怒りの烈風
※2/8 7:50に第19部分を正しい内容に変更いたしました。お知らせしてくださった読者様、本当にありがとうございます。
「ほぼ無傷なんだけど!」
「ふん、我がただの風にやられるわけがなかろう」
あれれ、『エア』って攻撃魔法じゃないの!?
私はアルカとシルフの顔を交互に見ながら、表情で訴えてみる。
すると、アルカはなんだか申し訳なさそうな顔をしてから、口を開く。
「『エア』は初級魔法なので、ただ風を起こすことしかできません」
「そうなの!?」
「はい、『エア』を攻撃魔法として使うには属性を複合して使用する必要があるのです」
そうだったのかー。アルカもシルフも、それは先に言ってほしかったな。
『エア』が攻撃用の魔法じゃないとなると、どうやって暗黒騎士を倒そうかな。
多分、全力を出せば『ライト』で倒すことはできると思う。まだ数回しか魔法を使っていないけれど、何となくそんな気がする。
だけど、もしそんなことをすれば、妖精たちが大切に育ててきたこの森を吹き飛ばしちゃう。
私は森を壊さずに、暗黒騎士をどうやって倒そうか考えていると。
「ふん!ふん!」
暗黒騎士は何故か周りの木々を切り倒していく。
一体何のために斬り倒しているのか、想像できない。
「ちょっと、何してるんですか!?」
「少しばかり邪魔な木を切っていたまでよ。こんなもの少し切っても問題あるまい。くははは!」
暗黒騎士はさらに木々を切り倒していく。
邪魔だからって、妖精たちが歳月をかけて育てた木々を真っ二つにするなんて信じられない!
魔王軍ってみんなこうなのかな!?
「あの暗黒騎士、許さない」
「カノン……。そうですね、私の大切な森を邪魔だなんて言う輩には徹底的にお仕置きします!」
シルフも暗黒騎士を倒す気持ちが高まったみたい。
ここで一つ、私はとあることを思いつく。
「ねぇ、シルフ。相談があるんだけどいいかな」
「何でしょう?」
「もし私があいつをこの森よりも高く吹き飛ばすことができたら、気兼ねなく魔法を使えそう?」
「はい。ですが、どうやって暗黒騎士を上空まで飛ばすのですか?」
「花音の腕力では暗黒騎士を投げ飛ばすのは、不可能なはずですが」
アルカの言う通り、いくら強化魔法をかけてくれているからといっても、暗黒騎士を投げ飛ばすのは物理的に難しい。
だけど、今の私には腕力だけでなく、魔力もある。
「魔法があれば、不可能なことでも可能になる!」
私は、方法が合っているかは分からないけれど、手に魔力を込める。
イメージは、何者を上空へ吹き飛ばす強靭な嵐。
「それじゃシルフ、頼んだよ!『エア』!」
「ええ!?急すぎませんか!?」
急でごめんね。だけど、私から暗黒騎士が離れてる今がチャンスだから許して。
私は暗黒騎士の足元に魔方陣を展開させて、イメージ通り勢いのある風を巻き起こす。
暗黒騎士は吹き飛ばされまいと剣を地面に刺し、踏ん張っている。けれど、あの暗黒騎士を許さないって決めたから、私も負けまいと魔力をさらに高める。
「くっ、また飛ばされてたまるか……」
「飛んで―!!!」
「ぬっ!?これは本当に初級魔法か!?我が人間の弱小魔法に耐え切れぬなど、あ、ありえんっ!?」
そう言って、暗黒騎士は立派な剣を手放し、遥か上空へと舞い上がっていった。そして飛べるとこまで飛び、地面に引き寄せられるように落下する直前、暗黒騎士の下の方に深緑色の大きな魔方陣が現れた。
途轍もなく大きな魔方陣は、間違いなくシルフのものだ。
「貴方は私と妖精たちの怒りに触れました。容赦はしません。覚悟はいいですね?」
米粒程度にしか見えないほど上空にいる暗黒騎士には、きっとシルフの言葉は届いていないだろ。
それでも、言葉にせずにはいられなかったんだと思う。
それほどまでに、シルフは怒っているんだよね。大切な森を傷つけたあの暗黒騎士のことを。
大きな魔方陣は深緑の輝きを増していく。
「『ツオール・テンペスト』!」
シルフがそう叫ぶと、それに呼応した魔方陣は光り輝き、上空へ嵐を吹き荒らす。
その魔法は、私の初級魔法とは比べ物にならないほどの威力で、これがダメージを与える風魔法なんだと理解した。
米粒程度だった暗黒騎士は、嵐に巻き込まれさらに小さくなっていく。やがて、嵐が止みが暗黒騎士は影も形も無くなっていた。
これが精霊の力……。
その絶大なる力を目の当たりにし、私は精霊たちを守る必要あるのかなと考えてしまう。
……深く考えるのはやめておこうかな。
「はあ」
戦闘時に張っていた気を緩めるために、息を深く吐くと、シルフとアルカが私の方へ歩いてきた。
二人の表情は対照的で、アルカが驚いたような顔をしているのに対し、シルフはとても嬉しそうな顔をしていて、少しだけ面白かった。
「暗黒騎士、倒しちゃいましたね」
「はい!それに大切な森を傷つけずに済みましたし!ありがとうございます、カノン!」
「わわっ、急に抱きつかないでよシルフ!」
「すみません、じゃあ離れます」
「ごめん、永遠にギュッとしてくれる?」
シルフは私の頭を撫でつつギュッと抱きしめてくれる。
美女にこんなことをされるなんて、滅多にない機会だからね。
存分に味合わせていただきます。はぁ~幸せだな~。
「花音……」
シルフの胸の中に顔がうずくまって幸せを感じていたら、アルカの冷えた声音が聞こえた。
もしかして、また変態とか言われて罵られるのかな。
可愛い女の子から罵られる機会も滅多にないから、いいけどね。
「どうしたの、アルカ?」
私はシルフから離れ身体ごとアルカの方を向くと、なんとアルカが私の胸に飛び込んできた。
そして。
「大きな怪我がなくて良かったです。よく頑張りましたね、花音」
アルカは目元に涙を浮かばせながらも、ホッとしたように笑顔で私を褒めてくれた。
言葉で責められると思っていたから、この展開は想像もしていなかった。
嬉しいな。
そして、私はシルフのハグとアルカの笑顔のダブルパンチに耐え切れず、興奮して鼻血を出すのだった。
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次回は2月7日 19時00分に投稿します。