旅立ち...の前に
私とアルカは数日の間、シルフのいる森でお世話になっていた。
妖精たちは人間のことが嫌いと言っていたのは嘘ではなかったみたいだけど、何故か私にはすごく親切にしてくれた。とある妖精が、人間は嘘つきばかりだけど、暗黒騎士の一件から私は嘘をつかない優しい人だって言ってくれた。
それから、シルフとキャッキャウフフなことをし、ときどき度が行き過ぎてアルカに怒られた数日間だったけど、とても充実した時間だった。
「花音、そろそろ行きましょうか」
「もう行ってしまわれるのですか?」
シルフは私とアルカが旅立つことを聞いてすごく寂しそうな顔をしていた。そんな顔されたら離れづらいよ。
「うん。少し寂しいけど、ここにずっといるわけにはいからね」
私は精霊たちを守るために魔王を倒さなければならない。だけど、加護をほとんど受けていない不完全な状態で魔王と戦っても絶対に勝ち目はないと思う。もし不完全で倒せるなら、すでに魔王は勇者たちによって討伐されてるはずだしね。
だから名残惜しいけどここから旅立つ。
「分かりました。寂しいですがお二人の検討をお祈りします。よろしければこの果実を持っていってください」
シルフが私にくれたのは、前世で言うリンゴのような見た目や味がする果実だった。
ここの果実はとても甘くって、だけど後味がさっぱりしているので私の大好物になっていた。
「ありがとう、シルフ!大切に食べるね」
「はい!またお腹を空かせて倒れてはいけませんよ?」
「うん!」
そうして、私とアルカは旅支度を済ませて森を抜けるために歩き出す。
振り返ればシルフと、名残惜しそうに声を上げる妖精たちが手を振ってくれた。う、沢山の楽しかった思い出がフラッシュバックする。絶対にまたこの森に来よう。うん、そうしよう。
「はあ~、シルフも妖精たちもみんな優しくてよかったよ~」
「そうですね。シルフは精霊たちの中で一番優しいですし、初めて出会ったのがシルフで良かったかもしれませんね」
アルカと雑談をしながら森の中を歩いていく。シルフが抜け道を教えてくれたおかげで迷うことなく、一時間ほどで森を抜けることができた。
「わぁ!」
そこに映る景色が、いやでも異世界に来たんだなと思い知らされる。
広大な草原にぴょこぴょこと動くゼリー状のモンスター。遠くの方には立派なお城にそれを囲む城壁が見える。
「ねえアルカ、これからどこに行けばいいのかな?」
「そうですね。ここから一番近くにいる精霊は……」
と、私の質問にアルカが応えようとしたとき、後ろから誰かに抱きつかれた。背中に当たる柔らかな感触、近くにいると感じるシトラスの香り、そして私を優しく包み込む細い腕!私はこれをよく覚えている……!
「ここから一番近くにいる精霊はイフリートですよ!」
「な!?シルフ様!?」
「どうしてここにいるの!?」
後ろを振り向けばうふふと、ほんのりと頬を染めて嬉しそうにはにかむシルフがいた。
その笑顔は私にとって効果抜群だよ。、可愛すぎてまた鼻血が出ちゃいそう。
「だって、寂しかったんですもの。私、カノンの傍を離れません」
全くもう、そんなこと言って!私も離れません!
「何言ってるんですか!あの森はどうするんですか、大切な森なのでしょう?」
「そうだよ、お留守にしていいの?」
アルカの言葉に私は一瞬で手のひらを反す。
アルカの言うことはごもっともで、私たちと一緒にいていいのかな?
「それは大丈夫です。あの森には私が今まで生きてきた中で最高の魔力結界を張りましたから心配には及びません!そのおかげでほとんどの魔力を使ってしまいましたが」
沢山の魔力を使ってまで私の傍にいてくれようとしてくれるなんて、何て愛らしい精霊なの!?そう私が楽観的に考えていると、アルカはとても難しい顔をする。
「ですが、森を統治しているシルフ様がいなくなるのは良くないのでは?」
「ご安心を!今あの森では私の幻影が守ってくれていますので大丈夫です!」
「……抜け目ないね」
これだけ用意してきたなら問題ないんじゃないかな。しかし、それでもアルカの悩ましい顔は一向に晴れない。
「まだ一緒に行く許可を出してはくれないのですか?」
「そうですね。あと一つだけ問題があります」
「問題?」
一体シルフの何が問題なのかな。
美人だしスタイルいいし優しいし、準備も万端だし、完璧だと思うんだけどな。
「それは……」
「それは?」
アルカが数秒ほど溜めてから、ビシッと指をシルフに向ける。
「それは、シルフ様が広域魔法しか使えないことです!」
広域魔法しか使えないの!?
……それのどこが問題なのか、ファンタジーな世界を知らない私には、すぐには理解できませんでした。
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次回は2月8日 19時00分に投稿します。