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お土産を持って

 商店街というか庶民の市場的な通りを、俺と三人娘は歩いて行きながら、食料品の取扱店の方をチラチラと(うかが)っていた。

 残りの欠食児童たちへのお土産は、何が良いだろか、と。

 彼女たちが一緒に連れて来ていない、という状況から、彼女たちよりも幼い子供たち、と想定すべきか。

 であれば、干し肉のような(かた)い保存食は避けるべき、だな。

 先の不安を抱える子供たちには、ある程度の保存がきく食料品の方が喜ばれるのだろうが、先程の三人娘の食欲を見ると、まずは、温かく美味しいものを大量に用意した方が良い、ようにも思える。

 まさか、お土産を待っているのが、彼女たちを酷使する不良少年(?)の集団で、上納品の必要に迫られている、といった事は無いと思うが...。


「ところで。お土産を渡すのは、どういう子供たちかな?」

「う~ん」

「そ、それは...」

「小さな子供たち、です」

「そうか」

「うぇっ?」

「フィ、フィオナちゃん。いいの?」

「うん。大丈夫」

「うん? 少しは信用して貰えた、のかな」

「「...」」

「すいません」

「いやいや。気にしなくて良いよ。...で、君たちより小さい、って事だけど、流石(さすが)に乳幼児はいないよね?」

「はい。一番小さな子で、四歳です」

「そうか。じゃあ、普通の食べ物で良いね。人数は、何人くらいかな?」

「えっと、八人!」

「違うよ。私たちは除くの!」

「五人、です」

「成る程。四歳から六歳の子供が五人、だね」

「「「はい」」」


 俺は、まず、衣服ではない布製品や袋物と雑貨を売っている店に、入った。

「「「???」」」

「いらっしゃいませ!」

「こんにちは。すいませんが、荷物を運ぶための(かばん)を五つ、頂けませんか?」

「用途はなんでしょか? 大きさは、如何されますか?」

「テイクアウトした食べ物を運ぶもので、彼女たちが持てるサイズの軽い物が良いのですが...」

「では、これと()れなどは、如何ですか?」


 店員のお姉さんが用意してくれたのは、ゆったりとした造りで縦長の布バッグが三枚と、ピクニックで活躍しそうな(とう)製のバスケットが二個、だった。

 俺は、ありがたく、お勧めしてもらった布バッグ三枚と籐かご二個を購入した。

 小柄なレベッカと元気溌剌なセリシアに籐のバスケットを渡し、非力そうなフィオナには布バッグを一つ渡す。

 そして、次の店へと向かう。


 まずは、やはり、パン屋さん。次に果物屋さん、だろうか。

 保存のきく食料としては芋なども候補にはなるのだが、調理できる環境や燃料の問題もあるので、今回は避けておいた方が無難だろう。

 数日は保存ができるパンとリンゴなど日持ちする果物があれば、彼女たちも安心だと思う。

 俺は、ぱっと目に付いた良さげなパン屋に、躊躇(ちゅうちょ)なく入って、フィオナの持つバッグに入るだけのパンを買った。

 続いて、元気の良い店員が通行人に声を掛けている八百屋で、俺の持つ布バックに山盛りのリンゴとバナナを買って入れた。お、重い。


 次に何を買おうかと思案していると、普段は使わない店だったのだが、素材の買い取り屋が目に入った。

 俺は、手元の現金が心細くなっていたので、割と一般的ないくつかの戦利品を換金することにする。

 のだが。う~ん。やはり、馴染みの店でないと、少し買い(たた)かれるなぁ...。

 だが、まあ、仕方ない。

 取り敢えずは、俺の(ふところ)具合が少し回復したので、それで良しとする。


 そして。

 俺は、空のままの籐製バスケットを見て首を(かし)げている三人娘を連れて、食べ物の屋台が軒を連ねる広場へとやって来た。


「さて」

「「「...」」」

「そろそろ、君たちも、小腹が空いた頃だろ?」

「ま、まあ」

「うっ...」

「そ、そうですね」

「と、いう事で。多少は味見して良いから、そのバスケットに入るだけ、美味しくて持ち帰られるものを、選んでおいで」

「「「!!!」」」


 俺は、フィオナからパンが入った布バッグを引き取り、彼女に小銭がそれなりに入った巾着(きんちゃく)を渡して、広場を見渡せるベンチへと座った。

 本当に良いのかと戸惑っている三人娘に手をひらひらと振って、高みの見物と決め込む。

 暫くは、どうすべきか迷っていた彼女たちも、(つい)には、広場に漂う美味しそうな匂いの誘惑に負けてか、ふらふらと屋台の方へと足を向ける。

 そして。暫くすると最初の戸惑いなど忘れたかのように、三人で歓声をあげながら、屋台から屋台へと渡り歩いて、つまみ食いと買い物を楽しむようになっていた。


 * * * * *


「買い物、完了しました!」

「ふぅ~。お腹いっぱい」

「楽しかった、です」

「そうか、そうか。それは良かった」

「お土産も、いっぱいです」

「みんなも、喜ぶね」

「これ、残ったお金です」


 恐縮した(てい)のフィオナが、おずおずと、小銭の入った巾着を差し出した。

 俺は、それを受け取らずに、パンの入った布バッグを彼女に渡す。


「???」

「そのお金は、預けておくよ」

「「「えぇっ?」」」

「足りない物があったら、買い足してくれたら良いから」

「で、でも」

「ああ。あくまでも、預けるだけ、だからね」

「...」

「次に会ったときには、何に使ったか申告してくれ」

「...はい」

「よし、良い子だ。じゃあ、折角(せっかく)の温かい食べ物が冷めたら悲しいから、それを持って帰りなさい」

「「「...」」」

勿論(もちらん)、途中までは、俺も一緒に行くよ」


 三人娘と俺は、この街で俺が拠点としている屋敷の場所と訪ねてくる際の注意事項など話しながら、彼女たちが良いという場所まで、一緒に歩いた。

 そして、俺は、お土産の食料を沢山持った彼女たちを見送った。

 俺が持っていた重めの果物入り布バッグ二つは、セリシアとレベッカに渡した。

 ちょっと失敗した、かな。

 かなり重そうに荷物を抱える二人を見て、果物は余分だったかも、と自身の考えの足りなさを反省する俺だった。


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