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三人娘の望み

 屋敷の応接室の応接セットのソファーで、俺は、(くつろ)いでいた。

 背後に、仏頂面で少し不機嫌なトマスが陣取っているが、全く気にしない。

 向かいの三人掛けのソファーには、風呂上がりでサッパリして、先刻(さっき)までご機嫌だった三人娘。

 彼女たちも、流石(さすが)に今は少し緊張しているようだが、雰囲気そのものは悪くない。


「まず、最初に。念のための確認だけど、君たちは三人とも、元は、冒険者プレイヤーの補助(アシスタント)キャラクター、で間違いないね?」

「「「はい」」」

「君たちと一緒に暮らしている子供たちも全員、君たちと同じ、所謂(いわゆる)ところの元サーバント、と考えて良いのだろうか?」

「えっとぉ...」

「うぅ~ん...」

「た、たぶん、そうだと思います」

「そうか」


 彼女たちは、規律重視の縦社会的な組織の構成員ではなく、身を寄せ合う互助組合的な緩やかな集団の仲間で、自分たちが世間からどのように認識されているかも自覚している、と考えて問題はなさそうだ、な。

 しかし。どう見ても小学校中学年から高学年にしか見えない、まだ(おさな)いと言える子供たちだけでは、何かと問題は山積みなのだろう。


「そういえば、君たちは、何歳だい?」

「「九歳!」」

「私たちは、三人とも九歳で、ここに居ない子供たちは四歳から六歳だと聞いています」

「そうか...。大人はいない、んだよね?」

「うん」

「子供だけ」

「そうです。私たちが最年長、です」

「それは、何かと大変だね」

「「...」」

「そうですね。生活費の確保や食料の購入には、割と苦労しています」

「そう...だろうね」

「私たちの仲間には、(ひと)りボッチになった時点で必要最低限の衣服や生活用品しか持っていなくて、初日から生活に困って途方に暮れる、といった状況に(おちい)っていた子も多かったので、今に始まった話でもないですが...」


 九歳にして既に人生を(さと)った様な表情を浮かべるフィオナ。

 その原因を作ったのが俺と同じ冒険者プレイヤーだと思うと、何とも()瀬無(せな)い気分になる。

 ついつい、暫く沈黙してしまったが...。気を取り直して、必要事項の確認を続ける。


「えっと。次の質問は、君たちの住居と生活費について、なんだけど。教えてくれるかい?」

「住む場所は、セリシアの受け継いだお家があるから、大丈夫」

「お金は、僕が受け継いだ物の中に色々とあった便利なアイテムを、売った代金」

「街外れにあるセリシア名義の一軒家に住んで、皆の持ち物を売り払ったお金で生活していますが...」

「問題があるんだよね?」

「「...」」

「はい。所有権はあり、街外れとは言え敷地も広いのですが、家屋はボロボロです」

「それから?」

「「...」」

「元から多くの物を持っている訳でもなく、私たちには信用も無いので、手元にはもう、買い取って貰えそうな物が(ほとん)ど残っていません」

「そうか。現状は、かなり厳しいね」

「「...」」

「はい」

「正直に答えてくれて、ありがとう」


 俺は、セリシア、レベッカ、フィオナの順で、顔を見て視線()を合わせて、にっこりと笑った。

 彼女たちからひと呼吸おいて返ってきた笑顔は、少しぎこちなかった。が、まあ、仕方が無い。


「で。最後の質問なんだけど...」

「「「...」」」

「俺に出来ることであれば、君たちの希望を(かな)えてあげよう。と言ったら、何を望むかな?」


 * * * * *


 (まず)しくても、自立したい。援助は欲しいけど、(ほどこ)しが欲しい訳じゃない。

 誰かに頼っていると、また、その人が居なくなった時に困窮(こんきゅう)するから。

 たどたどしい言葉で、時おり考え込みながらも、フィオナが一生懸命に話してくれた、彼女たちの望み。

 セリシアも、レベッカも、フィオナの言葉に何度も(うなず)いていた。


「君たちの望みは、分かった。俺に何ができるか、少し考えてみるよ」

「ありがとう!」

「...」

「よろしく、お願いします」

「けど、なかなか難しい注文(オーダー)だよね」

「「...」」

「すいません」

「いやいや。別に変な意味ではなくて、難しいクエストに腕がなる、といった感じなんだけど...。残念ながら、直ぐには良いアイデアが浮かんで来ないので、少し考える時間が必要、ってところかな」

「そうだよね~」

「...」

「やはり、一度は、私たちの家と他の子供たちの様子を見て頂いた方がよい、のでしょうが...」

「うん、まあ、そうだけど、もう少し、俺に対しての様子見は必要だと思うでしょ?」

「「...」」

「はい。すいません」

「ははは。気にしない、気にしない。家に帰って(みんな)で相談してから、また、来てくれれば良いよ」


 俺は、振り返って、ずっと後ろに控えて話を聞いていたトマスを見る。

 トマスは、眉間に(しわ)を寄せた難しい顔で、考え込んでいた。


「トマス」

「...はい。旦那さま」

「彼女たちに、お土産を用意したいんだが」

「食料が良いのですよね...。何名分が必要でしょうか?」

「目の前の三人娘の他に、幼い女の子が五人いるそうだ」

「承知致しました」

「まあ、屋敷には適切な物がないだろうから、トマスが、セリシアとレベッカを連れて買い物に行って来てくれないか?」

「...」

「頼んだよ」

「...はい。畏まりました」


 トマスが、何を考えている? と言いたげな表情(かお)(にら)んできたが、スルー。

 俺は、顔を前に戻して、改めて、フィオナたち三人娘と向き合う。


「と、いうことで。申し訳ないが、セリシアとレベッカは、トマスと一緒に買い物をしてきてくれないかな?」

「はい」

「...」

「フィオナには、この屋敷の中を色々と見て貰いながら、もう少し話を聞かせて欲しいな」

「はい。分かりました」


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