三人娘と執事
俺は、元気溌剌な猫耳少女のセリシアを右手で、小柄で男の子っぽい少女のレベッカを左手で、それぞれの首根っこを掴んで持ち上げた状態にして持ち運び、大人しくて少し足の悪いフィオナを後ろに従え、屋敷へと帰還した。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「ああ。今帰った」
「今日はまた、変わった獲物をお持ち帰りで」
「ははははは。真顔で冗談を言うな。子供たちが誤解して、ビビっているだろうが」
「失礼致しました」
「ふん。急ぎで、重めのおやつの準備を頼む」
「畏まりました」
慇懃無礼な無表情の執事モードのまま、踵を返して厨房へと向かうトマス。
俺は、そんなトマスをその場で見送ってから、セリシアとレベッカを床に降ろし、フィオナと向き合った。
「さて。フィオナ」
「はい」
「「...」」
「取り敢えずは、来訪を歓迎するので、応接室へどうぞ」
「あ、あの」
「ん? なんだい?」
「あの、私たちみたいな、身なりの良くない者がご訪問して、迷惑じゃなかったでしょうか」
「いや。俺は冒険者だし、冒険者は身なりがキチンとしてる者ばかりではない、と思うけど?」
「そ、それは、そうなんですが」
「ん? もしかして、今日も洗浄の魔法が必要なのかい?」
「...」
「ああ、そうだな。女の子だから、お風呂の方が良いか。じゃあ、先に、風呂を貸そう」
「「「えっ」」」
「トマスには、俺が帰る時間を予め伝えておいたので、たぶん、用意はできているとは思うんだけど...」
取り敢えず、俺は、何やら遠慮している三人娘を、応接室の三人掛けソファーに座らせてから、トマスを探すために、屋敷の奥にある厨房の方へ向かう。
と。
パンケーキとクッキーやフルーツを満載したお茶セットのワゴンを押したトマスが、現れた。
「トマス。風呂の準備は出来ているよな?」
「はい。勿論、準備は出来ておりますが、まさか来客中に入浴ですか?」
「何だ、その軽蔑の眼差しは」
「いえ」
「俺じゃなくて、彼女たちが、だ」
「変態」
「こらこらこら。どうして、そうなる」
「冗談です」
「はあ。楽しそうで、何よりだ」
「お褒めに預かり、恐縮です」
「はい、はい。パンケーキは温かい方が良いだろうから、少し腹ごしらえをしてから入浴するよう彼女たちには伝えておいてくれ。その後で、彼女たちを浴室に案内するように」
「承知致しました」
「俺は、自室に居るので、彼女たちの入浴が済んだら、呼びに来てくれ」
「分かりました」
「よろしく頼む。...ああ、覗きは厳禁だぞ」
* * * * *
風呂上がりでサッパリしてご機嫌な三人娘を、前に。
捨て台詞とした冗談を未だ根に持って不機嫌な顔のトマスを、背後に。
俺は、懐のみに短剣とアイテムを装備した普段着の状態で応接室のソファーに寛いで座り、お茶を楽しんでいた。
「ふぉあ~。やっぱり、お風呂は気持ちいいですね」
「うん。高級石鹸とかシャンプーとかがあると、やっぱり違うね」
「お洒落なバスタブとか、お湯が使い放題とか、幸せよね」
「幸せと言えば、さっきのパンケーキも美味しかったし、このクッキーも美味」
「うん。美味しいね」
「そうね。美味しい食べ物が食べられるって、幸せよね」
うん。喜んで貰えて、なにより、だ。
三人娘が、俺の前で委縮することが無くなったのも、グッド。
少しばかり背後からの不機嫌オーラが気にならない訳でもないが、まあ、よくある事なので問題なし。
「さて。それじゃあ、君たちが態々訪ねて来てくれた本来の目的を、片付けてしまおうかな」
「うっ」
「...」
「そう、ですね」
「この前、君たちが街のパン屋さんで困っていた、その事情や背景を教えて貰える、ということで、良いかな?」
「はい」
「「...」」
「とはいえ、君たちそれぞれの個別の事情まで無理に話して欲しい訳ではないので、俺がいくつか用意する質問に答えて貰う、といった方法で、どうだろうか?」
「分かりました」
「うん」
「了解、です」
ようやく。三人娘も話してくれる気になった、ようだ。
これで、やっと、元サーバントらしき野良AIと呼ばれて困窮している子供たちの事情を、聞けることとなった。
彼女たちに不快感を与えないよう注意しながら、現状の問題点を把握して、彼女たちにとって好ましい解決策を一緒に考えたい。と、思う。