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野良AIの子供たち

 気分転換にと、VR(仮想現実)ゲームをプレイしてみた。


 最初は、最新のVRは凄い、と(ただ)々、感心した。

 仮想世界にログインしていると意識していなければ、現実世界との差異にはなかなか気付けない、と実感したのだ。

 そう、例えば。気を失ったり寝ている間などに、勝手に仮想世界へログインさせられていたら、たぶん、暫くは気付けないのではないか、と思う。

 大したものだ、と感心した。

 VRの技術が実用化された当初は、こんなに早くここまでのクオリティが実現されるとは、予想していなかったのだが...。


 そんな新鮮な体験をした俺は、現実では出来ない仮想世界ならではのプレイを、楽しむことにした。

 現時点で開発され運用されている仮想世界は、少し美化された現代社会と、宇宙空間を含む未来都市と、剣と魔法の中世ヨーロッパ風の異世界。

 (おも)に、これらの三種類の世界があった訳だが、俺は、どうせ仮想の世界ならばと、剣と魔法の中世ヨーロッパ風の異世界を選択した。

 仮想世界の自身のアバターであるキャラクターを育成しながら、補助(アシスタント)キャラクターとして選んだ若い執事タイプのAI(人工知能)を育成して、魔物と戦う冒険のクエストを(こな)したり、宝探しをしてみたり、とゲームを楽しんだ。

 あまり熱心なプレイヤーだったとは言えないが、自分のキャラクターを中程度のレベルまで成長させて、ちょっとした資産家レベルの財産を築いた。

 何度か冒険を共にした他の冒険者プレイヤーや、アイテムの売買などで馴染(なじ)みとなった生産職プレイヤーとも、それなりに仲良くなった。

 大規模な集団で取り組むスケールの大きな国家規模や世界規模での防衛的なビックイベントには参加しなかったが、魔物退治や謎解きなどで街や村のちょっとした危機を救うような中規模のクエストは、最後までキチンとやり()げた。

 そう。それなりには、真面目に、この仮想世界で発生した(わざわい)へ対処するために行動し、それなりには役立っていた。そんな自分に、満足はしている。


 が、しかし。

 少し、疲れた。

 ()きたと言うには、少し違う感じもするのだが、そろそろ、潮時なのだろうか...。


 そもそもが、気分転換での、気軽な気負いのないスタートだった、のだ。

 元から、ゲームにはあまり興味がなく、自己顕示欲もそれ程は強くはない、方だと思う。

 キャラクターのレベルアップや強化に血道をあげるタイプでもなく、仮想世界のアイテムの収集でコンプリートを目指すような趣味もなかった。ので、それ程には執着もない。

 国家規模や世界規模のビックイベントで活躍して英雄になるとか、現実世界では現実的でないハーレム構築や自らが王となって王国を建国するなどといった偉業(?)にも、興味が全く()かなかった。

 つまり、淡々と、というか黙々と、出くわしたクエストやイベントを、それなりに楽しみながら(こな)してきた。

 (こな)してきた訳なのだが、クエストの切れめ、というか、冒険が一段落した現時点で、次に取り掛かろうという気力が()いて来なかった、のだ。


 VRゲームからも、そろそろ卒業するか...。

 などと、漠然(ばくぜん)と考えていた。


 そんな時に。その光景が、俺の視界へと入って来たのだった。


 * * * * *


 大通りから脇道に入り、広くもなく狭くもない道幅の枝道を歩いてると、俺の進行方向にある庶民向けパン屋で、何やら()め事が起こっていた。


「お願いです。少しで良いので、分けて頂けませんか?」

「だめだ、だめだ」

「そ、そう言わずに、お願いします」

「「お願いします!」」

「ダメと言ったら、駄目なんだ」

勿論(もちろん)、お金は払います。今日はこれだけしか無いけど...」

「残りは、後で、ちゃんとお支払いますから」

「少し待って頂ければ、必ず何とかします」

「いい加減にしてくれ! 商売の邪魔なんだよ」

「本当に、少しでも良いので」

「ダメなものは駄目だ! いい加減にしないと、衛兵を呼ぶぞ」

「そ、そんな...」

「ほら、あっちへ行け! 営業妨害だよ。勘弁してくれ」

「「「...」」」


 シュンとうなだれて、とぼとぼと此方(こちら)に向かって歩いてくる、三人の子供たち。

 その後ろでは、店の(あるじ)らしき恰幅(かっぷく)の良い中年オヤジが、店先に塩を()いてから掃き清めている。

 俺は、見るともなしに、歩いてくる子供たちを(なが)めていた。

 貧相な体格、薄汚れている容姿、(あきら)めの混じった悲しそうな表情。

 猫耳の少女、ガリガリに痩せてかなり小柄な少年、足を少し引き摺っている女の子。

 俺は、ちらっと、三人の子供たちのAR(拡張現実)表示されている公開ステータスを、見た。

 この子達は三人とも、プレイヤーではなくNPCノン・プレイヤー・キャラクターであり、プレイヤーの補助(アシスタント)キャラでもないようだ。

 この近辺では少数派で割を食うことの多い獣人の子供と、見るからに貧相で薄汚れた少年にも見える少女と、契約違反のペナルティによる身体異常のある女の子。

 なかなかに、救いの無い組み合わせ、だった。

 また、俺の記憶にある限りでは、珍しい取り合わせ、でもある。


 いや。

 俺も含めて大多数のプレイヤーが、あまり、本来のこの世界の住人であるNPCに興味を持っていないだけで、ありふれた光景なのかもしれない。

 この異世界に降り立つに際して、プレイヤーは、主に自身が不在時の対応を任せるために、サーバントとも称される補助(アシスタント)キャラクターを選択する事になる。のだが、その趣旨とは裏腹に、その選択肢には、老若男女問わず非力で何も出来ない幼女までもが含まれている。

 まあ、留守番さえ出来れば、生活能力がなく非力な幼女でも、見た目が好ましければそれで良し、と考えてしまうプレイヤーが居たとしても仕方がない事なのだろう。が、実際にそのような選択をしてしまうと、様々な支障が発生する。

 ので、サーバントであるAIキャラクターが気にくわない、と言って新しく自身のキャラクターを作り直して一からやり直すプレイヤーも一定数はいる、らしい。と聞いたことがある。

 そして、元サーバントの身寄りのない子供たちが路頭(ろとう)に迷い、野良AI(人工知能)とも言われて揶揄(やゆ)されている、らしいのだ。

 つまり。

 俺の方へと向かってトボトボと歩いて来てる三人組は、無責任なプレイヤーに放り出された犠牲者、なのかもしれない、という事だ。


 などと。

 考え込んでしまったせいか、ついつい、俺は、彼女たちに声を掛けてしまった。


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