エピローグ
三人娘こども園は、保育の部も、初等教育の部である三姉妹こども塾も、初期投資を回収できる程ではないものの、経営も運営も順調に推移していた。
三人娘たちの住居も兼ねた、夜間の一時預かり保育と学校の併設寮にもなる予定の家屋についても、無事に改装が終わり、先日、三人娘たちの引っ越しも完了している。
ただ、まあ、夜間保育と学校の寮については、まだ構想だけの段階で当面は開設できる見込みもない、のだが...。
それは兎も角。
提携先であり対外的な顔でもある、高級めのお宿でお食事処でもある「繁盛亭」の方は、相変わらず繁盛しているようで、女将のラナさんも、立ち上げ初期の頃程には顔を出してくれている訳ではない。
頻繁に顔を出す訳ではないのだが、娘たちの様子見がてらに、要所要所でフォローはしてくれている。
俺の屋敷からは、執事のトマスと、その婚約者であり保育士兼教諭として雇用契約したキャロラインさんと、メイドのマリアンヌさんと料理人のブライアンさんが、事務員や教員や用務員としての業務で出入りしている。
勿論、三人娘と五人のお子様たちと三姉妹も、当事者であり実務担当者として、日々の業務に全力投球していた。
そう。全力投球。
生活の糧を得るためとは言え、常に全力投球では疲れてしまう。
と、主張して、毎週の決まった曜日を定休日に、と俺が少し強引に決定した。
ただし。どの曜日を定休日とするかについては、彼女たちで相談して決めて貰った。
という事で。
その第一回目の定休日が、今日、だった。
勿論、保育の部については、急な都合での依頼もあり得るので、定休日であっても依頼があれば受け入れる、とは決めていた。
のだが、幸いにも今日は、常連さんからの受け入れ依頼も無かった。
ので。これから、全員で集まって、慰労会を開催しよう、という話になったのだった。
* * * * *
午後三時。おやつの時間。
こども園の保育室というかお遊戯室のような子守りのための部屋で、子供用の長テーブルの上には、お菓子や果物と飲み物を用意している。
皆は、子供用の椅子やフローリングの床など、思い思いの場所に座っている。
食事時には「繁盛亭」の方が忙しいため、お食事会ではなくお茶会という形態での慰労会を開こう、という話になり、今に至っている。
俺は、全員が揃ったことを確認してから、立ち上がり、ぐるりと皆の顔を見た。
「はい、みんな。お疲れ様」
「「「お疲れさま~」」」
「今日は、三人娘こども園の保育の部も、三姉妹こども塾も、お休みです」
「「「...」」」
「俺は、園長である理事の一人として、これまでの皆の頑張りに、賞賛を贈りたいと思います」
「うん、うん」
「という事で。理事長のラナさん、乾杯の音頭を、お願いします」
「うん、うん...って、アッシュさん。そんなお話、お聞きしていませんよ?」
「そうですね。今、決めましたから。では、ラナ理事長、お願いします!」
「あ~もう、分かりましたわ」
見た目は若いが三児の母であるラナさんが、よっこらしょっ、と立ち上がる。
いつものニコニコ笑顔で、皆の顔をゆっくりと見回して、うんうんと頷く。
「え~、本日は御日柄もよろしく...」
「「「...」」」
「と言うのは、冗談で」
「ははははは」
「はい。アッシュさんにウケたので、掴みは良し!」
「「「...」」」
「では、皆さん。グラスを持って、立ち上がって」
スッと、真面目な顔になったラナさん。
「今日まで、よく頑張りましたね。まだまだ、課題はいっぱいありますが、この場では忘れて、ぱあ~と騒ぎましょう!」
「「「はい!」」」
「では。乾杯!」
「「「かんぱ~い!」」」
こうして。
三人娘と五人の子供たちは、三姉妹と一緒に、繁盛亭の女将の協力も得て、剣と魔法の世界にあるこの街で、自分たちの居場所を確保することに成功した。
取り敢えずは、そう言っても、問題ないだろう。
俺は、冒険者なので、ある日突然、この世界から退場することもあるかもしれないのだが、当面、彼女たちは大丈夫だ。
そんな事を漠然と考えながら、俺は、笑顔で賑やかに騒ぐ彼女たちを眺めていた。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
また、ブックマークありがとうございます。もの凄く、励みになります。
今回で「2.三姉妹」は完結です。構想としては「3.三羽烏」もあるのですが、一旦、ここで「完結」のフラグを立てさせて頂きました。再開するかどうかは、...。
当面は、新たに連載を始めたもう一つの方のお話に、注力したいと考えておりますので、そちらの方も是非、よろしくお願い致します。




