異世界転生と異世界召喚①
私とアルカ、シルフは無言で歩みを進めていくリーゼロッテに合わせていた。その道中、私はアルカとシルフに聞きたいことがあったので質問してみる。私が聞きたいこととは無詠唱についてだ。
「人間が無詠唱で魔法を使うことはすごいことなの?」
「そうですね。人間に限らず他の種族でも同じことが言えますよ」
私の右肩に腰掛けているアルカが私の問いに答えると、続いてシルフが補足を加える。
「魔法はイメージですからね。魔法を使用する感覚、消費量、威力等、イメージが固まるまで気が遠くなるくらいほど魔法を使って、初めて無詠唱を体得することができるんです」
「ですから通常、観察したぐらいでは無詠唱で魔法を扱うことはほとんど不可能なのです」
「例外もいますけどね...」
「例外?」
「それは異世界に召喚された勇者です」
異世界に召喚、ということはもとは別の世界に住んでた人たちなのか。
「召喚された人はどうして例外なの?」
確かに異世界から召喚された、という肩書は特別に感じる。しかし魔法を使うという概念のない、例えば私が元々いた世界から来た人はそもそも魔法を使うことができないんじゃないのだろうか。
私の疑問にアルカが答える。
「これは風のたよりで聞いた話なのですが、召喚された勇者は元々の世界で書物や映像のおかげですでに魔法のイメージが完璧にできている者がいるそうです」
書物や映像、それってもしかして小説や漫画、アニメや特撮もののことではないだろうか。私も小さい頃に魔法を使うアニメを見て、よく朱莉ちゃんと魔法を使うごっこ遊びをしたものだ。そのときのイメージといったら、ほぼ完璧に近い。
「ですから、召喚された勇者の中にはすぐに無詠唱で魔法を使える人がいるのです」
「そう考えるとカノンは異世界の人かもしれない、ということですか?」
私とアルカはシルフの一言にぎくっとする。私とアルカは古き友人設定でシルフを騙しているが、これ以上は隠す必要はないのではないかと私は考える。
「ねぇアルカ、私のことはシルフに話してもいいかな?」
私がこういう含みのある言い方をした理由は、私のことは話しても問題ないと思うが、アルカのことを話せばきっとシルフは混乱する。だから、今は私のことをありのままシルフに伝える。
私がこの世界の住人ではなく、アルカの導きで別の世界から姿かたちはそのままでこの世界に転生してきたことをシルフに話した。シルフなら、転生技術を他の者に教えないと信じたからだ。
シルフは驚いたような、だけどどこかで私がこの世界の人間ではないことを察していたような表情をしていた。
「今まで隠してごめんなさい」
「いえ、事情があったのでしょうしそこは気にしてないですよ。ただ、別のところが気になっていまして」
「何が気になるの?」
「確認なのですがカノンは転生したとおっしゃられていましたね?」
「うん、そうだよ」
私が転生という形でこの世界に来たのは間違いない。そこに何か疑問でもあるのかな。
「転生というのは新しく生まれ変わることを意味するはずです。しかし、カノンは元の世界と姿が変わっていないと仰っていました」
「...なるほど、そういうことか」
シルフが言いたいことが理解できた。いくら別の世界だからといっても身長、体重、目や髪の色、スタイルなど全く同じになるはずがない。必ず、どこか元の姿と違う箇所があるはずだ。それがないということは、私は転生したのではなく召喚された、が正しいのではないか。
「アルカ、どういうことなのかな」
私がアルカに問いかけるとアルカは私の肩から飛び立って、私とシルフの方を向く。
「そうですね、花音とシルフに嫌われることを覚悟して正直に話しましょう」
アルカは真剣な表情で話し始める。
「花音が転生されたか召喚されたかと言われれば、転生された、が正しいです」
「では、元の世界と身体がそっくりそのままな理由は何ですか?」
「それは...花音が死ぬ直前に身体と魂が分離したときに身体だけを一旦この世界に召喚しました。その後、私の全魔力を使って瀕死の状態から回復させました。そして花音の魂をこの世界に召喚した身体に転生させた、これがシルフ様と花音の問いに対する回答です」
そうか、そう言われると転生って言葉が正しいのかもしれない。それにしてもアルカの説明のどこに嫌う要素があったのか。私がそう考えシルフの方を見ると、シルフはアルカを睨みつけ怒った表情をしていた。
「アルカ、貴女は自分が何をしたのか分かっているのですか?」
「分かっているつもりです」
「本当ですか?貴女は元の世界で亡くなったカノンの身体をこの世界に召喚したんですよね」
シルフは一旦気持ちを落ち着かせるために深呼吸をしてから、何故怒っているのかをアルカに伝える。
「カノンのご両親やご友人のことを考えたことはありますか?大切な人が生きてるかも無くなっているかも分からない、とても苦しい気持ちで今でも必死に探しているはずですよ。それなのに探しても絶対に見つからない。アルカはそのことを考えたうえで転生させたのですか?」
シルフは問い詰めるような口調で、アルカに言い放った。