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アシスタントに相談

 結局。本日の予定は、全く消化できないままで、日が暮れた。

 が、予定通りの時間に、この世界で一番慣れ親しんだ我が屋敷へと、帰着する。


「お帰りなさいませ、旦那様」

「ああ。ただいま」


 背中に背負っていた大剣を降ろし、この屋敷の執事であり、俺の補助(アシスタント)キャラでもあるトマスJr.(ジュニア)に渡す。

 彼は、若いが優秀なAIキャラクターなので、剣の手入れも自分で(こな)すのだ。

 ちなみに、残念ながら、俺に剣の手入れは出来ない。

 トマスにお任せ、だ。

 勿論(もちろん)、定期的に専門の生産職プレイヤーに預けて、本格的なお手入れや属性付与などの特殊加工は別途に任せているのだが、普段のお手入れも重要なのだ。


「トマス」

「はい。何でしょうか、旦那様」

「あー、まあ、執事らしく振る舞うのも良いんだけど」

「...」

「少し相談事があるので、もう少し、くだけた感じで頼むよ」

「左様ですか」

「ああ。応接室で、酒には少し時間が早い気もするから、紅茶でお茶菓子でもつまみながら、話をしようか」

(かしこ)まりました」


 トマスが、俺の剣を持って奥の部屋へと引っ込むのを見送ってから、俺も、いったん屋敷内にある自室へと移動する。

 冒険用の装備を外して片付けて、普段着に着替え、(ふところ)に愛用の短剣といくつかの特殊アイテムのみを装備し直して、応接室へと向かう。

 俺が応接室に入ると、既に、トマスがお茶の準備を整えて待っていた。

 俺は、苦笑いをしながらソファーに座り、トマスに向かいの席を(すす)める。

 いつもの事なのでいい加減に慣れてくれても良さそうなものだが、執事の職務に(こだわ)りがあるトマスは、応接セットで俺の向かいの席に座らされると、渋い顔、になる。


 そんなトマスに、俺は、先程まで一緒だったセリシアとレベッカとフィオナのことを話し、元サーバントの身の振り方について何か知っている事はないか、と聞いてみた。

 トマスの、渋い顔、が更にグレードアップした。

 苦虫を食い潰したような、という奴だ。面白い。


「アッシュさんは、相変わらず、何も考えていませんね」

「え? そうか?」

「そうです」

「いやいや。そんな事は無い、だろう」

「いいえ。考えが、全く足りてません」

「そうかなぁ。あまり無理強(むりじ)いは良くないかと、取り敢えずのお困りごと解決をしてみたんだが...」

「そんな不特定多数のNPCの前で、明らかに無関係と分かる冒険者プレイヤーが野良AIに大盤振る舞いなどしていたら、変に注目を集めて、良からぬ(やから)につけ入るスキを与えてしまうのが関の山、です」

「野良AI、って...。その呼び方は、どうも好きになれないなぁ」

「世間では、そう呼ばれているのです。ご認識下さい」

「う~ん。プレイヤー以外には、他人のステータスなんて見えないんだよな?」

「見えなくても、人の(うわさ)という奴は恐ろしいものなんです」

「そうかなぁ?」

「そうです」

「で。彼女たちのように、身寄りがなくて貧困に(あえ)いでいる子供たちって、多いのかい?」

「...いえ。この街では、あまり聞きません」

「う~ん。そうなのか」

「はい」

「と、いうことは。彼女たちのグループの八人だけが、特別?」

「残念ながら、現時点では、何とも申し上げられませんね」

「そうだよな。じゃあ、少し、調べておいて」

「はぁ...。(かしこ)まりました、旦那様」

「ははははは。よろしく!」


 * * * * *


 何気(なにげ)に優秀で、独自の情報網も持っている執事のトマス。

 そのトマスでも、この街でひっそりと暮らす身寄りのない子供たちについて調べるのには、少しばかり難儀しているようだ。

 今日で、トマスに調査を依頼して二日が経った。が、まだ一度も報告がない。

 と言っても、あの後、暫くしてから睡眠を取るために現実世界に戻り、翌日の夕方に再度ログインしてから直ぐに以前から予定していたモンスター退治のクエストに出かけて現在に至っているので、調査結果を確認する機会もなかった訳なのだが...。


 俺は、昨日の夕方からほぼ丸一日をかけて、街から少し離れた場所にある通称「魔物の森」まで行って指定された魔物を狩り、今、やっと街に戻ってきた。

 城壁の門を、今日も、顔馴染みとなった門番に軽く目礼しながら、ギルドカードを見せて通り抜ける。

 そして、特に考えることもなく、体が覚えている道順を辿(たど)り、勝手知ったる馴染みの素材屋へと、足を運ぶ。

 目的の店の入り口で、小さな鈴が内側の上部に取り付けられた木製の扉を、開ける。


 チリリンッ。


 控えめな音色を聞きながら、店内へと入る。

 そして。

 正面に(しつら)えられている丈夫そうで年季の入った木製のカウンターに陣取っているこの店の主人に、右手を軽く上げて挨拶した。


「お待たせ。ご要望の品を、狩って来たよ」

「おお。サンキュ!」

「しかし、相変わらずウィルの話は()てにならないよな」

「あぁ? 何が違ったって言うんだ、アッシュ」

「まあ、確かに。ウィルが言っていた条件を満たす場所に、ご要望の魔物は居たよ」

「そうだろ」

「そう。いることは居たんだが、あれはない、と思うぞ」

「はあぁ? 何がだよ」

「...まあ、いい。魔物のランクの割に提示されていた報酬が良かったんだから、そういう事、なんだろ?」

「ふん」

「別に断りはしないんだから、最初からそう言ってくれた方が助かるんだが...」

「ほらほら、さっさと、採ってきた物を出しな!」

「へいへい」


 素材屋も経営している生産職プレイヤーであるウィルから、魔物から得た素材の対価として相当額の貨幣を受け取り、腰に下げたアイテムボックスに収納。

 店番をしながらも早速(さっそく)、買い取った素材の下拵(したごしら)えに没頭し始めたウィルに、軽く手を振って挨拶しながら、俺は店舗から出た。

 ウィルにも、三人娘の件を少し相談してみようかと思っていたのだが、何だか疲れて、その気が失せてしまったのだ。

 俺は、またもや、体が覚えている道順を、自動運転状態で辿(たど)るに任せる。

 心ここに在らずの状態で、取り留めもないことを考えながら、俺のこの街における活動拠点である自身の屋敷に向かって歩いて行く。

 暫く歩いて、あと少しで到着、といった場所まで来ると...。

 お馴染み(?)となった三人娘が、居た。

 三人娘が、俺の屋敷を(うかが)える位置にある物陰で、声を(ひそ)めて押し合いへし合いしながら、騒いでいた。

 おい、おい。

 彼女たちの行動や漏れ聞こえる台詞(セリフ)端々(はしばし)から、俺の屋敷を訪ねるか訪ねないかで揉めているようなのだが、周囲から見ると完全に不審人物だ。

 俺は、溜息をつきながら、三人娘を捕獲して我が家に招待すべく、前方へと(あゆ)みを進めるのだった。


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