共に来るための条件
「たったそれだけ駄目なんですか!?些細なことじゃないですか!」
シルフはプンプンと、些細な問題じゃないとアルカに抗議している。
私にとってはそれが些細なことかどうかさえも、分かっていないけれどこのままさよならは流石に可哀そうだよね。
「どうして広域魔法だけじゃダメなの?」
「それはですね。これから小型の敵や、広域魔法が使えないような場所で戦闘することになるかもしれません。そうなると広域魔法が反って危険を呼び起こしてしまう危険性もあるのです」
「それはそうかもしれませんが……。それでも、カノンと一緒にいたいのです……」
シルフはアルカの指摘に納得はしているみたいだけど、それでも私といたいと悲し気な表情で呟く。その顔を見たアルカは流石に可哀そうだと思ったのかな。何かを考えるように顎に手を当てて、すぐにはっとした顔になる。何か思いついたみたいだ。
「思いつきました。シルフ様、狭域魔法を覚えましょう」
「なるほどー、ってそれができたら今頃使えてますよ!」
「……では諦めますか?」
アルカのその言葉にシルフは、「むむむ」と眉をひそめながら唸り声を上げている。しかし、それも長くはなくシルフは肩を落として項垂れた。
「諦めたくはないですよ。……でも、今までも狭域魔法を覚えようと頑張ったのですが、全く上達しないんです」
「そうなの?」
「はい。何が原因かも分からなくて……」
「そうなんだ……あっ!そうだ!」
私はいいことを思いついた。シルフは私と一緒にいる為には、今まで成功したことがない狭域魔法を習得しなくちゃいけないんだよね。つまり、修行?みたいなことをしないといけない。でも、シルフにだけそんなことを強いるのは一緒にいたいと言ってくれた人に失礼だ。だから。
「ねえシルフ。私ね、最近魔法を使えるようになったんだ。だからまだ魔法を上手く使えないの。このままだと私もアルカの足手まといになっちゃう。それでね、考えたんだけど良かったら私と一緒に修行みたいなことをしようよ!」
「修行、ですか?」
「うん!一緒にやれば自分だけじゃ気が付かなかったことを、指摘しあえるでしょ?私は素人だから的確なアドバイスはできないけど、そこはきっとアルカが何とかしてくれるよ」
「そうですね。これでも一応何百年と生きてますからね。シルフ様に対して恐縮ではありますが、参考になるアドバイスが送れるかもしれません」
「確かに、それはいいアイデアですね!」
でしょ!私は先日キョーヤ君に言ったように、いずれは魔王と戦うことになるかもしれない。それには、そもそもの話で初級魔法ぐらいは、意のままに操れるようにならなくちゃいけないよね。
だとすれば私は出来るだけ早く身につけなくちゃいけない。そうなると、師匠のような存在が必須になってくる。アルカだけでなく精霊のシルフもいてくれれば心強い。
そして力になれるかは分からないけれど、私もシルフが狭域魔法を習得するのをお手伝もできる。
つまりお互いにとって利益しか生まないのだ。
「それだけじゃないよ」
「というと?」
「一緒に修行できる、つまり」
「……はっ!カノンと一緒にいられます!」
「そういうこと!一緒に頑張ろうね、シルフ!それから魔法の指南をお願いします、アルカ」
「はい!今度は挫折せずに頑張ります!」
「承りました。魔法の扱い方をちゃんと教えますので、少しずつ魔法の扱い方を覚えていきましょう」
「うん!頑張ろう!」
私たちはこれから始まる修行に向けて気合を入れるために、右手を天にかざして「おー!」と掛け声を発した。それにしても、シルフが元気そうになってよかった。すべての人に言えるけど、やっぱり元気な姿を見ていたいよね。
「そういえばさ、私ってどうして初級魔法しか使えないの?」
「すみません、それについては私にも理由は分からないのです。ですが先日も言ったように、多分私のせいだと思います」
うーん、本当にそうなのかな?アルカは私のせいだって言ったけど他に原因がある気がするんだよね。例えば私を転生させた時に不具合があって、初級魔法しか使えなくなったとか。
兎に角アルカのせいだなんて、そんなことないのにな。
「まあ仮に中級魔法を使えたとしても、結局は初級魔法からマスターしないとだよね。土台があってこその応用だと思うし!沢山教えてね、アルカ」
「花音……。はい、しっかりと教えてあげますから安心してください」
「ありがとう!それから~、魔法だけじゃなくって、大人の階段を上るようなことも教えてくれていいんだよ?」
「分かりました。ではまずは遠くに見える王国に行きましょうか」
待って待って、私の渾身のボケが華麗にスルーされた!?
もう少し構ってくれてもいいのでは!?
まあ、そういうところもアルカらしいからいいけどね。
「カノン」
「うん?どうしたの?」
「私が大人への階段をじっくり丁寧に教えてあげますよ!」
「いいの!?」
「はあ。二人とも、早く行きますよ」
「「はーい」」
アルカは私たちの悪ノリに対して気にも留めず、王国へと飛び立っていく。私とシルフは顔を見合わせてから、ニコッと笑顔を交わしてアルカについていくのだった。
お読みいただきありがとうございます。
よろしければご評価、ご感想お待ちしております。
次回は2月9日 08時00分に投稿します。