イフリート
私たちがアステール火山に入ってから坂道をずいぶんと歩いたけど、やっぱり火山ってだけあってかなり暑い。少しでも気を抜いたら一瞬で意識が飛びそう、それぐらい暑い。
それでも肌が火傷しなかったり普通に呼吸ができているのは、魔力によって身体が守られているからなんだと思う。
「そろそろ最深部に着きそうだけど、イフリートはそこにいるのかな」
「はい、イフリート様は最深部にいるはずです」
私たちはさらに歩みを進めると、頂上に辿り着きそこで私は目を疑った。
腕を組んでいるオレンジ色のツンツン頭の男性と、その男の目の前で全身血だらけで倒れているリーゼロッテの姿がそこにあったからだ。
「リーゼロッテ!」
私は急いで倒れこんでいるリーゼロッテの元へ向かい抱きかかえる。呼吸はしているみたいだからまだ生きているみたいで良かった。まずは『ヒール』で傷口を塞いであげなくちゃ。
「『ヒール』」
私がリーゼロッテに回復魔法を使用すると、閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
「...む、カノンか。先ほどのゴーレムを倒したのか?」
リーゼロッテは弱々しい声で私に話しかけてくる。こんな状態じゃゴーレムを私たちに押し付けるなんて酷いよ、なんて冗談交じりでも言えない。
「うん、倒してきたよ。それよりも今はあまりしゃべらない方がいいよ。私の回復魔法は傷口をすぐに塞げるけど消耗した体力は回復させてあげることができないから」
「ふふ、すぐに傷口を塞ぐだけでもすごいことだぞ...」
「もう、喋らないで体力の回復に専念して」
私の言葉をリーゼロッテは素直に聞いてくれたのか、喋るのを止め回復に集中する。
「おいクソ人間、何邪魔してくれてんだ。さっさとそこをどけ」
「リーゼロッテをこんなに傷つけたのは貴方なの?イフリート」
「お前、俺のこと知ってんのか。まぁ今はそんなことはどうでもいいか。そうだぜ、こいつが急に喚きながら斬りかかってきたから返り討ちにしたんだよ。そんで、俺に歯向かわせないように最後に止めを刺そうと思ったらお前が来たわけだ」
「カノンだけではありませんよ、イフリート」
シルフはイフリートを睨みつけながら私とリーゼロッテの傍まで来た。
イフリートはシルフの顔を見てから思い出すような仕草をし、少しして思い出したのかシルフを指さした。
「お前、シルフか!久しぶりだな、どうしてお前までここにいるんだ?もしかして俺と戦いに来たのか?」
イフリートはシルフと戦いたくてうずうずし始めている、好戦的過ぎるでしょ。
シルフはいいえと首を横に振り戦う意思はないことを示すと、イフリートは分かりやすすぎるほどにがっかりしていた。
「私は貴方に確認したいことがあってここへ来ました」
「確認だぁ?」
「イフリート、単刀直入に聞きますが貴方は魔王軍と手を組んでいますか?」
シルフの問いにイフリートは一瞬驚いた顔をしてから、次第に怒りで身体を震わせる。
「俺があんなクソ共と手を組むだぁ?次また同じこと言ってみろ、いくらお前でも焼き殺すぞ」
「ですが、ここへ来る途中魔王軍が私たちを襲ってきました。さらに言えば火口への出入り口でゴーレムまで配置して、疑わない方がおかしいです」
「何?俺の山に魔物がいたのか?」
「ええ、貴方が嗾けたのではないのですか?」
イフリートはシルフの言葉をしっかりと聞いてから、はぁっと大きなため息をつく。
「俺がそんなことするわけねぇだろ。もし気に入らねえ奴がここに来たら、俺が直々に相手をするからな」
「では、手を組んでいないのですね」
「ああ、誓ってな。むしろ魔王軍は俺ら精霊にとって大事なアルカディウス様を殺したやつらだ、見つけたら消し炭にしてやりたいほど憎んでるぜ」
私はイフリートの言葉と表情から嘘偽りは無いかどうか見たけど、きっとイフリートは嘘をついていない。なぜならアルカディウスの名前を口にした時のイフリートの顔が酷く悲しげに見えたからだ。
「...では、私たちエルフ族の村を焼き払ったのはお前ではないのか?」
リーゼロッテは苦しそうな顔をしながらも、イフリートに問いかける。
「何で俺がそんなことをしなきゃならねぇんだ。俺はシルフと違って幻影なんて魔法は使えねぇから、ここから出るなんて危険なことはしねぇぞ」
「...ではあの日の炎の化身とは一体誰なんだ?」
「知るかよ、誰だそいつ」
みんなイフリートが魔王軍と手を組んでいないこと、そしてリーゼロッテの村を焼き払った張本人ではないのなら一体誰が黒幕なのか考え始める。
そんな中、私だけは別のことを考えていてそれを口にする。
「あの~イフリート、少しだけいいかな?」
「ああん?何だクソ人間」
いちいち睨め付けて怖いし、口悪すぎだし!
だけどここで怯んじゃダメだ私、勇気を振り絞るんだ!
「私はアルカディウス様の命を受けて次期精霊王女としてここへ来ました。私にイフリートの加護を与えていただけませんか?」
「てめぇが、アルカディウス様の後継だと?笑えねぇ冗談だな」
「いいえ、カノンは正真正銘アルカディウス様の後継者です。それは私が保証します」
「証拠は?」
「カノンはアルカディウス様の光魔法と私の風魔法を使えます」
「何?それは本当か、クソ人間」
「えっと、はい使えます。初級魔法しか使えませんが」
「おいおいマジかよ、加護を受け取れるってことはその素質があるってことじゃねぇか」
イフリートは私の顔と身体をねぶるように見る。そしてイフリートは目を閉じ熟考し、結論を出したのか再び目を開ける。
「加護の件だが、お前には渡せねぇな」
「そんな!?」
「ただし条件がある」
イフリートはにっと口角を上げて私に告げる。
「俺とさしで戦え!そんで俺に勝ったら...」
とイフリートが話している途中で、上空から来た炎の塊がイフリートを襲う。
「イフリート様!」
思わずアルカが声を上げイフリートの身を案じたが、それは無駄に終わりイフリートは無傷だった。その代わりかなり不機嫌そうな顔をしている。
「誰だぁ?炎の精霊である俺様に向かってカスみたいな炎魔法をぶつけてきた奴は?」
「さっすが精霊ってところだねぇ?あんなんじゃ傷一つ付かないかぁ!」
いつの間にいたのだろうか、炎魔法を使った主は私のすぐ横に立っていた。