№2 「文追いサンタ」
先日、自分は雑誌についていた懸賞ハガキを出しに行こうとポストに向かった。
しかしハガキを入れたところで、自分はじっとポストを見つめ、しばらくフリーズしてしまった。
真夏の暑さとポストの赤白の組み合わせが矛盾しているようで、何か非現実的なモノに見えてくる。
自分はこの色の組み合わせをどこかで見たことがあった。サンタクロースだ。
このポストは小さなサンタの家なのだ。
こうして、また突拍子もない妄想が始まる。
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文追いサンタはポストの中に住んでいる、とても小さな小人のサンタだ。
体のサイズとバランス以外は、赤白の服に長いヒゲまでオリジナルのサンタと変わりはない。
彼らの仕事は、ポストに入ってきた手紙を読むこと。
手紙を通して、彼らはその人間性や家庭の環境などを伺い知ることができるのだ。
そして手紙調査によってある程度まともな家庭であること、またその家に子供がいることがわかると、文追いサンタ達は連絡を取り合い、最寄りのサンタがその家宛の手紙にしがみついて潜入するのだ。
潜入先で、文追いサンタは子供の動向、親の様子、家庭の雰囲気などを調べる。そして合格ならば、子供にある暗示をかける。
暗示にかかった子供は、自分が本当にいい子かどうか、そして本当にほしがっているものは何かを紙に書き出し、サンタへの手紙と言い張り出す。その手紙を最終的な判断材料として、オリジナルのサンタはその家にプレゼントを届けるかどうかを判断するのだ。
文追いサンタは、このシステムの為に生み出された人工の妖精である。
本職のサンタ達の高齢化や世界人口の増加に伴って作られたこのシステムだが、効率的な配達法の確立やメールの普及、サンタを信じない子供の増加に少子化などの影響もあり、今ではあまり稼働していないのが現状である。
現在、サンタとしての役を失った野良文追いサンタは、ポストの中で意味もなく手紙を読み続けている。
その文章の中に優しい心や楽しい気分を見つけると、その手紙についていき、送り先の家に住み着くらしい。そして家主が書いた手紙を読んでは、何がおかしいのかクスクスと笑うという。
文追いサンタは今日も、手紙を読むためだけに生きている。
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我ながら意味不明だった。何だ夏にサンタって。
そもそもプレゼントは親が用意しているのに、そこから無視している。
いよいよ暑さにやられたのだろうか。
とはいえ、確かに現在自分もメールばかりで手紙などほとんど書いていない。
暑中見舞いでも出してみようかと思いながら、自分はようやくポストの前から離れた。
赤白の箱の中には、当然何もいない。