1『青き少女』
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少女はゆっくりと呼吸を繰り返して生きている。
それは毎日やっても飽きないことだ。当たり前のように、酸素は己の身体を出入りしているのだ。たとえ意識していなくても、その動作は生きるためのものだった。
鳥の羽音が遠くの方で聞こえている。
森には一陣の風が、少女の髪を撫でる様に吹いていた。
いつものように木に寄りかかって、静かなひと時を過ごす少女。
少女は青く川の様に長い髪にエメラルドグリーンの大きな猫目の持ち主だ。
雪のように白い肌はほのかな光をまとってさえもみえる。
近寄りがたいほどに、その美貌は厳粛な雰囲気をだしていた。
やがて伏せがちな瞳は、ふとした拍子に視線を上げた。
穏やかな時間もどうやら終わりのようだ。
五人の少年達に囲まれている少女の状況はとても穏やかとは言えない。
少女はのっそりと立ち上がると、子供たちを押しのけその場から立ち去ろうとした。
「おいおい。無視かよ。」少女が視線を合わせようともせずに立ち去ろうとするので、一人の少年はややがなり口調でいう。
やっとのことで少女は振り返って、少年達を見据えた。まるでこの世で一番つまらないものを仕方なく見ているような視線だ。
「無視ではない。私はこういう状況下に置かれた時、真っ先にその場から去ることを学習しているだけだ。」
少女の声は見た目から想像できるような燐とした迷いの無い声だ。面倒くさそうにため息もついている。
「ため息は幸せを逃がすぜ?」
子供たちの中で特に特徴の無い少年は気味悪くにやにやしながらいう。
少女は緑の瞳に迷いを宿らせることも無く、すぐに返答した。
「幸せ?私に幸せなどない。元から無いのならば逃げるも何も無いだろう。」
そういいはなち、少女は目をそらすとまたその場を立ち去ろうとした。
髪を揺らし、少年達に背を向けて歩き出す。
にやりと少年達は笑った。怪しげに何ともいえないような恐ろしい顔をして。
刹那、一人の少年は殺気立ちながら少女に襲い掛かった。利き手に棒状の木を持ち何をしようというのか。他の少年たちも隠し持っていた縄やらを手持ちに加えて、野生の獣のようにけたたましく吠えた。
しかし…少女に何が通じようか。
少女の反応は実に素早いものだった。
そう、この場はすでに彼女の支配下に置かれていたのだ。
残像を残すかの如く、するりと一番目の攻撃を伏せて避ける少女。棒を振りかざしすっかり攻撃を当てる気でいた少年は、身体が追いつくことも無く前に転んでいく。さらに伏せたまま片足を後方に蹴るように伸ばし、二人がかりで来た少年の足元を狂わせる。二人の少年は少女の足に躓き、無様につんのめりながら悲鳴を上げた。
一瞬で起きたことにまだ気付いてもいない残りの二人は、まだ吠えながら少女に襲い掛からんとしていた。少女はしなやかに立ち上がり、小さな声で呟く。
「お前達は愚かだ。」
きらりと瞳が光った。
蛇にらみとはまさにこのことだろうか。
少女の威圧のなかにかすかに感じるは、何者かの威厳。
少年達は凍りついたかのようにピタリと動きを止めた。蛇に睨まれたひよこの如く…震え上がる。
「先ほどまでの威勢は何処に行ってしまったのだ?」
少女は困惑したように首を傾げた。
「私を殺すつもりだったのだろう?」
少年達は話など聞いていなかった。哀れなほどに悲鳴をあげ、怯えのせいで身体が言うことを利かないのだ。武器などは草に放り捨て、何をしようとしたのか…丈夫そうな縄もその場に散らばっている。
「聞いていないのか。」
完全に見下したように冷たい視線を放つ少女。
白い肌に際立つような桃色の唇を歪ませることなく、森を抜け出した。