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本編八 憐れみ





本編八 『憐れみ』









訪れる男達を魅了し、虜にして行く様は見事だと感心する。


小春が“待雪”と名乗る様になってもうじき十年の歳月が流れようとしている。


自分のような年寄りの持つ十年とは雲泥以上の差がある事は十二分に承知していた。


それでも小春が“待雪”と名乗るようになったのと同じ日に私は父を失い、同じ日に村の長になった自分の十年は些か長いと感じる。


小春の時間は雪の様に儚い。






訳知り顔で村長等と言っているのが時折嫌になる。


一番それを感じる時はやはり、小春を抱いている時だろう。


幼子の頃からことさらに可愛がり、私の父が名付けた“小春”


いつも

「とっちゃん、とっちゃん」となついては運命を知らない無垢な笑顔を私に見せた。


その小春が今や、私を股に招き入れながら喘ぐ姿を晒す。


そして私自身もその行為に身を委ねながら果てる憐れな性交。





人間である以上、男である以上、美しい雌に反応する仕組みに怨みすら感じるが、それが憑きモノが意図して与えた運命(さだめ)であるならば、効果は絶大な物だ。


近くあの男、石上は私の下を訪れて憐れな顔で尋ねるだろう。


他の入村者と同様に、村の事を根掘り葉掘りとほじくるのだ。


興味や我が憑きモノへの打開の為ではなく、小春への嫉妬を最もらしい理屈を並べて私に愚痴る。






通常の……、正常な感覚がまだ残っている者の当然の行動を突き付けては同情を得ようとするのだ。


煩わしい。


そして一通りの事態を知った後、決まって取る言動は、


驚き、戸惑い、疑い……最後には堂々とそれらを正論として掲げながら、向かう先は、


待雪の身体。



そんな者達に心の中で罵声を浴びせ、発作を鎮める為に私が向かうのは、


小春の身体。





小春が淫猥な雌に変貌するのは、性を交わしている時だけだ。


それ以外は昔のように

「とっさん、とっさん」と相変わらず私を慕い、ちびだったあの頃の小春のように明るい笑顔を見せる。


そう……待雪がまだ小春であり、私がまだ村長でなかった頃、私は小春の母親と“今の待雪”にしている行為を繰り返していた。


私も村人も皆が抱いた小春の母親。


待雪が小春だった頃、小春の母親は皆から“待雪”と呼ばれていた。






待雪の家系の女は、その身体に宿した憑きモノを使い、村人達の発作を緩和させる。


それを知る村人達は、発作に苦しみながらも堂々と“待雪”を抱けるのだ。


抱いて抱いて病を鎮め、抱いて抱いて性を鎮める。


“待雪”は求められれば断る事は出来ず、抱かれれば身体が異常に反応して我を忘れて乱れ濡れる薬になる。


その見返りとして村から守られ食す事が約束されているのだ。


いつしか身体を使って生活する家系、身体を使って発作を鎮める家系。


“娼婦・薬”と呼ばれるようになった。


取り憑かれた末、暗黙の集団レイプを公然と交わさなければならない憐れな待雪達を……手放す事が出来ない村。


手放し、守る事の出来ない村長(わたし)





村の憐れな他の女達は、待雪の家系には関わろうとはしない。


治療のような顔をして、若く美しい女を抱きに行く男達を尻目に、自分達は懸命に発作に耐え、鎮める術のない苦しさが自然と治まるのを待つしかないのだ。


苦しみに耐えきれずに死を選ぶ者も少なくはない。

この村には圧倒的に女が少ない。


打開策を見いだせない私は、村長と云う肩書きに憑かれた為に、来る日も来る日もこんな事ばかりを考えて過ごすのだ。


まるで、村の憑きモノを話して聞かせるのが役割だと誰かに縛られているように……






私はまた、小春に惚れた石上が私の下へ訪れ、小春……いや、待雪の下へと駆け出す姿を想像して溜め息を付いた。


小春の祖母……、小春の母親の、さらに“前の待雪”の葬儀の日の石上の雰囲気は、惚れるなと言っても既に惚れてしまっている男の顔だった。


惚れるからこそ私の下へ駆けずり込んで来るのがわかるだけに溜め息が出るのだ。



が、しかし数日後、私の下へ訪れたのは石上ではなく別の男であった。



私はその男の顔を知っていた。



何故か印象に残っていたその男を……




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