本編六 興味
本編 六『興味』
何故か目的はいつしかすり替わっていた。
石上部長の消息を求めて訪れたあの小さな村には、どうやら隠された秘密があるらしい。
俺は手にした煙草の短さに気付き、残りの缶コーヒーを飲み干した後、空き缶に煙草を放り込んで笑った。
隠された秘密と云うのがどうにも可笑しい。いや、興味を抱いている自分が可笑しいのか。
秘密なんて言葉を用いるから悪い。単に近寄りたくない何かと、離れたくない何かが混在するのではないか?
追い立てられるように飛び乗った、帰路を繋ぐバスから見た石上部長の姿。
本来の目的は所在を掴んだ今となっては、容易に解決出来る雑用になってしまった。
しかし、それが俺の目的をすり替えさせる原因だ。
──憐れみと名乗る村。
俺はそこで石上部長を見つけ出した事を報告していない。
隠された秘密何て言う、あのバスの運転手が話していた雰囲気のようなオカルトまがいを信じた訳ではない。
しかし噂は何かの原因がなければ広まりはしない。
火のない所に煙は立たない……とよく言われるが、火の気がなくとも煙は立つ事は知っている。
ただ、何故火気のない所に煙を立てなければならないか、それが重要なだけだ。
運転手の噂話。村の住人の妙な態度。そして何より、石上部長があの村に居たと云う事。
この中心にあるモノが煙の正体だ。
何故だかその正体に興味を惹かれる。
自分にとって、“得”になる情報がそこにあるような気がしたからだ。
石上部長にしてもそうに決まっている。
だからわざわざ居残って何かをしようとしたのだ。
帰れないのか、帰らないのか……
社には
「石上部長を目にした」と言えば、あっさりとまたあの村へ行く許可は出るのだろう。
しかし奥さんの所へ真っ先に知らせは運ばれ、俺の出る幕がなくなる可能性もある。
何より度々連絡を寄越しながらも、居場所も用件も告げずに雲隠れしている以上、ただの気紛れでなんかない。
だとしたら、誰が現場に赴いたとしても効果は差ほど変わりはしないのではないかだろうか?
気紛れではない突然の行動には意味がある。
俺は編集社に勤める人間として……そして自分自身に見返りのある情報の可能性を感じて、その意味と煙の出所が無性に知りたくなっていた。
向かうは『憐れみの村』
二度目の訪問は違う目的の為に……