シルフの想い
まだ真夜中ではないためか、外に目を向けるといろんな人たちが行き来している。
気温は少し肌寒いぐらいだ。
「ごめんね、寝ようとしてたところに声かけちゃって」
「いえ、気にしなくていいですよ。それよりも真面目な話とは何ですか?」
「シルフはどうして私の傍にいたいのかなって」
まずは一番気になっていたことを聞いてみた。
私はシルフが私の傍にいてくれるようなことをしてあげたことはないと思ったから。
シルフは一瞬だけきょとんとした顔になってから、ふふっと笑った。
「何となくではダメですか?」
「ダメじゃないけど気になるというか」
我ながら歯切れ悪いなと思ってしまう。私らしくないな。
「そうですね、カノンの人柄に惚れたから、ですかね」
「私の人柄?」
「そうです。最初に私が幻影を使ってカノンを試したのを覚えていますか?」
「うん、覚えてるよ」
あのときのことはよく覚えてる。戦うってあんなに恐いことなんだなって肌で実感した瞬間だったからね。
「私はカノンがすぐ逃げると思っていたんです」
「私が人間だから?」
「それもありますが、戦いも何も知らなそうな人間が私たち精霊を守るなんておこがましいと思っていました。ですから四天王を見せて、貴女が思うほど誰かを守ることは簡単ではないことを知らしめてやろうと思ったんです」
最初、シルフはそんなことを考えていたのか。
「ですが、カノンは逃げずに戦いました。私たち精霊を守るんだって行動で示してくれました」
「でも、それはアルカが、じゃなくてアルカディウス様の命を受けたから...」
私が言いかけるとシルフは私の額に軽くデコピンをしてきた。
あれ、シルフってこんなことをしてくる精霊だっけ?
「カノンは暗黒騎士にも逃げずに戦ってくれましたね。誰かにお願いをされたからといって、命を懸けてまで戦える者はそう多くはいません」
「そうかな?」
「そうですよ。カノンはあの時、どうして戦ったのですか?」
アルカと似たような問いをシルフもしてきた。
だけどこの問いにならすぐに答えられる。
「それは、シルフたちの大事な場所を守ってあげたかったから」
「もしかしたらそれで命を落としていたかもしれませんよ?」
「それでも、何もしないで逃げるより出来ることをして負けた方がマシかなって思ったから」
「あははっ!そういうところに私は惹かれたのですよ、カノン」
シルフはお腹を押さえてめちゃくめちゃ笑っている。
私、ボケたつもりは一切ないんだけどな。
「カノンのその優しさと、だけど危なっかしいところに私は惹かれてしまったのです」
「危なっかしいかな?」
「はい。だって、まるで誰かを守るためなら自分の命は後回し、みたいな言い方してるじゃないですか」
確かに、そう捉えられてもおかしくないし、実際そういう行動をとってきた。
そういえば前世で女の子を助けたときもそうだった。
「だからカノンのその優しさを、命を落とさずに貫き通せるように、私はカノンの力になりたいと思ったのです」
「シルフ...」
シルフは真剣な眼差しで私にそう答えた。
まさか、そんなことを考えて私の傍にいたいと言ってくれていたなんて気が付かなかった。
「そのためには狭域魔法を扱えるようならなくてはなりません」
「苦手なことでも?」
「苦手なことでもです。でも、この苦手なことを克服して自分のものにできたら私はずっとカノンの傍にいられるんですよ。もう頑張るしかないじゃないですか」
そう言って、シルフは優しく私を抱きしめてくれる。
「これで、カノンが本当に聞きたかったことの回答になりましたか?」
「気づいてたの?」
「それはもう、修行中もカノンのこと見てましたから」
「そこはちゃんと修行してよ」
私とシルフはお互いに笑ってから、視線を合わせる。
「お姉さんからカノンにヒントをあげましょう」
「なあに?」
「修行する理由なんて案外簡単なことですよ」
シルフはそう言ってから、私はもう寝ますねと言って部屋に戻っていった。
案外簡単なこと、か。
私もシルフに続いて部屋に戻り、布団の中で眠ることにした。