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せかいでいちばん好きな色  作者: おきょう


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1 王太子様から告白されました



「エマ・グレーシー。どうか私の伴侶になってもらえないだろうか」 

 

 パーティーで私にそう告白してきたのは、サラサラの金髪に優しそうな顔立ちの、絵にかいたような『爽やか系王子様』。

 この国の王太子、アレッサンドロ・ローエン殿下だ。

 

 まわりから驚きの声があがる中、私は言われた台詞をすぐにはのみこめなかった。

 だってビックリしすぎて。

 おろおろ戸惑いながら聞いてみる。


「あ、あの、アレッサンドロ殿下。伴侶とはその……私を妃にむかえたいということで間違いないのでしょうか」

「あぁ。君を私の正妃として。次期王妃にしたいと思っている」


 そう言って、アレッサンドロ殿下は私の手を取った。

 そのままゆっくりと跪いた彼に、うやうやしく手の甲へと口づけられる。


 触れるやわらかな唇の感触。

 嬉しさと恥ずかしさに、私はとたんに真っ赤になった。

 

「まぁ……!」

「エマ……。どうか、受けてもらえないだろうか」


 彼の耳をすっと通る声に、ついうっとりした気分になってしまう。


 ……アレッサンドロ殿下が学園を卒業して一年。

 十七歳になり、王城で開かれる今年一番に盛大なこの宴の席で伴侶を決めるのではと噂が広がっていたのは知っていた。

 同じ年代の令嬢たちは普段にもまして着飾り、そわそわとした落ち着かない雰囲気でいた。

 でもまさか、私を選んでもらえるだなんて思わなかった。


「アレッサンドロ殿下。その……私は一応公爵家の娘ではありますが、この通り地味な見た目な上、特別な技能ももっておりませんわ。どうして私が?」

「何を言う。学生時代、常に主席の成績を取り続けた才女だろう。この国の国母にふさわしいと私は思う」


 才女――まさか私のことをそんな風に評価してくださっていたなんて。


 物静か……といえば聞こえは良いが、つまりは成績だけしか取り柄のなかった私の学生時代。

 黒髪に黒瞳からの印象も相まって、根暗で地味な奴と陰で嗤われていたような存在だ。

 華やかな人々に囲まれたアレッサンドロ殿下とは、同級生であっても会話らしい会話をしたことなんてなかった。


 なのに実は私のことを見てくださってたの?


 あまりに突然の意外すぎる申し出に混乱して、眩暈さえおぼえている。


 でも、断る理由なんてなにもないわ。

 だってこんなに素敵な王子様からの求婚よ。

 嬉しいという感情以外は沸いてこない。


「お嬢様! 旦那様のご指示を仰いでからの方が」


 後ろについている侍女のオティーリエが小声でそんな事を言ってくるけれど、待てるはずないじゃない。


 返事を待ってもらっている間に、アレッサンドロ殿下の気が変わってしまったらどうするの?

 王太子殿下との結婚を受けるのは、我が家にとっても利益でしかないはず。

 反対なんてされるはずがない。そう、絶対に。



 殿下の瞳の熱にのぼせた頬をゆるめた私は、ゆっくりと頷き、自分の手を取るアレッサンドロ殿下の手にもう片方の手を重ねた。

 そうして震える声で、今できる一番綺麗な笑顔を彼にむけた。


「どうぞ末永くよろしくお願いいたします。アレッサンドロ殿下」



* * * *



「まぁ結果的には少し怒られたけれど、無事に認めていただけてよかったわ」


 私室のバルコニーに出したソファに座りつつの、日向ぼっこ中。

 台紙におさめられた婚約の誓約書を手に、私はにんまりと口の端をあげた。


 アレッサンドロ殿下から求婚されてから三カ月。

 勝手に返事をしたことにお父様には少し怒られたけれど、やはり相手が王太子殿下ということ、そして私の熱意によって、結果的には承認されることとなった。

 親同士の話し合いや色々な調整の末、やっと婚約の締結の証である誓約書が交わされたのがつい昨日のことだ。


 これで晴れて私達は正式な婚約者になった。


「ふふっ。ふ、ふふふふふふふふふふ!」


 告白されてから三ヶ月間、首を長くして待ってたの。

 誰もが憧れる王太子殿下のお嫁さんになれるなんて夢のようで。

 もう笑いがとまらない。


「ふふふふふふふ」

「お嬢、気持ち悪いです」


 一人で笑い続ける私に、呆れた顔で嘆息したのはバルコニーの柵の前に立つ護衛。

 オリーブという男だ。


「一番幸せな時期ですもの。しかたないですよねぇ」


 対してくすくす笑いながら隣に立ってお茶を淹れてくれるのは、侍女のオティーリエ。


 この護衛のオリーブと侍女のオティーリエが、側付きとしていつも私と一緒に行動している人たち。

 二人とも茶色い髪に薄紫の瞳。

 男女の違いはあるものの、良く似た容姿をした双子の兄妹だ。

 出会ったのが六歳の頃だから、もう十年ほどの付き合いになるのかしら。


「はい、紅茶が入りましたわ。お砂糖は二つですわよね」

「オティーリエ、有り難う。凄くいい香りね」

「新しい茶缶を開けたばかりですから、特に香りが引き立つのでしょう」


 淹れてもらった香しいお茶を美味しくのんでいると、オティーリエが頬に手を当てつつ口をひらいた。相変わらずのおっとりとした口調だ。


「エマお嬢様の婚約は、おめでたいことではあります。が……」

「……が? 何?」

「そのぉ……いままで何の接点もなかったお嬢様に、突然求婚してくるなんて、やっぱり少し違和感がありますわ」

「俺もその点についてはオティーリエと同意見です。婚約するにしても、もう少し慎重に進めるべきだったのでは?」

「まぁ二人ともどうして反対するの?」

「反対してるわけではありませんわ」

「もう少し慎重にと、忠告してるんです」


 心配性すぎる双子に、私は肩をすくめた。


「アレッサンドロ殿下といえば性格良し、顔良し、頭良し、の期待の王太子様じゃない。何一つ心配なんてないわよ」


 そう。アレッサンドロ殿下は誰もが認めるとっても素敵な人なのだ。


「――大丈夫よ」


 私は彼らを安心させるため、二人の顔をそれぞれしっかり見て笑顔を返した。





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