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子供たちのこども園

 無い知恵を絞って、酔っぱらった男二人が激論し、あーだこーだと検討した結果。

 何と言うか、無難な、ありふれた発想しか思い浮かばなかった、という残念な結論。

 四歳から六歳の幼い子供の世話をするなら、保育園。

 どうせなら、教育も必要になるのだから、幼稚園も。

 つまりは、こども園、が良い。

 けど、生活をして寝泊まりする場所にもなるので、こども園の上位(?)版になる。

 という事で、拡大解釈こども園。


 まあ、そもそも、こちらの世界には、公立の教育施設など存在しない。

 それに、子守りが少し大きな子供の小遣い稼ぎ的な臨時仕事になっているので、普通のこども園ですら見かけない。

 にも(かかわ)らず、宿泊施設も併設した、拡大解釈こども園。

 いっそのこと、寺子屋的な小学校の機能も取り込んでしまった方が、現実的なのだろうか...。


 と、いう事で。

 三人娘と五人のお子様たちの住居を改装して、保育園と幼稚園と寺子屋にその併設寮を備える「拡大解釈こども園」を、開設する。

 当初は、採算度外視で。随時、スポンサーを獲得して資本増強。()()い、法人として自立経営できる状態を目指す。

 なかなかに、壮大な構想、を立てた。

 が、しかし。

 三人娘と五人のお子様たちを、如何にして自立させるか。という命題に対するプランは、出だしから、迷走するかも...。

 俺にもトマスにも、保育士免許も小学校教諭資格も無く、宿泊施設の運営に関する経験もない。のだが、本当に大丈夫だろうか?

 使える伝手を動員して周囲の協力も乞いながら、新たなイベントというか新種のクエストといった触れ込みで()じ込んで、兎に角やってみる、しかないのだろう。

 が。冷静に考えれば考える程、不安しか()いてこない。

 酔った(?)勢いで、ハイテンションに、トマスへゴーサインを出した数日前の夜が()やまれる。

 更に、その翌日の、やる気満々なトマスを、大きく(うなず)激励(げきれい)して送り出した俺自身には、もはや(あき)れるしかなかった。

 何やってるんだ、俺。


 自身の発想と能力と行動の残念さに、(ため)息。

 トマスも、意外と役立たずだったのか?

 いやいや、この世界であれば、この構想にも意外と見込みがある、という事かも。

 などと、一人で悶々(もんもん)と思い悩んでいると、屋敷の中が急に(にぎ)やかになった。

 そして。この部屋、俺の執務室の扉がノックされて、開いた。


「旦那さま、ただいま戻りました」

「おかえり...」

「こんにちは~」

「どうも」

「お騒がせして、すいません」

「あ、いや、いらっしゃい」

「君たちは、マリアンヌさんとキャロラインの指示に従って、おチビさん達の部屋割りと荷物を入れるののフォローをお願い」

「「「は~い」」」


 三人娘が、取って返して、賑やかな集団が居るのであろう、奥にある使用人居住区域の二階へと向かう階段付近に戻っていく。

 フィオナは、俺にキチンとお辞儀をしてから。他の二人は、一直線に。

 トマスは、そんな彼女たちをニコニコと見送っていた。


「おい、トマス。どういう事だ?」

「?」

「説明!」

「あ、はいはい」

「口調!」

「失礼しました。旦那さま」


 * * * * *


 メイドというかメイド長、この屋敷でただ一人のメイドであるマリアンヌさんは良いとして、キャロラインさんとは何者だ?

 というか、三人娘と五人のお子様たちが、急に我が屋敷へ押しかけて来た、というか、トマスに連れられて来たのは、どういう話になっているんだ?

 トマスに、(すみ)やかな説明を要求した。


 子供たちの方は、何となく予想していた通り、トマスが計画通りに「拡大解釈こども園」の設立に向けた準備を進めた結果であったので、問題なし。

 優秀な執事であるトマスが、三人娘たちの住まいに出向いて彼女たちに計画と段取りを説明して了承を得たので、まずは、園舎の建設と庭の一部を運動場にするための工事を行う手配をした。

 そして、工事中は治安と騒音などが問題になるので、子供たちには一時的に俺の屋敷で生活して貰うことにした。

 という事だった。

 うん。もう少し、報連相(ほう・れん・そう)がしっかりされていれば、なお良かったが。

 というか、子供たちをこの屋敷に住まわす点については、事前に俺の了承を取るべきでは、と思った。が、まあ、それは良しとする。

 子供たちも、元は補助(アシスタント)キャラだったという話だから、俺の側の冒険者プレイヤーとしての都合や事情も分かっているのだろうから、気楽で良いし。

 ただ、何となく、トマスに美味しい処取りされているような気もして、釈然としないだけ、だ。

 まあ、優秀な執事として、(かゆ)いところにも手の届く、雇用主の考えを先の先まで読んだ行動、と言えなくもないのだが...。


 パワフルな美人で大人のお姉さんであるキャロラインさんについては、予想外で、吃驚(びっくり)した。

 まさかの、トマスの婚約者、だと言うのだ。

 幼稚園の先生的な職業に憧れている、という自己申告と自己推薦に、トマスが押し切られての今回の参戦となった、ようだ。

 当面は俺の屋敷の従業員としての雇用になるのだが、その際の履歴書的な紹介状を見る限り、身元の硬いお嬢様のようだが、兎にも角にもアグレッシブな女性、だった。

 完全に、トマスが()まれている、と思う。大丈夫なのか? トマス。


 トマスが準備した二通の契約書をチェックする。

 一通は、三人娘と俺との間での今回の事業に関するもの。俺の出資に対する担保と事業に対する関与の範囲を明示して、彼女たちの権利を確保。

 俺は、あくまでも出資者であり、彼女たちが成人するまでの後見人であり、事業の主体は彼女たちであること。

 俺の出した資金の担保は、彼女たちが所有する家屋と土地とするが、建て直した後の寮と宿舎を兼ねる宿泊施設の建屋とその土地についてはその対象外とする。


 俺が、一通目の契約書のチェックを終えて振り返ると。

 俺の執務机とは別にある、使用人などが書類を記入するための簡易の応接セットに、三人娘が座って、待っていた。


「内容については、トマスから説明を受けているよね?」

「「「はい」」」

「契約書の見方は、分かるよね?」

「「「はい」」」

「内容を確認して貰っても良いかな?」

「「...」」

「はい。拝見させて頂きます」


 しっかり者のフィオナが、代表して、契約書を受け取る。

 生真面目な表情で、記載内容を確認し始めるフィオナ。

 そんなフィオナを、俺とトマスが、少し離れて見守る。

 セリシアとレベッカが、硬い表情でフィオナに寄り添い、その手元を覗き込む。

 俺の執務室を、静寂が満たす。

 (しばら)くして。フィオナが、困惑した表情で顔をあげた。


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