封印解除
無条件で魔法が使えるって、でもアルカはそんなことを一言も言っていない。もしかしなくてもアルカは私に嘘をついている。
イフリートは考えるように握りこぶしを顎に当て、すぐに何か思いついたのか私の背中に右手をかざし何かを探り始める。
「...なんだこりゃ、封印がかかってるじゃねえか。しかも複雑な術式で簡単に解けないようになってやがる、こりゃクソ妖精お前の仕業か?」
イフリートの問いにアルカは観念したように、そして私の方を向き申し訳なさそうに話し始める。
「そうです、私の封印術式です」
「アルカ、どうして」
「それは花音、貴女を守るためです」
「私を、守る?」
「おい、今そんな悠長に話してる暇なんかねえぞ!さっさと封印を解きやがれ!」
「...分かりました、理由は後程話します。花音」
「ん?」
「決して無茶しないでくださいね...封印解除!」
アルカの言葉とともに私の身体の周りに魔法の文字が表示されぐるぐると回っている。初めは魔法の文字の横にバッテン印が表示されていたが次第にバッテン印から丸印に変換される。きっと封印が解かれている証なのだろう。
丸の数が増えていくにつれて私の身体にも変化が起きる。まるで眠っていた身体中の細胞という細胞が激しく動き回るような感覚で、多分封印されていたあらゆる魔力が解き放たれたんだと思う。
そして、頭の中には初級魔法以外の呪文がいくつも浮かび上がってくる。その中で私はとりあえず中級魔法の呪文を口にする。
「『ホーリーシャイン』!」
私が中級魔法を口にした瞬間、フルパワーで『ライト』を使った時より魔力の消費量が激しく消耗していくのを感じた。威力は確かに上げっているけれど、その分魔力を消費するってことか。
「いいねぇいいねぇ、急に威力が増したのは驚いたけど、そんなのじゃ僕にはとどかないよぉ!」
「三人がかりでも押し返せないのか!?」
「カノン、このままでは...」
「大丈夫、こんなところでみんなを死なせないから」
「...っ!花音ダメです!無茶しないでと言ったはずですよ!」
アルカは私が今からしようとしていることを察して止めに入ってくる。
「ごめんね、でも私が無理をしなかったからみんながいなくなっちゃうから。それに、守れる力があるのにそれを使わない手はないしね」
「ですが、それでは花音の身体だが!」
「どういうことですか?」
シルフは心配そうに私の方を見てくる。私は今から上級魔法を使おうと考えてるけど、アルカの想像通りこの魔法を使ったら多分身体がもたない。中級魔法ですら身体が悲鳴を上げているのに上級魔法なんか使ったら身体が壊れちゃうんじゃないかな。
だけど、みんなを守れるならそれでもいいと思った。
だって、私にはみんなを守れるだけの力があるんだから。
「それじゃとっておきの魔法を見せてあげるよ」
「花音!お願いだからやめてください!」
「ごめんねアルカ、そのお願いは聞けないよ。大丈夫、少しだけ頑張るだけだから」
アドラメレクは私たちの会話を聞いて何故かケラケラと笑う。
「もしかしてぇ、僕の魔法を押し返すつもりぃ?無理無理ぃ、どんな魔法も全部焼き尽くすからねぇ」
「だったら私は!どんな魔法も光で飲み込むだけだよ!『セイクリッドバスター』!」
私が上級魔法を詠唱した瞬間、魔力の消費量が大きすぎて意識が飛びかけた。この魔法、想像以上に辛い。身体中の痛みが中級魔法を使ったときの比じゃないし、使用された魔力を生成しようと一つ一つの細胞が暴れまわっているようで体温が尋常じゃないくらい上昇しているのが分かる。
その分、威力は目に見えて絶大な威力を示している。
先ほどまでは徐々に炎の魔法に押されていたけど、今では逆に押し返している。太陽の魔法は私の上級魔法に飲み込まれアドラメレクに迫っている。アドラメレクはその光景に驚きと焦りを混ぜた表情をしており、威力をさらに上げてきたがそれでも私の魔法を焼き尽くすことはなかった。
「くそぉ、何なんだよ君はぁ!こんな魔法を使えるなんて今までのは僕をあざ笑うためのフェイクだったって言うのぉ!?」
「フェイクじゃ、ないよ。この魔法を使ったの、今回が初めてだし、げほっ」
アドラメレクさん、そろそろ折れてくれないかな。口が鉄の味と匂いで充満しているのが分かる、もう身体が持ちそうにない。
「リーゼロッテ!カノンにだけ任せてはいられません、私たちも身体中の魔力を振り絞りますよ!」
「ああ分かっている!すまないカノン、もう少しだけ頑張ってくれ...!」
「うん、二人とも、ありがとう...」
「くそおおおぉ!」
私の魔法はアドラメレクの魔方陣を跡形もなく破壊し、炎の防御壁を張る魔力さえ残っていないアドラメレクにシルフとリーゼロッテの全力の遠距離魔法が直撃する。
アドラメレクは次第に足元からだんだん黒い霧となって消えていく。
「やった、かな?」
私は力を使い果たしてその場に倒れこむ。魔力が切れた証拠なのか息を吸うと灰が焼かれたように熱くって、だけどもう身体中の痛みが辛すぎて声すら上げられない。アルカたちが私の近くで何か言っているけれどうまく聞き取ることができなくて、それから視界も段々と狭まっていく。
「ちっ、俺の火山で死ぬのは許さねぇぞ」
かすかだけどイフリートがそんなことを言った。少しすると呼吸をしてもは呼吸器官が焼かれるような痛みは退いていく。
「俺の加護は炎の魔法を使えるだけじゃなく、高温の場所でも生活できる力があるからよ。これで少しは楽になったんじゃねえか?」
「ありが...とう...」
私はイフリートにお礼を言ってから、いつ起きるか分からない眠りについた。