、本当に良かったです!」

「シルフ…」


 続いてアルカとリーゼロッテも私のことを両腕で優しく包み込んでくれた。


「私、もう、みんなとお話しできないって、思ってた…」

「大丈夫ですよ、私たちはここにいます。花音と同じ場所にいます」

「これまでも、これからも私たちと楽しくお話ししましょう、カノン」

「…うん、うん!」


 大切なみんなとまた顔を合わせるってこんなにも素敵なことなんだ。私は今日のことを一生忘れない。みんなに会えたことが嬉しすぎて二、三十分ぐらい泣いていたこと、それから。


 ―――大切な人たちと再び会えた暖かな瞬間を。

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