二十五マス計算
三人娘と三姉妹と近所のお子様たち年長組を対象として開講した、三人娘こども園の初等教育部門である三姉妹こども塾。
保育の部との兼ね合いもあり、当面は、午前中のみの二時間授業でスタートとなった。
初日の今日は、ラナさんによる国語の授業を四十分、校庭で遊ぶ休み時間を二十分、俺の算数の授業を四十分、のカリキュラム。
そして、今。俺の授業も、開始から約四十分が経過した。
時間的には、そろそろ、保育の部のおチビさん達のために昼御飯の用意を始める必要がある。
「はい。今日の授業は、ここまで。お疲れ様」
「あ~、楽しかった」
「うぅ~、頭が疲れた」
「...」
「はい、はい。こども塾だけの参加者は、これで解散。だけど、午後からは、また校庭で遊んでも良いからな」
「「「おお~」」」
「ただし。自分よりも年下の子を優先して、順番を守ること。これが出来なかった子は、次から出入り禁止になるから注意するように」
「「「はい!」」」
「あと、お友達を連れて来ても、良いよ」
「「「おお~」」」
「ただし。お友達にルールを守らせるのは、君たち、だ。連れてきたお友達がルールを守れなかった場合には、連れてきた君たちも、午後からの校庭への出入りが禁止になるから、注意するように」
「「「はい!」」」
「では、解散」
* * * * *
保育の部の、昼の繁忙時間帯の業務を終えて、自分たちの昼食も食べ終わってから、俺は、校庭の一角へと来ていた。
ここは、木の棒で子供が引っ掻けば文字が書ける程度には柔らかい土のグラウンド、だ。
ここには、俺が前日までに用意しておいた、雑多な物品が積んである。
文字を書くための木の棒、即ち、真っ直ぐに削られた長さは様々な木の枝が、十本ほど。
書いた文字を消して地面をならすための、庭掃き用のホウキが、数本。
そして。二百ミリリットルの缶ジュースの缶のような形状に成形された白い石が、四十九個ほど積み上げられた山、六セット。
今から俺は、この校庭の一角に、計算競技場を造るつもり、なのだ。
百マス計算ならぬ二十五マス計算用の六×六マスの正方形が三つ一組になったものを、二セット。
一マスを五十センチ×五十センチ、とすると...ん? 結構な面積を、専有することになる。
けど、まあ。計算競技で使わないときは、等間隔に白い石が埋まっているだけの土の地面なので、普通にグランドとして使える、から問題なし。
と、いう事で。
これから、地面に、二百九十四個の石を打ち込んで埋める、という作業を開始することにする。
杖のような長めの棒を持って、まずは、グランドの地面に線を引く。
黙々と、線を引いて、一辺が三メートルの正方形を描き、それを縦横共に六分割して、三十六個の正方形の集合体とする。
これを、俺の現在地から見て、前方と左側と右側の計三方向に一つずつ、合わせて三つで一組。
移動して別の場所に、同じように三つで一組を描いて、合わせて二組に。
出来上がった計六個の三十六マスの、角と線が交差する箇所に一つずつ、面積の少ない円形部分の面を上にした白い石を、仮置きする。
この白い石×二百九十四個を、仮置きした場所に埋め込めば、二十五マス計算を三人で対戦できるコートが二セット備えられた計算競技場の完成、なんだが...。
う~ん。
スコップで穴を掘って埋める作業を、二百九十四個分も繰り返すのは、一人では辛い。
かといって、子供たちに手伝って貰うのも、申し訳ないし何かが違う気がする。
魔法でちょちょいと出来れば嬉しいのだが、残念ながら、そんなご都合主義な既存の術はないし、俺にはそこまで器用にアレンジできる技量もない。
ので。結局、スコップ片手に、地道に頑張る俺だった...。
そして。やっと、出来上がった、二十五マス計算用の競技場に、三人娘と三姉妹を呼び集めた。
俺の汗(と涙?)の結晶である二十五マス計算の対戦フィールドを見て、不思議そうな表情をしている彼女たちに対し、俺は、説明会を開始する。
「これは、明日からの算数の授業で使う、沢山の計算を競いながら楽しく行うための施設、なんだ」
「「ふう~ん」」
「どうやって、使うのですか?」
「そうだなぁ。やっぱり、実際にやってみるのが一番分かり易い、んだろうな」
「「「...」」」
「じゃあ、まずは。フィオナさんと、セリシアさんと、リナさんの三人が競技者に。レベッカさんと、ルナさんと、レナさんの三人が審判役に、なって貰おう」
俺は、競技者の三人に、文字を書くための木の棒を渡して、三つの三十六マスに囲まれたスペースに誘導。それぞれの三十六個の正方形の集合体の方を向いて立つように、指示する。
続いて、審判役の三人にも、文字を書くための木の棒を渡して、三つの三十六マスを挟んでそれぞれの競技者と相対する場所へと、誘導する。
俺は、一番小さいレナさんの居る場所へ行き、レナさんに断ってから渡していた棒を借り受ける。
「審判役の人は、俺と同じように、競技者から見て一番遠い上の行と左端の列に、今から俺が言う数字を書き込んでいくよ」
「「は~い」」
「角の一マスは、空けておいて。上の行は、左から、五、九、六、八、七。左の列は、上から、一、五、二、四、三。で、最後に、角に、+か、ーか、×の記号を書き込むんだけど、今回は、+にしておこう」
「競技をする人は、よ~いドンで、空白になっている二十五マスを埋めていくんだけど、何を書き込むか分かるかな?」
「「???」」
「五と書き込まれた列の一と書き込まれた行にあるマスに、五+一の答えを書くのでしょうか?」
「おっ、フィオナさん、正解。選んだマスのある列の一番上の数字と、そのマスのある行の左端の数字を、足し算した答えを書き込む、というルールだ」
「であれば、角に、ーを書いた場合は引き算で、×を書いた場合は掛け算、ですね」
「おおっ、リナさんも、正解。ちなみに、一番上の行と左端の列に書き込む数字は、順番も桁数も自由にして良いので、参加者に合わせて問題の難易度も調整できるぞ」
「「なるほど...」」
こうして、校庭で頭と体力を使ってスピードと正解率を競う二十五マス計算を、三姉妹こども塾の売り物の一つ、として開催できるよう準備が出来た。
三人娘と三姉妹には、運営と率先しての競技参加が出来るように、役割を交代しながら何度も競技を繰り返すと共に、ルールや進行手順の改善なども考えて貰った。
ちなみに、雨の日には、教室で各人の手元の黒板を使って全員が一斉に開始して競争し、隣同士で黒板を交換して答え合わせを行う、といった形態での競技の実施も想定している。
校庭を使う場合には、スペースと体力も考慮して二十五マス計算としたが、黒板で行うのであれば、慣れてくれば百マス計算でも良いかもしれない。
あと、所要時間と正解率で点数化して順位を争うのも良いだろうし、勝者へのご褒美を検討するのも良いかも...。など、など。
和気あいあいと話し合う彼女たちの様子や目の輝きを見て、三姉妹こども塾も何とか軌道に乗りそうだなぁ、と安堵する俺だった。
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
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次話は、「エピローグ」です。お昼には、投稿させて頂く予定です。よろしくお願い致します。




