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普通の女子高校生が精霊界の王女として転生したようです  作者: よもぎ太郎
第3章 四大精霊・イフリート
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Side-S-1 (シルフ視点)

「カノンの意識がなくなってからもう二日は経ったんだな」

「…全く、お寝坊さんですね」

「そうですね。でも花音は沢山頑張ってくれましたから、今はゆっくり休んでほしいです」


 私、四大精霊の一人シルフとアルカ、リーゼロッテは現在、ポートワールにあるカノンの病室に来ています。というのも私たちはアドラメレクとの戦いの後、カノンを治療してもらうためにポートワールにある病院でお世話になっています。


―――私たちがカノンの病室に訪れる一時間と二日前のこと。

 カノンはアドラメレクとの戦いで上級魔法を使い、力を使い果たしたのか顔が地面に吸い寄せられるようにその場で倒れました。私は慌ててカノンの方へ駆け寄り身体をそっと起こしてみると、私は思わず言葉を詰まらせてしまいました。なぜなら今のカノンの姿は、見ているこちらの心臓ががギュッと握られ息苦しくなるほど悲惨な状態だったからです。

 魔力が枯渇したカノンは、今まで魔力によって守られていた身体が火山の熱に耐えられず所々火傷や、呼吸すらままならない状況。その様子を見たイフリートはカノンに近づき、手をかざします。瞬間、イフリートの手が輝きを放ちその光はカノンを包み込みました。この風景を私は知ってる、というよりも私もカノンにしたことがあります。

 今イフリートが行っているのは加護の受け渡しです。私たちは死闘の末アドラメレクを倒し、カノンは見事にイフリートの試練をこなしたので加護を与えたのでょう。

 イフリートの加護を受け取ったカノンは、熱に耐性がついたのか先ほどよりも呼吸は安定してきましたし、皮膚を徐々に侵食していた火傷が収まりました。

 しかし、体力や魔力が回復したわけではなく、カノンが瀕死の状態であることは変わりません。


 比べるべきではないですが、私も今回の戦いでかなり無理をして魔法を扱っていた両腕がボロボロになっていました。しかしカノンは両腕だけではなく、全身にまるで鎌鼬に負わされたかのような切り傷が見受けられました。

 その切り傷から血が流れだし、それだけじゃなく体内にも傷を負っているのでしょう、口からも血を流していました。


 そんな状況を見て私はただただ、カノンのことを呆然と見ることしかできませんでした。

 

 どうしてこんなに無茶したのか、いやどうしてここまで無茶をさせてしまったのかと自分の無力さを憂いて、だんだんと視界が滲んできてきました。

 アルカやリーゼロッテも同じ気持ちだったのでしょうか、二人とも謝り涙を流しながらカノンに寄り添っていました。

 すると、イフリートがいきなりひびが入るほどの力で地面を踏みつけ、私たちの注意を引きつけました。


「おい、いつまで辛気臭えことしてんだ。用が済んだならそいつを連れてさっさとこの火山から出ていけ」

「イフリート!貴方や私たちをこんなになるまで頑張ってくれたカノンにその言い方はないのではないですか!」

「ああ?何勘違いしてるか知らねえが、こいつが邪魔だからって意味で言ったんじゃねえぞ。ここにいても治療も何も出来ねぇんだ。だったら今にも死にそうなこいつを治療できる場所までさっさと運んでやれって、そういう意味で言ったんだ」


 そういうことだったんですね、ならせめてもう少し言葉を足してほしいところです。まぁ、マイナスの意味でイフリートの言葉を受け取ってしまった私にも非はありますが。

 イフリートの言葉にはっとさせられたアルカとリーゼロッテは未だに零れ落ちる涙を拭い、立ち上がります。


「イフリート様の言う通りですね。私は回復魔法に心得はありますが応急処置程度しかできません。ここから一番近いポートワールに戻ってちゃんと治療していただきましょう」

「だがどうやって戻るんだ?ここから一番近いと言ってもかなり距離があるぞ」

「でしたらここへ来た時と同じ方法で戻るまでです」


 カノンが『エア』でここまで私たちを飛ばしたように、今度は私が『エア』でポートワールまで飛ばせばいいのではないかと考えました。


「その方がいいですね。ではカノンに回復魔法を使用した後、『エア』の衝撃で怪我をしないようにみなさんに身体強化魔法を使用します」

「ええ、そして私が全力で飛ばせば小一時間ほどで着くはずです」

「分かった、シルフは腕に怪我をしているからカノンは私が抱えていこう」

「ありがとうございます、リーゼロッテ。お願いします」


 アルカが回復魔法でカノンを治療している間に、『エア』の精度を高めるために私は集中していました。多少の誤差によって生まれた無駄な時間がカノンの生死を分けると思ったからです。

 アルカはカノンの応急処置が済んだとのことで、私にいつでも行けますと報告してくれました。


「それでは行きましょうか。まずはリーゼロッテとカノンを飛ばして、次は私たちです。アルカは私にしっかりと服を掴んでいてくださいね」

「分かりました」

「準備は出来てる、シルフのタイミングで飛ばしてくれ」


 私は『エア』でカノンを背負っているリーゼロッテを飛ばし、続いて私自身とアルカを飛ばす準備を始めます。

 するとイフリートが私の真横に来たので、そちらに顔を向けるとイフリートは私の視線を感じているはずなのにこちらに見向きもしません。

 何しに来たのでしょう、そう考えているとイフリートはリーゼロッテが飛んだ方をじっと見つめたなが口を開きました。


「次期精霊王女のこと、頼んだぜ」

「貴方に言われるまでもありません、それからありがとうございました」

「…何のことだ?」

「私が気づかないと思っているのですか?アドラメレクの魔方陣をカノンが破壊した後に、アドラメレクは炎の防御壁を張っていました。ですが貴方は何もしていないふりをして、本当は最後にアドラメレクが防御壁を張ることを予想して魔力を溜め、防御壁を打ち破りました。違いますか?」

「何のためにそんなことをする必要があるんだ?俺は次期王女には手を貸さねえって言ったはずだ」

「どのタイミングかは私にも分かりませんが、カノンのこと、気に入ったのでしょう?だから貴方はカノンを守るために助けた、といったところでしょうか」


 イフリートは私の推測に対して、何やら不満そうに鼻を鳴らしてそっぽを向きました。

「はっ、何のことだか分からねえな」

「そうですか、ではそういうことにしておきます。兎に角、貴方が裏切っていなくて良かったです」

「当たり前だろうが、アルカディウス様は俺たちの誇りだからな。万が一でも敵になることはねえ」


 私はイフリートの心強い言葉を聞き、『エア』でリーゼロッテの後を追いました。

 『エア』で飛んでいる間、アルカと一緒にいましたが特に話をすることもなくポートワールに辿り着きます。そして、私たちは先についているはずのリーゼロッテとカノンがどこへ行ったのか探しに行ったのです。

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