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本編二 目覚め





本編二 『目覚め』









気付いた時には窓の外はほのかに明るく、その光が目から頭に刺すように届いた。


一瞬、今の状況が理解出来ないでいたが、すぐに理解と目覚めが同時に訪れた。


足腰に伝わるこたつの熱と、馳走の後。

並ぶ空の燗酒の数。


そして、隣で同じように眠りこけている女の寝顔の美しさに睡魔はあっけなく退散した。


眠気はすでにかき消されていたが、体を起こす気にはなれなかった。


頭が痛いせいもあったが、隣で生き生きとした顔で眠る女から目が離せないのが本当の理由であった。




私はしばらくその寝顔に見とれていた。


(何が山姥伝説だ……こんなに美しい山姥もないもんだ)


事実、昨夜の馳走にしても、娘の接待も心からの親切を感じるに十分であった。



その顔とこたつの温もり……、そしてまるで我が家のような心地よさに侵され、また目を閉じて眠りについていった。


こんなに穏やかに、自然に眠りに入るのは久々な感覚であった。




目を覚ました時、昼の太陽は傾き、西の窓から僅かに色の付いた光を注いでいた。




私はしばらくその寝顔に見とれていた。


(何が山姥伝説だ……こんなに美しい山姥もないもんだ)


事実、昨夜の馳走にしても、娘の接待も心からの親切を感じるに十分であった。



その顔とこたつの温もり……、そしてまるで我が家のような心地よさに侵され、また目を閉じて眠りについていった。


こんなに穏やかに、自然に眠りに入るのは久々な感覚であった。




目を覚ました時、昼の太陽は傾き、西の窓から僅かに色の付いた光を注いでいた。






(しまったな……こんなに深く眠りに入ってしまうなんて)


その頃にはすでに散らかっていたこたつの上は綺麗に片付けられており、


女の姿はそこには無かった。


酔いが回る前にメモを預かったかすかな記憶が顔を出した。


私は寝そべったままポケットをまさぐり、くちゃくちゃになったメモを取り出した。


『バス時間 9:00 12:00 16:30』


メモ書きを見て私の目は完全に覚めた訳であるが、起こしてくれても良さそうなものだ。


見上げた時計は既に16:00を回っていた。




身支度を整える間、他の部屋からは物音一つしなかった。


全く不用心なものである。


見ず知らずの男を家に上げ、ほっぽって一体どこへ行っているのだろうか。


私は取り急ぎバスの時間に間に合わせる為、急ぎ足で部屋を飛び出した。


その時である。例の仏壇のあった部屋の扉が開いているのが視界に入った。


歩きながらも何故か中の様子が気になる。香の匂いはしない。私はつい中を覗いてしまった。


私の目に飛び込んだのは、すぐには数える事が出来ない数の遺影写真が並べられている光景であった。






(一体何なのだ、この数の写真は……)


昨日、部屋へ向かう時には見えなかった。


まるで先祖代々、歴代お亡くなりになった身内の遺影写真が全て並べられているかの様な数である。


その光景には思わず急いでいたはずの足を止め、呆然と眺めてしまう程だった。


いや、寧ろ私が敷居の上に並ぶ“皆”から眺められているような……そんな錯覚にすら陥る。


一瞬我を忘れかけた時、女の声が聞こえた。


「まだいらしたんですか?!お急ぎにならんと……」


その時、古い振り子時計が“ぼおん”と一度音を鳴らした。




「ああ……いや、ついうっかり寝過ごしてしまいました」


照れ笑いをして誤魔化そうとする私とは違い、女は顔を強ばらせていた。


(やはり二日も甘える訳にはいかないな)


今晩の寝床をどうしたものかと雑念に入ろうとした私に女は口を開いた。


「どうして、ひっ……何度も起こしたのですよ」


そう言われてもどうしようもない。私自身もこんな片田舎に二日間もへばり付いている訳にもいかないのだ。と言いたかったが口をつぐんだ。





「酔ってしまって寝入ってしまったようです。どちらかにお出かけだったのですか?」


責任を転換するつもりはなかったが、まるで出掛けていたせいにしているような言葉が出てしまった。


「……お葬式があって、どうしても、ひっく、行かなければいけなかったものですから……」


こちらの言い方がまずかったのか、女は不安そうな顔をしながらそう言って、更に続けた。


「体調はお変わりありませんか?」





何故、今体調等の話をするのかと疑問に感じたが、それよりも頭は今日の始末である。


「二日間もお世話になる訳にはいきませんから……どこか一晩凌げる所を探します」


私はそう言って鞄を抱えて玄関……女の方向へ歩みを進めた。


目の前を通過しようとする私を女は手で制し、


「いえ……こちらに泊まって頂いて結構ですわ。ひくっ……体に変わりはないですか?」


そう言いながらも顔はやはり笑ってはいなかった。




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