悩みを聞いてくれる存在
リザードマンとの戦闘から数時間が経ち、太陽は月から隠れるように、月は太陽を追いかけるように顔を見せる。外の景色はすっかり暗くなっていた。
夕食を済ませ、後は太陽が顔出すまで寝るだけなのだがどうしても眠りにい着くことができなかった。
今日の出来事が、脳裏から離れなかったのが睡眠妨害の原因だった。
私以外はみんな寝ているので、起こさないようにそっと起きてこの場から少し離れた。
少し歩いたところで私は膝を抱えるようにしてその場に座り込んだ。天を見上げれば今日の夜空は星々がとても輝いていて、ずっと眺めていられる。
私は今日の出来事を思い返しながら自問自答を繰り返す。
目にも止まらぬ速さで相手を斬ることができるリーゼロッテ、狭域魔法を習得したことで戦術に幅が広がったシルフ。反して私はリーゼロッテほど早く動けないし、シルフの様に今の魔法から応用することもできない。
そうなってくると私の存在する意味って何だろうって思えてきちゃう。
暗いことばかり考えていると、私の後ろの方からパタパタと羽を羽ばたかせて何かが近づいてくる音が聞こえた。
「花音、こんなところにいたのですか」
声の主は予想通りアルカだった。
「うん、もしかして起こしちゃった?」
「いえ、たまたま目が覚めただけですよ。それよりもこんなところで何をしているのですか、風邪をひきますよ」
「うーん、考え事してたら眠れなくなっちゃってさ、気分転換にここで星を見てたの」
「考え事とは、今日のことですか?」
流石アルカだね、私が考え事をしているということをすぐに当ててくれる。
「よく分かったね」
「あれ以来、花音の口数が減ったのでもしかしたらと思っただけですよ」
「そんなに露骨だった?」
「ええ、シルフも心配してましたよ」
アルカは私と二人っきりのときは、身分を隠す必要はないためシルフに様付けをしていない。
アルカは私の左肩に腰をかけて、顔に寄りかかってきた。普段の私なら興奮するところだが、今回はとてもそんな気分になれなかった。
「ふふっ、しおらしい花音は可愛いですね」
「えー、何それ」
「いつもおバカなことしか言わないので、たまにはそういう花音もいいなって思いまして」
「むー、私結構悩んでるのに酷いよ...えへへ」
私はアルカに貶されているはずなのに、自然と笑いがこぼれてしまう。
「あのねアルカ、私の話聞いてくれる?」
「ええ、何でも聞きますよ」
私はアルカに今考えていることを全て話した。
みんなが戦闘になれていることに驚いたこと、当たり前だけど戦闘技術が私よりも高いこと、シルフがあれだけ苦労していた狭域魔法を実践で軽々と使っていたことに驚いたこと。
そして、私はただただ見ることしかできなかったこと、もしかしたらこれからもこの状態が続くのではないか、そうなったら私の存在理由は何なのか。
アルカは、私の悩みに答えるでもなくただただ優しく相槌を打ち、話しを聞いてくれた。
そのおかげもあって、悩みを全て話すことができた。アルカは聞き上手で本当に助かったよ。
「花音って、意外と繊細ですよね」
「意外ってどういうこと!?」
「だって、私が花音の話を聞く限り気にしなくていいところを気にしているんですもの」
「気にしなくていいこと?」
「そうです」
アルカは私の肩から飛び立ち、今度は私の頭の上に乗っかる。
「まず戦闘経験についてですが、花音の言った通り彼女たちが優れているのは当たり前のことです。全員とは言いませんがこの世界で魔物と戦うのは普通のことですから。自然と技術が身に着くんですよ」
アルカは私の頭を優しくなでなでしながら言葉を続ける。
「それから、シルフについてですがこの世界が誕生するとともに私たちも生まれてきました。ですので、長い間生きてきた訳です、応用ぐらい利かせてくれないと困りますよ」
「あはは、アルカディウス様は厳しいね」
「元・王女ですから。それから、花音はこのままじゃいる意味がないとおっしゃっていましたね」
「うん、仰りました」
「なら、修行すればいいんです」
「修行かー」
私は修行という言葉を聞いて、エンドレスレッドスライムを思い出した。
またあんなことをやるのかと思いつつ、でもそうやって経験を積めばみんなと肩を並べて戦えるってことだよね。
「花音が頑張ったら、また花音のお願いを何でも叶えてあげますよ」
「え!?いいの!?」
「あまり無茶なお願いはしないで下さいよ?」
「うん!私、頑張るよ!」
「単純ですね...」
確かに、アルカが私の願いごとを叶えてくれるって言ってくれただけで頑張れちゃうのは単純かもしれない。
だけど、私にとって頑張る理由はそれだけで十分なのだ。
「だってアルカと、それからシルフとイチャイチャ出来ることが私の生きがいだもん!」
アルカのおかげで私の戦う理由、頑張る理由を思い出せた。
私はみんなと笑顔で楽しく過ごせることができればそれでいいんだ。
そのために頑張るって修行の最終日に誓ったのに、今日活躍できなかっただけで見失いそうになるなんて、アルカの言う通り繊細なのかもしれない。
「アルカ、話しを聞いてありがとう!」
「しおらしい顔も良かったですけど、やっぱり花音は笑顔が一番似合ってますよ」
おや、アルカが珍しく私のことを褒めてくれてる、もしやこれは深夜テンションに突入したのでは!?
ということは、今のアルカはイエスマンになってると見た。
「ねぇアルカ、寝袋で一緒に寝よう?」
「いいですよ、ただし変なことはしないでくださいね?」
本当にイエスしてくれるとは思わなかった。
アルカと一緒に近距離で寝れるなんて、私はもうこの世界で一番幸せ者だと確信しました。