本編一 辿る道 3
相変わらずの田舎風景は何も変わらない。
ただ何とも重苦しいような、閉ざされたような雰囲気だけがバスの車内にも伝わってくるのがわかる。
実感と言おうか、雰囲気と言えばいいのか、普段およそ人が“出入り”する雰囲気がまるで感じられない。
今でも田舎の小さな村では部落のような習慣でも残っているのだろうか。
そんな事をつい考えさせる。
無論、先ほどの運転手とのやり取りや、乗客がこぞって降りて行く場面を目撃したからこその過敏な反応である事はわかっている。
運転手は信号のない山道で速度を緩め、こう訪ねてきた。
「お客さん……もうここいらから村に入るんだけどな。ホントに行きなさるのかい?」
「ああ、ちょっと人捜しをしていてね。しかしやけに不思議そうだけど、何かこの村にあるのかい?」
情報収集は編集の仕事では基本中の基本だ。せめて村を敬遠する理由の一つでも聞いておきたかった。
緩やかにスピードを上げながら、運転手は重い口を開いた。
「この村は何かに憑かれとる言う噂だ。後の事は……お、俺にもよくわからん。知っとったら無理にでも止めるさな」
先週訪れた一人というのは十中八九石上部長であろう。
その時もこの運転手は同じような対応をしたんだろうか?
それとも時間帯が違い、“憐れみ村”と言う停留所の先まで続く便だったのだろうか?
しかし、いずれにしても部長はその村で降車し、何がしかの事情が出来たに違いない。
気になるのはやはり……
(憑かれている?誰が?何に?)
呪われているとでも言うのだろうか?
馬鹿馬鹿しい事ではあるが、現に部長は帰らないのである。
停留所らしきものが前方に見えた。
小さな立て看板が錆びれながらも何とか倒れずに立っている。
トタン張りの屋根は気持ち程度にイスを囲い、パイプイスが三つ仲良く並ぶ前には灰皿替わりの赤バケツが置かれていた。
「お客さん、ここの村人達は変わっとるもんで、気を付けてな。もっともわしらも付き合いがねえで、良くわからんがな……」
運転手は慰め程度にそう言うと、広い敷地を切り返す事なくUターンして、来た道を倍程のスピードで戻っていった。
俺は煙草を取り出し、まずは一服吹かしながら幾らもない灰をバケツに落とし、辺りを見回した。
特に代わり映えのない普通の村だ。
「さて、ここに無事に居てくれればいいが……」
まだ長い煙草をバケツに放り投げ、側で行われていた葬式会場目指して歩きだした。
ちょうど霊柩車がクラクションを鳴らしながら走り去っていった。
ひとけの少ない寂しい葬儀会場はもの静かに参列者達が帰路につこうとしていた。