プロローグ(2)
ねぇ、もし自分の寿命があと30分しかないって分かってたら皆はどんなことをするのかな。
きっと、やりたいことは全部はできないから本当にやりたいことに絞って行動すると思う。
例えば......
貯金を切り崩して美味しいものを食べる
家族に感謝の言葉を伝える
友達に挨拶をする
好きな人に...告白をする
限られた時間を知っていたら、私は何をしたのかな。
キーンコーンカーンコーン
今日の授業が全て終わり、私が帰る支度をしているとたまたま朱莉ちゃんと目が合った。
いつもなら部活行ってくるー!って手を振って教室を出ていくのに今日は少し違った。
「じゃ、部活行ってくるね」
「うん、朱莉ちゃん頑張ってね」
何だろう、何故か気まずい。
食堂での一言から朱莉ちゃんはいつもの調子が出てないし、私は私で一歩踏み出せないでいる。もどかしいけど、土曜日まで我慢しないとね。
朱莉ちゃんが教室を出てから数分経ってから私も教室を出て、通学で愛用している自転車を取りに行く。
「まぁ、明日は普通に話せるよね」
つい独り言をつぶやいてしまった。
明日、朱莉ちゃんと絶対に会えるなんて保証はないのに。
私の家までの帰路には大きな橋がある。橋の下には大きな川があって、雨が降らない日はとても緩やかに流れている。夕日に照らされた川はとても綺麗で、ついつい気を取られてしまう。
ガッシャン。
それにしても今日は一段と風が強いな。気を緩めたら自転車から転げ落ちそうなくらい。
オレンジ色に輝く川を眺めながら慎重に自転車をこいでいると、何かが倒れる音、女性の悲鳴の声、そしてクラクションの音が立て続けに聞こえた。
音の鳴る方に視線を向けると、私とは反対車線に幼稚園生くらいの女の子が車道で泣いていて、今にもトラックに轢かれそうだった。
状況から察するに女の子を自転車の後ろに乗せた母親が強風で転倒してしまい、その勢いで女の子が車道に飛び出してしまったのだろう。幸い、女の子はヘルメットを被っていたので、頭から血は流していないが危機が去ったわけではない。
母親は足を強打してしまったのだろう、立ち上がることすらできず助けを求めることしかできない。
しかし、残酷なことに周りには大人たちがいるのに誰も助けようとするそぶりを見せない。
お互いがお互いの顔を見てから女の子の方を見る。きっと誰かが助けてくれる、そんな感じだろうか。もしかしたら女の子を助けたら自分が轢かれてしまうかもと思っているのかもしれない。
もしそんなことを考えているのだとしたら、さっさと助ければいいのに。
え、私はどうなのかって?
そんなの決まってるよ。
「今助けに行くからね!」
自転車から降り全力疾走で女の子の方へは向かう。幸運なことに車の行き来があのトラックだけだったので、何も気にせず走ることができた。ちなみに私、短距離走には自信があるんだよね!
それにあの子、将来絶対に美少女になるよ!
恐いと轢かれちゃうとか考えてられない、絶対に助けなくちゃいけないよね!
私は女の子を抱きかかえて、駆け抜けた。制服のスカートがトラックに掠ったけど、ギリギリのところでトラックに轢かれずに済んだ。
よし、上手くいった!
そんなことを心の中で思って、周りを見渡すと私の方に向けて何か叫んでる。
何だろうと思っていると、みんなが叫んでいる理由が分かった。
私、勢いをつけすぎたのとアドレナリンが分泌して興奮してるせいで走るスピードが全然落ちてないんだ。
「ちょっ、嘘でしょ!自分の足なのに全然いうこと聞かないんだけど!」
その勢いのまま橋の手すりまで来てしまった。
まずい、女の子を助けたつもりがこのままはこの子と一緒に川に落ちてしまう。
それは私の望むところじゃない。だから、女の子には申し訳ないけど何とか近くにいる男性の方へ放り投げた。男性は何とか女の子をキャッチすることができたみたい。
さて、残された問題は私の今後についてなんだけど、もう諦めるしかないって感じかな。
橋の手すりが身体に接触したのを感じ、遂にその時が来たことを告げる。
「あっ」
「お姉ちゃんっ!」
程なくして私は頭から落下した。かなり高いしきっと、助からない。
でも、最期に人助けできて良かったから満足かな。何もしないで死ぬよりましだし。
いや、そんなことない。まだ生きていたい。
だって今日は新刊の小説を買って、電話で朱莉ちゃんにネタバレを含んだ感想を言って、怒られて、おやすみって言って。
明日は、今日の話の続きで楽しくお話して、土曜日には朱莉ちゃんから大事な話を聞いて。
月曜日にはまたいつもみたいに一緒に登校して。
なのにごめんね、朱莉ちゃん。
私、2つも約束破っちゃった。
頭に強い衝撃が来てからすぐに、意識が遠いた。