初陣
青いゼリー状の物体が私たちのことをじっと見ている。
「これは、スライムですね」
「スライム」
どこかで聞いたことのある名前だな。
思い出した、結衣ちゃんに借りたRPGに出てきたモンスターだ。
確か、かなり序盤に出てきたモンスターだった気がする。
「これは困りましたね」
「どうして?」
もしゲームの世界とこの世界にあるスライムの戦闘力が同じなら、私でも倒せると思うんだけど。
「このモンスターは魔王軍の手下なのですが、この森にいるはずがないんです」
「もしかして、魔王軍がこの森を侵略しに来てるってこと?」
「そのようですね」
それって結構まずい状況なのでは。
魔王軍はもう侵略を始めてるってことだよね。
しかも、精霊のいる場所にまで侵略しにきてるってことは、アルカの同胞が危機に晒されてるかもしれない。
「とりあえず、このスライムをどうにかしなくちゃだよね!」
「ええ、戦闘力はモンスターの中で最弱なので、今の花音でも倒せると思うのですが...」
「思うってどういうこと?」
「実は、花音に与えられている精霊の加護は完全ではないのです」
「何ですと?!」
え、嘘でしょ!
完全じゃないって、じゃあ私は今何ができるの?!
「今花音に与えられている加護は私の加護だけなのです。使える魔法はどちらも光属性でヒールとライトぐらいですね」
「ヒールとライト?」
「はい、ヒールは回復、ライトは攻撃魔法で、初級の魔法ですね」
初級ということは、中級や上級の魔法もあるんだ。
ていうか、今はそんなことを考えてる場合じゃない!
私初級魔法しか使えないの?!
「もっと強い魔法は使えないの?」
「すみません、私の魔力が万全であればもっといい加護を与えられるのですが...」
あぁ、アルカがしゅんっとしちゃった。
アルカは何も悪くないのに。
「とりあえず、そのライトっていうの?使ってみるよ。ところで魔法ってどう使えばいいの?」
「魔法はイメージです」
「ほう」
魔法はイメージですか。
「すみません。この世界では魔法を使うことは呼吸をするのと同じなので、どう教えればいいのか分からないのです」
確かにどうやって息を吸えばいいですかと聞かれても、さっと答えられないな。
ということは自分で何とかしないといけないね。
とりあえず、魔法を使ってみよう!
さっきのスライムに向けて、ってあれ。
「何か大きくなってない?」
「いつの間にか大きくなってますね」
少しアルカと話をしていた合間に、スライムがビックスライムになっていた。
これ、初級魔法で倒せるのかな?
考えても仕方ないし、まずは魔法を使おう。
魔法が使えなきゃ話が始まらないし!
手を前に出して、光がビューと出てくるイメージで魔法を使おう。
「イメージ、イメージ」
イメージが固まってくるごとに身体中から差し出した手にかけて、何かが巡ってく感覚がした。
きっと体内の魔力が手に集中してるんだと思う。
魔力がたまってきた感じがする、今なら打てそう。
「『ライト』!」
私がそう唱えると手から光の魔法が放たれて一瞬、前が見えなくなった。
眩しいけど、とりあえず魔法は問題なく使えたみたいでホッとした。
すぐに光は収まったので、私は状況を確認してみた。
目の前には大きなスライムがいなくて、代わりに地面が結構抉れてた。
この森の地面ってそんな柔らかかたっけ?
アルカの方を向けば、驚き過ぎて口を閉じるのを忘れてしまっているみたい。
「この世界の魔法って初級程度でも結構威力があるんだね」
「そんなわけないじゃないですか!ライトなんて小さいスライムを倒せるか倒せないかぐらいで、どんなに極めたとしても地面が抉れることなんてないですよ!」
「そ、そうなんだ」
「そうですよ。花音、貴女は一体何者なんですか!?」
そう言われましても。
「魔法が使えるようになった人間です」
こう答える以外ないよ。