リーゼロッテ・ラビティリス
「それでは皆さん、そろそろ出発しますが忘れ物はありませんか?」
「うん、無いよ!」
「私も準備万端です」
私たちは今から馬車に乗ってイフリートのいるアステール火山に向かう。
火山まではポートワールからアルクウェル王国と同じぐらい距離がある。それに火山についてしまえば物資の調達は望めないので、忘れ物一つで命を落としてしまう可能性もあるので入念にチェックしていた。
これで3回目の忘れ物チェックを終え、アステール火山へ向かう馬車に乗り込む。
するとこれまたフードを被った先客の人がいた。
「あれ、もしかして昨日まで一緒に馬車に乗っていた人ですか?」
私が女性に話しかけると、一瞬身体をビクッとさせてからこちらに視線を向ける。
驚かせるつもりはなかったんだけど、ごめんなさい。
「ああ、そうだ。君たちもアステール火山、いやイフリートに用があるのか?」
「イフリートのこと知ってるの?」
「この世界で知らない者はいないと思うぞ。四大精霊の一人だしな」
「じゃあシルフのことも知ってるの?」
「もちろん。だた、精霊というのは妖精以外に姿を見せないから、実物を見たことがあるのはほとんどいないんじゃないか?」
「そ、そうなんだ」
今、貴女の目の前に四大精霊の一人であるシルフがいるんだけどな、っていうことは一応言わないでおこう。
それにしてもこの人もイフリートに用があるんだ、どんな用事なのかな。
私たちが馬車に乗り込むと、馬車を動かしてくれるのは昨日と同じおじさんで今日からまたよろしくねーと言いい、馬車を動かし始めた。
「そうだ、お姉さんの質問に答えてなかったね。私たち、イフリートに会ってお話ししに行くの」
「お話?あんな奴と何を話すんだ?」
あ、あれ?イフリートのことあんな奴って、もしかしなくてもこの人とイフリートの間で何かあったのかな。
それに明らかに怒りというか憎しみというか、重く低い声に変ったことに私は気になった。
「そうですね、気まぐれな性格はどうにかなりませんかって言いに行くんです」
私が女性の声に威圧されて上手く言葉が出なかったのを見て、シルフが助け舟を出してくれた。
すごくありがたいんだけど、多分シルフは本当にそのことを話すつもりなんだろうけど、そんな内容で女性は信じてくれるかな。
「気まぐれ...か。あいつが私にしたことは気まぐれなんて言葉では、簡単に片づけられないんだがな」
女性はそう言うと握りこぶしをさらに強め、怒りで体が震えていた。シルフのおかげで取り敢えず話をごまかすことには成功したけど、イフリートは一体この女性に何をしたんだろう。
女性は我に返ったのか、握りこぶしに込めた力を弱めて私の方へ視線を向けてきた。
そして深くまで被っていたフードを脱いだ。
「イフリートに会う理由は違うが、目的地までは一緒のようだ。もしよければ貴女たちと行動を共にさせてくれないか?」
協力しないかとういう意味を込めて私に握手を求めてきた女性は、おそらく肩甲骨辺りまである長い金色に輝くの髪を紫色の花が装飾されたバレッタで結んでいて、瞳は綺麗なエメラルドグリーンに耳は尖がっていた。
それに、金色の小さい剣が一つ括られたネックレスが特徴的だった。
私が、あまりにも美しいその容姿に目を奪われ、少しの間言葉を失っていると女性は全身を私の方へ向けた。
「すまない、自己紹介もせずに協力を仰ごうなど失礼だったな」
違います、見とれていて握手するのを忘れていただけなんです。
「私の名前はリーゼロッテ・ラビティリスだ」
「私の名前は花音だよ、よろしくね」
私はリーゼロッテと握手を交わし、握手を交わしてから私の頭の上に乗っているアルカ、私と反対に座っているシルフの順に握手した。
この瞬間から、私たちとリーゼロッテの協力関係が結ばれた。