ポートワール
「お嬢さん方、ポートワールに着きましたよ」
ぼーっとしていた私の耳に、人の心を穏やかにさせるような声が目的地の到着を告げてきた。
道の小石に車輪が乗るたびにガタガタと揺れていた荷台が、次第にガタ、ガタっとゆっくりなっていき揺れることはなくなった。
私たちは馬車から降りて、7日間座りっぱなしで凝り固まった身体をほぐすようにストレッチをした。
「ん~、やっと着いたね~」
私はストレッチの後に深呼吸を1回して、そのと空気を味わい口から吸った空気を吐き出した。
「馬車での旅は結構退屈だということを学びました」
「アルカはカノンの頭の上でずっと寝てましたよね」
「花音の頭の上は何故か心地よくってつい寝てしまいました。今更ですがご迷惑ではありませんでしたか?」
「迷惑じゃなかったよ!心地よかったならいくらでも私の頭の上で寝てていいよ」
馬車での思い出なんてアルカが私の頭の上で可愛い寝息を立てながら寝てたぐらいだった。
鳥の巣ならぬ愛の巣だね。なんてことをアルカに言ったらまず間違いなく、私から離れるので言わないでおいた。
それ以外は何もなくただただ馬車に揺られて過ごしていた。
魔王軍に襲われることも盗賊に襲われることもなく、ぼーっとしていただけ。
あまりにも暇だったので、一緒に乗っていた人と仲良くなりたい思い、話しかけてみたけど一言二言で会話が終わりなかなか会話を続けることができなかった
それを見かねたアルカとシルフがしょんぼりしている私に話題を提供してくれる、そんな馬車生活だった。
よし、馬車でのぼーっとしていたつまらない記憶はパッと忘れて、今を楽しもう。
まずはポートワールはどういう町なのか観察してみよう。
門番がいないので、気兼ねなく町の中に入ると大きな噴水が視界に入ってきた。
私の身長の2倍ぐらいはある美しい女性の銅像が、大きなツボのようなものを左肩に乗せ、そこから水が湧き出ている。
町の人たちはアルクウェル王国ほどじゃないけど、活気があり様々な種族が交流し合い賑わいを見せていた。
「ここの町は人だけが住んでるんじゃないんだね」
「え?」
「うん?」
私が素直な感想を言うとアルカが少し驚いた、というか何をいまさら言ってるんですか、みたいな声をあげた。
「アルクウェル王国にも様々な種族がいたじゃないですか」
「あれ、そうだっけ?」
おかしいな、全く覚えてない。耳の着いてる場所が犬や猫の様に横ではなく上だったり、もはや犬や猫のような姿形で、だけど身長は人と同じくらいで二足歩行をしていたりと初めて見る景色なんだけどな。
他にも、耳が尖がっていたり私の身長の半分ぐらいの種族がいる。
「もしかしたら、修行のことで周りが見えていなかったのかもしれませんね」
シルフの言う通り、アルクウェル王国での生活は常に魔法をどうやったらコントロールできるかばかり考えていたので、周りを見る余裕はなかったかもしれない。
今度アルクウェル王国に帰ってきたらちゃんと見てみよう。
「それでは今日宿泊させていただく宿を探しに行きましょうか」
「そうだね、明日からまた馬車生活だもんね」
ポートワールに寄ったのはあくまで休息や食料を補充するためで、観光をしに来たわけではない。
今日は一泊して、明日から再び馬車での生活が待っている。
ポートワールの観光はイフリートの加護を受け取るまでお預けだね。
私たちは宿を見つけた後に、食料や雑貨を買い明日を迎えるのだった。