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死者との出会い

 目を開けてもうっすらとしかみえなかい。。

 左右もそう。何かがそこにある、ということがぼんやりとわかるだけだ。そしてそれは

 私は体を起こさずに仰向けのまままるで人形のように直立の姿勢で寝ている。この姿勢は好きでとっているわけではない。それだけの余裕がないのだ。左右にはすぐに木製の板が、目の前にも同じ板が。私はこの狭い木に囲まれている。いや、正しくは、

 私は今眠っている。

 この木の箱は私を守るための入れ物なのだ。するとふさわしい王子様が来てこの箱を開けるのだ。そして、二人でずっと幸せに暮らす。それまで、危険な世の中から私を守ってくれる。その時のために私は眠っている。

 目をゆっくりと閉じる。視界が暗闇に閉ざされる。しかしそれは死の闇ではない。蛹が蝶になる前に大空を夢見るように、未来を夢見た安泰の夢である。

 そのままどのくらい大空を夢を見ただろうか。そんな時だった。

 外から彼の足音が聞こえてきた。そして、それは告げていた。目覚めの時が来たと。羽化の時が来たと。

 私はその声に手を伸ばした。

 




 朝はどうも苦手だ。

 父親に朝早くに起こされ続けた、というのが原因だろう。起こされた後は、そのまま眠い目をこすりながら好きでもない朝の散歩に連れて行かれた。そのため、僕にとっては朝は眠く、その上好きでもないことを強要させられる嫌な時間という意識が完成していた。

 だから今はとても気楽と言えた。男が継ぐという決まりによって、姉さんを差し置いて墓守の仕事を継がされたが、その時間という点については満足だ。これもまた決まりで僕一人で敷地内の小さな小屋に住み、墓地の管理をしなければならないが、時間的拘束も動作の矯正もない。王国兵士のように朝からしゃきしゃきと街中を行進しなくていいのだ。

 だから、今日も僕の朝は遅めで気怠げだ。粗末な木製小屋からのそのそと起き出た僕を待っていたのは、しかし快適な朝ではなく、大きな四角形の棺桶だった。

 久々の再開だ。

 大方、弔いの式をする金もない貧民が持ってきたのだろう。もしくは公になって困る死体の処理か……。そんな困ったものはこんな風に無造作に墓地に置かれる。そこを管理する墓守に全て任せてしまおうというわけだ。それでそれとは無関係。どんなことがあっても知らぬ存ぜぬ。それで全てが回っている。

 実際こんなことも珍しくない。墓守の仕事を引き継いでから何度もあったことだ。

 平民貧民はもちろん、王族貴族ですらたった一日で全てを失う。夜になれば酒場で男たちが盗品自慢大会。その過程で死体が量産されたとしても驚かない。

 ただ、こうやって予期せずに持ってこられると、少々忙しい一日になる。この死者の親族への連絡はする必要はないにせよ、このまま埋葬しないわけにはいかない。

 棺桶はそんな世間や僕とは無関係とばかりに、光を反射して存在感を放っている。まだむき出しでなく、棺桶に入っているだけまし、だろうか。

 のろのろと埋葬作業の準備していると、突然蓋が動き始めた。

 それは小さな震えだった。しかし、まるで伝染するように少しづつ大きくなっていく。

 僕は背中に鳥肌がぞわっと駆けあがったのを感じた。静かにそこに鎮座しているはずの棺桶の、その蓋がカタカタと音を立てて震えている。まるで中に封じられた何かが産声を上げ始めたかのように。

 これは何なのか。

 昔見た演劇に生き返る死者が登場していたのが瞬間的に再生された。それでは棺からよみがえった死者が自らの復習を果たす話だった。死者役の俳優の演技が素晴らしかったこともあり、当時はすっかり怯えてしばらくここには近寄らなかった、と父親が言っていた。

 頭と目の前の光景を一致させようとする間にも、その声はだんだんと大きくなっている。そして蓋の間から……

 箱はとうとうその中身を吐き出した。現れたのは真っ白な手だった。そしてすぐにその持ち主も姿を見せる。

 そこに現れたのは想像していた殺人鬼などではなかった。僕と同年代だろうか。しかし、幼いころから死の匂いをたっぷりと染みついた僕の肌とは違い、生まれて何も触れたことが無いような、透き通るほどの真っ白だった。

 少女は上半身を棺からずっと暗闇にいたのか、眩しそうに朝の陽ざしに目を細めた。そして次に僕の方に顔を向けると、次にその目をまんまるに見開いた。

「私の王子様……」

 小さくてあまり聞き取れなかったが、おそらくそんなことを呟いたと思う。そして僕の方に駆け寄ると、

 少女はもう二度と離すまいとするようにきつく抱き着いた。恋人同士の抱擁のように二度と離すまいと、きつく。僕の土の混じった死の匂いが彼女の無垢な匂いと混ざり、かき消していく。しかし、僕は彼女の激しい感情とはそれとは別の感情を抱いていた。

 こうして運ばれてきた、ということはこの少女はもはや死者なのだ。平然と街に姿を現そうものならば、石を投げられて墓場に戻ることを強要される。もはや普通の生活には戻れない遠い、遠い存在。

 私はこの哀れな少女の境遇をただ想像することしか出来なかった。

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