プロローグ
ここは、剣と魔法の世界。
俺は、背中に背負った鞘へと、右手に持っていた大剣を収める。
キン。
仕留めた小物の魔獣を、解体。
討伐の証拠としてギルドに収める部位と、素材として買い取って貰える部位を、回収。
腰に付けた小さな革鞄、その外観とは裏腹にかなりの収納量を持つアイテムボックスへと、それらの成果物を収納する。
続けて、そのアイテムボックスから、今度はシャベルを取り出す。
シャベルを魔物の横の地面に突き立て、軽く穴を掘り始める。
ザクッ、ザクッ、ザクッ...。
出来上がった穴に、魔物の残骸をシャベルで落として、シャベルは元通りに収納。
心もち、姿勢を正す。
呼吸を整え、軽く集中。
掌に、バレーボール大の火球をイメージ。術名を、ぼそりと唱える。
「ファイヤーボール」
出現した火球を、掘った穴の中へと飛ばし、魔獣の死体を燃やす。
ボッ。
火がついて燃え盛る残骸をしばらく眺めてから、燻ぶるレベルまで鎮火したことを確認。
穴の周囲に、危険物が残っていないか、点検。
「よし。問題なし」
と。
一人呟いてから、少し向こうに街の城壁が見えている荒地から、すぐ傍を通る城壁の門に続く街道へと戻る。
街へ戻る道中で襲ってきた小物の魔獣を退治した俺は、既に慣れ親しんだ一連の作業を終えて、改めて街へと帰還すべく歩き出した。
* * * * *
剣と魔法の世界。
自然は豊かで、限られた地域でのみ牧畜が行われているが、人々は野生動物を狩ったり、主に人力での農耕による農業に従事したりして、生活の糧を得ている。
そんな世界だから、庶民の生活レベルは決して高いとは言えず、自然の脅威や魔物による被害など、身近な危険と隣り合わせの暮しだ。
調理や冬に暖を取る際には薪や炭を燃やし、移動は徒歩か騎馬や馬車。
ただし。
一部の選ばれた者、すなわち冒険者たちは、魔法で火を起こし、魔獣を使役して空を飛んで移動する。
そんな世界で、俺は、一応は冒険者の端くれとして活動している。
Aランクの冒険者。それが俺の肩書、だ。
この世界には、AAランクの冒険者が多数いて、Sランクの冒険者も珍しくはない中での、Aランク。
庶民からは羨望の眼差しで見られる事もあるが、特別ではない。
まあ、そんな感じだ。
俺は、冒険者としての活動のために少し遠出していたのだが、やっと、活動の拠点を置いている「はじまりの街」へと戻って来れた。
城壁の門を、顔馴染みとなった門番に軽く目礼しながら、ギルドカードを見せて通り抜ける。
城門を抜けると、そこは既に街中だ。
今日も、この街は、活気に溢れ、賑やかな様相を呈していた。
俺は、そんな街並みを見るともなしに視界へ収めながら、この街の住宅街に確保している屋敷へと向かって、ゆっくりと歩みを進める。
さて、これから、どうしようか...。