本編一 辿る道 2
実に乗り心地の悪いバスである。
乗客は思ったよりも……、と言っても乗客等居ないと踏んでいた割には、数名が俺と同じようにバスに揺られていた。
さすがに慣れているのか、こんなへんぴな路線バスを日常で使用するだけあって、ガタガタと揺れる振動の中、居眠りしたり本を読んだりと流石なものだ。
バスガイドについて訪ねた際の一言は、聞き逃せる言葉ではなかった。
仕事熱心というのとは少し違う。
単に興味旺盛とでも言おうか、やはり職業病なのか、気を引くものには飛び付く癖の持ち主が渦中の人、石上部長なのだ。
行きに使った退屈な快速列車にまた揺られて帰ると考えると、俺でもっゾッとしない。
それをあの部長があんなガイドを見逃す訳はないのだ。
このバスに乗って帰路を楽しみながら、また次の興味の的を探すに違いない。
そう踏んで乗り込んだ田舎の路線バス。
その距離は思ったよりも長く、幾つかの山を越え、数ヶ所の村を経由するようだ。
先は長いがここまですれば俺の役目は果たされるだろう。
そんな事を考えていると、とある村のバス停で停車したバスから次々と残った乗客達が降りて行く。
あれよあれよと言う間に俺を残した全ての客が降りてしまった。
(何だ、この村の住民がほとんどか……)
結局自分一人だけが社内に残された状態。
勿論、その村からの新たな乗客も乗っては来なかった。
異変を感じたのはその時である。
なかなか発車しようとしないバスに不審を感じた時、もう一つの不審を向けた顔がこちらを見ている。
バスの運転手である。
俺は眉を釣り上げ表情だけで
「何か?」と伝えた。
すると運転手はこう言ったのである。
「お客さん……降りないのかい?」
バスの路線はまだ先がある訳だが、あたかも降りるのが当たり前と言ったような口調に疑問符が湧く。
「ええ、ここで降りるつもりはないですが……」
そう言うと僅かに首をかしげ、無言で自動ドアを閉じた。
(感じの悪い運転手だ)
しかし何か引っ掛かる物言いでもある。
降りて当然……
言い換えると、この先に行く乗客は極端に少ないか、あるいは居ないかではないか。
いや、居ないと言うのもおかしな話である。先がちゃんとあるのだから……
そこまでの思考で気付いた。
「あのっ!このバスは快速列車の停車駅まで続いてますよね」
「いや、このバスは次の停留所までで折り返しさあ」
迂闊だった。
全ての時間で同じ経路を通るとは限らない。そんな事は都心でも同じだろうが、普段バス等使わないのが仇になってしまった。
「何だお客さん、間違えたんかな。次で降りなさるんか思って驚いたさ。先週も一人降りて行かれたけんど、めずらしい事もあるもんだと思ったんだよ」
どうやら嫌な予感は、同時に本来の“予感”としての役割も担っているようだ。
「次は何と言う場所ですか?」
「憐れみ村だ」
嫌な“予感”はこう感じた。
石上部長はそこに居る。のだと……