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フィオナの覚悟

 わくわく顔のセリシアと、フィオナに少し心配げな視線を向けた寡黙(かもく)なレベッカと、(いか)めしい表情を取り(つくろ)いながらも笑みの零れるトマス。

 買い出しへ向かうそんな三人をにこやかに見送った後、俺とフィオナは、(ふたた)び、応接室のソファーへと腰を下ろした。


 よっこらしょ。


 声に出したつもりはなかったのだが...フィオナに、笑われた。


「あれ? 声に出てた?」

「はい。少し、ですけど」

「ははははは。俺も(とし)だからねぇ」

「え? そうなんですか?」

「ん? フィオナには、俺が何歳に見える?」

「そうですね...」


 ちなみに、俺の外観というか容姿は、高校生とも若い社会人とも取れそうでいて大学生くらいに見えなくもない年齢不詳な感じのこれといった特徴のない男子、の筈。

 勿論(もちろん)、仕草や表情などには本来の自分の癖が出るので、実年齢からそれ程は乖離(かいり)していない見た感じになる、と聞いている。

 フィオナは、そんな俺の素朴な質問に対して、真面目に考えて悩まし気に言い(よど)躊躇(ちゅうちょ)する、という面白い状態に(おちい)っていた。

 ()真面目な子、だよな。

 俺は、微笑ましく思いながら、敢えてこの場を設けることにした本題、の話を切り出すことにする。


「ははははは。俺の年齢については、またの機会に、という事にして。君たちの今後に関する話を、続けても良いかな?」

「...あ、はい。どのようなお話でしょうか?」


 俺は、少し、居住まいを正し、背筋も心もち伸ばして、フィオナの眼を見る。

 フィオナが落ち着いていることを確認してから、俺は、話を続ける。


「君たちには、親戚や身内など頼れる大人が誰も居ない、んだよね?」

「はい、そうです」

「そうでありながらも、君たちだけでの自立を望む、という事だったよね?」

「はい」

「それは、つまり、君たちの中の誰かが責任者になる、という意味で良いのかな?」

「どうでしょうか...」

「まあ、対外的には明確な責任者を置かない、という選択肢も無い訳ではない、けど」

「...」

「現実問題として、誰かが決断をして何かあった場合には責任を取る、という事になるね」

「そう、ですね」

「で、その(せき)を負う人物の候補になる筆頭は、フィオナ、君だよね?」

「...」

「性格や能力とこれまでの手腕など見ても、三人の中であれは、フィオナが適任だと思う」

「...。ありがとうございます」

「まあ、レベッカも、もう少し経験を積んで、あと何年か努力を続ければ、君とは別タイプのリーダーになれそうな気もするけど...」

「そうですね。セリシアも、レベッカも、頑張ってくれているので、いつかは誰かに引き継ぐことになるとは思いますが、暫くは、私が責任者の役割を(にな)うつもりです」


 自信満々といった感じは欠片(かけら)も無く、悲壮な覚悟といった雰囲気を(ただよ)わせるフィオナ。

 彼女に自覚と覚悟があると確認できたのは良かったのだが、悲観的なのは(よろ)しくない、と思う。

 まあ、現状とこれまでの経緯が、彼女をそうさせているのだろうが...。

 真っ直ぐに見返すフィオナに、俺は、意図的に軽く見せた笑いを浮かべながら、もう一歩踏み込んでみる。


「その覚悟があるのであれば、当然、君自身の抱える問題についても、出来るだけ速やかに解消する心づもりはある、と考えても良いのかな?」

「私の抱える問題、ですか...」

「そう。足が不自由なのは、補助(アシスタント)キャラの契約違反に対するペナルティとしての身体異常。だよね?」

「私の左足、ですか...」

「違うのかい?」

「いえ。間違っていません」

「あまり立ち入ったことを(たず)ねるべきでないとは思うし、ハラスメント・コードに抵触する恐れもあるので、君が嫌がるようであれば話題にしない方が良い、とは思う」

「...」

「俺も通常であればそんな事は聞かないし、他の冒険者プレイヤーたちも契約違反ペナルティーありの(アイコン)が表示されているNPCに眉を(ひそ)めることはあっても関わろうとする事はない、と思うよ」

「そうですね」

「まあ、君自身にも自覚があるようなので、クドクドとは言わない。けど、改善は必要だ」

「はい」

「で、直す為には、まず、その原因と状況を把握する必要があるんだけれど。君の事情を、俺に、教えてくれるだろうか?」


 フィオナは、困ったような表情で、少し口ごもった後、口を開いた。


「はい。私の分かる範囲内であれば、お話したいと思います。ただ、私にも、何が違反行為だったのか分かっていないので...」


 * * * * *


 フィオナから、彼女の半生についての話を、彼女の記憶にある範囲内で振り返りながら(かた)って貰っていると、部屋の扉の外が騒がしくなった。


 ドだんっ。


 と、勢い良く、部屋の扉が開いた。


「ただいまぁ~、フィオナ!」

「お帰り、セリシア。もう少し、お淑やかにね」

「ごめん、ごめん」

「レベッカも、お帰りなさい」

「ただいま」


 三人娘が、明るく(ほが)らかに、再会(?)を喜び合っている。

 その後ろから、仏頂面の少し崩れたトマスが、大量の荷物を抱えて入ってくる。


「トマスも、ご苦労様。しかし、お前、少しチョロ過ぎないか?」

「はぁ?」

「おいおい、口調が崩れすぎ。お仕事モードは、何処へ行ったのやら...」

「た、只今戻りました、旦那様」

「はいはい。おっ、セリシアちゃん、その帽子はどうしたんだい?」

「トマスさんが、買ってくれたんです」

「ほお~、良かったね」

「はい。耳が目立たないように、って。可愛い帽子を、選んでくれたのです」

「そうかぁ、良かったね。トマスが、ねぇ~」

「こ、この街では獣人は珍しいので、ぱっと見くらいは誤魔化さないと...」

「はいはい、はい。セリシアちゃんが可愛いからって、トマスも大甘、だねぇ」


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