本編六 興味 2
村を訪れたのは、俺が最初に石上部長を目撃してから三日も経った頃だった。
深夜に出発した俺は途方に暮れていた。
「それにしても何て道だ……。舗装も何もあったもんじゃない」
民宿もない。尚且つバスの時間も極端に早いとなると、下手をすれば再度石上部長を見つけ出す前にまたとんぼ返りだ。
時間を有効に使用する為に俺は自家用車で赴く事にした。
挙げ句、道中は困難を極める結果となったのだ。
もともと山深い集落のような村。
あいにく地図には村の地名までは記載されておらず、近辺は細い山道が何本かあるのみで地図上から村の存在は確認出来ない。
およその場所を目指す不安と、目的地にある何かが気になり、妙に落ち着きを欠いて行く。
しかも悪路に加えてポツポツと降り出した雨は、思考だけでなく視界すら狭くさせた。
本降りにならないのがまた困りものだった。
車内に居ると気が付かない外気の冷たさ……
悪い予感は良く当たるのだが運がいいのが救いである。
たまたまカートン買いしていた煙草をトランクに取りに出た時に気が付いた。
雨は冷やされ、固体に変わろうとしている道路。
呆れかえる気持ちを抑えないと、辿り着けるものも不可能になってしまう。
しかし運よく外へ出ていなければ煙草どころではなかったかも知れない。
道に迷う事も思わぬアクシデントも予想して深夜に出発したのだ。
深夜の冷え込みすら計算に入れなかった自分を恥じながら独り言を漏らす。
「都会暮らしの野暮だな……」
予想外の雨も“思わぬアクシデント”と思えなくもないが、このままだと進行するのもままならない。
アスファルトと未舗装の入り乱れた悪路で、思わず凍結の可能性に気付いただけでもよしと考えるしかなかった。
どういう訳か、進むにつれ当てにしていた近場のコンビニすら見つからない。
「近隣の地図が欲しいのにな。バスの路線もわかりやしない」
ある程度の場所までは辿り着いているのだから……
と、気休めを心の中で呟きながら、止まってしまう程のスピードでノロノロと進み出した時には、すでに携帯の電波は入ってはいなかった。
「最後に見かけた駅で始発を待って情報を仕入れておくべきだったな」
この時後悔した思いは、その後、より悔いる結果をもたらす。
まだ深い山道と云う訳でもない。
それを証拠に、時間をかけながらも何とか悪路を進んで行くと、バス停を一つ発見出来た。
バス停があると云う事は、自分が今いる道は少なくともバスの路線上にいると云う事である。
しかし、ここで見つけたバス停が思わぬ事態に繋がるのだ。
バス停を発見した俺は一先ずはほっと息を吐いた。
溜め息でない息を吐くのは随分と久し振りな気がした。
が、一時の落ち着きを手に入れたくとも自販機の一つもない。
しかし、このバス停をかわきりに、上手く道を辿れば順序よく村まで辿り着ける可能性が見えた訳だ。
道は誘うように一本に絞られている。
時間は午前三時。日の出にはまだ早い。