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本編一 辿る道





本編 一『序章』










上司が会社に出て来なくなってから一週間が過ぎていた。


編集の仕事では遠距離の出張は珍しくなく、編集部の部長ともなると前乗りや日程の変更等は茶飯事だったが、連絡もなしは今回が始めてである。


石上部長の自宅への連絡を編集長が命令したのは三日前。命令を受けたのは俺だった。


嫌な予感はしていた。


億劫さと、何とも言えない躊躇を押し殺し、携帯ディスプレイに石上部長の番号を表示させた時、


石上と名乗る女性から社に電話があった。石上部長の奥さんである。


内容は、

「主人が家に戻らない」


嫌な予感は少しづつ当たって行くものだと思った。










本編 一 『辿る道』










快速電車を乗り継ぎ、景色はもうすっかり都会のそれとは変わっていた。


編集長からの命令は、部長宅への電話から出張先への訪問に変わり、一週間前に部長が辿ったであろう道乗りを走っている。


確かに社のある都心からは遠く離れた街ではあるが、山を幾つか越えれば苦もなく辿り着ける。


事故や事件に巻き込まれたりしていない事を一応祈りながら、部長の奥さんからの電話の内容を頭で整理しながら駅を降りた。






石上部長の奥さんからの電話の内容はこうである。


出張の帰宅予定日、自宅に本人から電話があったらしい。


『とある場所に寄っている。急用で帰る事が出来ない』


かかって来た電話口で、それだけを言った後電話は切られたようである。


予定の変更は家族からしてもいつもの話。特に気にかけずにいた翌日、また本人から『帰れない』旨の電話があった。


更に一日の経過。また同じ電話。

しかしこちらからかけても繋がらない。


さすがに業を煮やし会社に一報を寄越したと云う訳だ。


会社なら何か事情を知っていると思ったようであるが、見当が外れて尚更心配が膨らんだ事だろう。







一応は毎日電話を入れてくる所を見ると、事件や事故とは考えにくい。


出張先へ確認しても、新たな仕事が入ったような情報は聞く事が出来なかった。


ここで普通なら警察の出番……となる訳だが、編集社と云う職柄の性であろう。


『ある所……』のくだりから、出張先の道中で何が起こったのか調べを入れる旨の命令が下ったのだ。


悪い予感は当たるのである。


命令を受けたのは俺なのは言うまでもない。






出張先と言っても似たような仕事柄の地方部署のような物で、気心は知れている。


何か有力な情報があればすぐにわかるだろうと思っていたが、そうは容易くはなかった。


「何?石上さん行方不明だって?」


「ええ、とは言っても連絡はつく……いや、連絡は入るんですけどね」


「どうせコレの所で揉めてんじゃねえの?設楽(したら)さんもこんなトコまで大変だね」


そう、大変なのだ。これが仕事の出張であればアバウトなこの世界。

夜に多少は楽しむ事も出来るが、なまじ調査の真似事。


一応は行方が分からない上司をほっぽって飲み歩く訳にも行かない。







しかし、こんな遠方までやって来ても、それらしい情報が得られる事はなかった。


関係者は一様に

「いつものように処理を終えて、一晩飲んで翌日帰った」と同じ言葉を繰り返した。


何か記事にでも出来そうな有力な情報でも入ったなら、幾らでも足を伸ばす部長だが、それらしい事は聞けない。


自分も仕事を抱えた身であり、そうそうこんな事に時間を取られていてはたまらない。


電話は毎日かかってくるのだ。


俺は社に『手掛かりなし』の連絡を入れ、その日の内に帰社すべく列車の時刻表を借りに向かった。






「時刻表なんてありませんかね。駅で待たされるのも何ですから……」


田舎の電車は都会感覚で考えると酷い目に合う事が多い。


教えられた棚から時刻表を取り出そうとした時、古いバスガイドを見つけた。


「これって、夜行バスか何かですか?」


何の気なしに聞いてみたが、次に返ってきた返事にまた嫌な予感が湧いた。


「ああ、夜行じゃなくて路線さ。あんまりにも時間が掛かるから最近は使うモンもほとんどおらんけどな」


(山あいの村と行き来出来る路線か……)


こんな物使うといつ帰れるかわかったものではない。

俺がそのバスガイドを棚に直したのと同時に後付けの言葉が返ってきた。




「やっぱり職業病かね。部長とおんなじ事聞くもんだな。気になるかね、そんなモンが……」






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