転生って小説の中だけのお話じゃなかったんだね
「わっ!」
何か酷い夢を見た気がして、私は勢いよく起きた。
夢の内容は、何だっけ......
ああそうだ、確かトラックに轢かれそうな子を助けたら勢い余って川に落ちて死んじゃった、そんな夢だった気がする。
折角、格好良く助けたんだから最後で格好良く決めたかったんだけどな。夢の中だとしてもそう都合よくいかないらしい。全くもって残念だ、それに。
「酷い夢だな」
そうぼやきつつ眠気眼を擦り、周りを見渡すと視界に広がっていたのは白。
ビックリするぐらい真っ白で、何なら私が着ている服も真っ白なワンピースだった。
「......まだ夢でも見てるのかな。うん、きっとそうだよね」
私は深呼吸を一回してから再び目を閉じる。しかし、もう一度眠ることができなかったので、体を起こす。
「ふー」
私は天を仰ぎ、不安でいっぱいになった心に中のガスを抜くように、深呼吸する。
大丈夫、私は冷静だ。
私は、左胸に手を当てる。
通常なら不安なとき、鼓動が逸るはずなのにとても静かで、もはや心臓は止まっている。
もし、さっきの夢が現実に起きた事だとしたら、私は......
「私、死んじゃ......」
「貴女はお亡くなりになりました」
「どわっ!」
急に私の後ろから女の人が話しかけてきた。
ていうか、ここって私以外にも人がいたの!?
ビックリしすぎて変な声出ちゃったよ、恥ずかしい。
後ろを振り向くと、そこには金色の髪によく似合う優しそうな碧眼の瞳、人とは思えないほど尖がった耳。
目線を落とせば豊満なバストが妖艶さを引きたたせ、キュッと引き締められた腰とすらりと伸びた綺麗な足は私を魅了する。
そう、私はこの人(?)に魅了されている。あの人には何か特別な力があるのかもしれないので、仕方なく、本当に仕方がなく近くで観察しに行く。
すると、私が鼻息荒く近づいたせいか、優しそうな目から一変、怪訝そうな表情になる。
「あの、目線がいやらしいのですが、気のせいでしょうか」
「ううん、いやらしい目で見てたよ」
美女に冷静にそう聞いてくるので、私も至って冷静に返答する。
「最低ですね、軽蔑します」
と美女に蔑まれた目で見られた。
初対面なのに、軽蔑されちゃった。ま、私が悪いんだけどね。
そういえば異世界転生ものの小説で、今みたいなシーンがあったことを思い出した。
主人公の男の子が、美少女に変態と罵られながら足で踏まれてるシーンがあって、主人公は踏まれたことに対してご褒美だーって喜んでいた。
そのときは、その主人公って本当にバカだなって思ってたけど、実際に蔑まれた目で美女に見られるとちょっと興奮するな。
私はいつからこんなに変態になったんだろう。
川に落ちた衝撃で、頭のねじが一本落ちたのかな。
......とりあえず興奮していました、なんて口走ったら、一切口を聞いてもらえなくなるのは想像に難くなかったので黙っておこう。
「冗談だよ、でもスタイルいいなーって見てたのは事実かな」
「......そうですか。ありがとうございます」
依然として落ち着いた口調で美人さんはお礼を言う。
どうしてかな、美人さんの声音は聞いてて心地いい。普通に言葉を発しているだけなのに、まるで詩っているかのようで、聴き惚れてしまう。
私の視覚と聴覚を一瞬で魅了したこの人は誰なんだろう。
「私が何者か知りたいって顔をしてますね」
この人といい朱莉ちゃんといい、どうして私の考えてることが分かるのかな。
私は、首を縦に振って美人さんのことが知りたいとアピールする。
「私は精霊界の王女、アルカディウスと申します。貴女、いえ花音さんには異世界へ転生していただき......」
「異世界!?転生!?」
ここへ来て、まさか胸躍る単語がいくつも出てきた!
踊る胸が今は動いてないんだけどね。
それはさておき、まさか私が異世界に行けるだなんて思ってもみなかった。異世界なんて小説のお話かと思っていたのに。
転生先はどんな場所なのかな、魔法とか使えるファンタジーな世界なのかな!?
もー、気になって仕方がないよー!