花音の想い
朝食を宿で済ませ、再びレッドスライムの討伐に向かう。
私たちが依頼をどんどんこなしたせいか、ギルドのボードにあるレッドスライムの討伐依頼はめっきり減った。
受付のお姉さんは私たちが同じ依頼しか受けないものだから、最近ギルドに入った瞬間にレッドスライムの討伐ですかー、と先手を打たれるようになった。
おかげで、依頼を見つける手間が省けて助かってるんだけどね。
依頼の場所まで行く道中、私は昨夜のお礼を言うためにシルフに話しかけた。
「シルフ、昨日はありがとう。おかげで修行する意味を見出せそうだよ」
「そうですか、それは良かったです」
「どんなお話をされていたのですか?」
アルカは私たちの会話に混ざり、昨日の会話の内容を聞いてきた。
私は、シルフにアルカの問いに対する相談をしただけだよと伝えて、敢えてシルフが私の傍にいる理由は話さなかった。
「相談した結果、もう少し簡単に考えてみようかなって」
「そうですか」
アルカはそう言って、私の周りをくるくる飛んでいて何かご機嫌だった。
「今日のアルカ、すごくご機嫌だね」
「それはそうですよ、花音の晴れやかな笑顔が久しぶりに見れたんですから」
私、そんなに暗い顔してたかな、いやしてたな。
アルカはそれを気にして心配してくれたんだね。
アルカだけじゃない、シルフだって気にしてくれてた。
心配かけさせちゃった分、頑張らなくちゃね。
「よし、今日はいつもより気合入れるよ!」
「おお、いつもの明るいカノンに戻りましたね!」
「ええ、今日も頑張りましょう花音」
そうしてレッドスライムの討伐を開始した。
それから数日後、遂にシルフは狭域魔法を習得することができた。そして私も出力100%でも正確に魔法を使えるようになった。
「やりました、遂に習得できましたよ!」
「私もだよー!」
「花音、シルフ様、おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「ありがとう、アルカが付きっきりで指導してくれたおかげだよ」
私たちはレッドスライムがあと二匹残っているのに、抱き合って喜びを分かち合う。
「まずはシルフ様、もう一度狭域魔法を使ってみてください」
「分かりました」
シルフはレッドスライムの方へ右手をかざす。
「『エアブラスト』!」
すると、レッドスライム一匹分の魔方陣が展開され、風魔法が放たれる。
威力は『ツオール・テンペスト』の半分くらいといったところか、それでも十分な威力でレッドスライムに使うような技ではない。
「次は、カノンですね」
「では、花音はレッドスライムの斜め上から全力で魔法を使ってください」
「了解、全力で行くよ!『ライト』!」
私はレッドスライムの斜め上に魔方陣を展開させて全力で魔法を使った。
アルカの指示通りに魔法が放たれ、無駄なくレッドスライムに魔法が当たる。
ちなみに言葉通り全力で魔法を使ったので、シルフの『エアブラスト』の比じゃないくらいの威力を出してしまった。
「これで、修行は終わりかな」
「そうですね、お疲れさまでした」
「お疲れ様です」
私たちは修行を終え、帰路につく。
道中、アルカは私の目の前まで飛んできた。
「花音、改めて問いたいです。花音は何のために修行をしていましたか?」
アルカはいつぞやの問いを私に投げかける。
以前は答えられなかったけど、今ならすぐに答えられる。
「アルカとシルフ、それからこれから仲間になるかもしれない人たちと笑って過ごせるように、って思いで修行してたよ」
「素晴らしい回答ですね、カノン」
「そうですね、きっとそれも本当のことなのでしょう」
おっと、何やら含みのある言い方をしてきますなアルカは。
もしかしてアルカは気づいてるのかな?
「もう一つ、理由があるのではないですか?」
あぁ、多分気が付いてるな。
これは隠し通せない。
「修行頑張ったら一つぐらいお願い聞いてくれるかもと思って頑張りました」
「それは?」
「三人で一緒にお風呂入ろう!そしてイチャイチャしよう!」
「理由が不純ですね」
「じゃあ私とカノンの二人でイチャイチャしましょう」
シルフは私に飛びつき笑顔で私の頬とシルフの頬をすりすりしてきた。
するとアルカはムッとした顔をしてから、私の胸に飛び込んできた。
「別に、一緒に入りたくないとは言ってないじゃないですか。今日は、特別ですよ」
アルカが、アルカがそんな台詞を言うなんて!
私を悶え死にさせる気なの!?
アルカのデレとシルフに頬すりすりされるなら、辛かった修行を頑張ってよかったな。