暗黒騎士
「うわ、人が吹っ飛んできたよ。ていうかすごい怪我してるよ!」
私たちのところまで吹っ飛んできた青年は重症ではないにしろ、かなりの怪我を負っていた。
所々、刃物で切られた傷があり早く治療しないと大変なことになるかもしれない。
私は青年の方へ駆け寄り、アルカから受け取ったもう一つの魔法を使う。
「『ヒール』」
魔法を使うと青年の怪我が見る見る治っていく。
私が治療している間、スライムが私に何度も体当たりしてきたけど、あまり痛くないので今は気にしないことにした。
ヒールも初級魔法のはずだけど私の魔力が高いことが幸いして、傷一つ残らず治療することができた。
「ふー、何とかなったね」
「それにしてもこの人は何と戦っていたのでしょう?」
確かに、こんなになるまで何と戦っていたんだろう。
私が立ち上がると足元にスライムがまだいた、そういえばこの子の存在忘れてた。
「む~」
声のする方を見ると、シルフがとても嫌そうな顔をしてスライムのことを見てた。
スライム嫌いなのかな、そしたら倒しちゃった方がいいよね。
「『ライト』」
私が魔法でスライムを倒すと、シルフはものすごく嬉しそうな顔をして私のことを見ていた。
そんなに嬉しそうな顔をするほど、私は特別なことをやってないんだけど。
「ありがとうございます、カノン!」
「いや、大したことしてないよ。というかスライムならシルフが倒せばよかったんじゃ?」
「それはその、いろいろと事情がありまして...」
色々ってなんだろ。
気になるけど、詮索しない方がいいよね。
「それよりもシルフ様、まずいことになったのではないのですか?」
「そうですね。何者かが私の結界を破ったためにスライムがここまで来たのでしょう」
「何者かって、もしかして魔王軍?」
「スライムがいるということはその可能性が高いですね」
「そして、この青年が何者かと戦っていたということでしょう」
青年はまだ気を失っていて起きる気配がない。
一人で戦っていたのかな。
すると、また大きな爆発が起き森の方から二人の女の子がこちらへ走ってきた。
その二人を追うように、真黒な甲冑に禍々しい大剣をもった騎士が森から出てきた。
「おいおい、逃げてるだけじゃ我を倒すことはできんぞ」
「うるさい!勇者が、キョーヤがいればお前なんて!」
「キョーヤとは先の戦いで瀕死になっていた奴のことか?今頃我の魔法を受けて死んでいる頃...ん?」
騎士は私の方、ではなく勇者のキョーヤと思われる人物を見て一瞬固まった。
「...なぜ傷が治っている」
「本当だ、キョーヤ大丈夫!?」
「キョーヤ君、無事でよかったよ」
女の子たちが勇者君の元へ駆け寄る。
それにしてもこの人が勇者だということは、この結界を破ったのはこの騎士なのかな?
「貴方ですか、私の結界を破ったのは」
シルフは静かに、だけどいつもより低い声で騎士に問いかける。
多分、今のシルフはかなり怒ってる。
「結界を破ったのは我ではない、我が主ベリアル様だ」
「ベリアルがここにいるんですか!?」
アルカがすごく焦っていたけど、私もすごく焦ってる。
シルフが幻影で創ったベリアルですら、何とか倒せるレベルだったのに本物が来たら間違いなくやられる。
「いや、ベリアル様は結界を破ってからどこかへ向かわれ、ここは我しかいない」
騎士は剣を構え直し、戦闘態勢に入る。
「しかし、勇者と精霊を倒すなど我一人で十分!暗黒騎士・ガンブロック、参る!」
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次回は2月5日 19時00分に投稿します。