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ぶっ壊せ!!

イベントもぶち壊してみた

作者: 夕月 星夜

この世界は乙女ゲーである。私こと苑宮波音はライバルキャラだし、元許嫁は攻略キャラの鳥海夏樹だし。当然ながら主人公の澤尻桃香もここにいる。

というか、目の前で真っ赤になって泣きじゃくってるけどね。


「桃香さん、泣かないで」

「だ、だって、だって、ごめんなさい」

「桃香さんが悪い訳ではありませんもの。私が勝手に桃香さんを庇っただけですわ」


なんの話かって、私が桃香さんを庇って怪我をしたという話です。実はこれ、イベントのひとつだったりする。体育館で授業中ガラスが割れて主人公が怪我をすると、同級生か後輩の中で最も好感度の高い人にお姫様抱っこで保健室に連れて行ってもらえると言う、イベントとしては美味しいけど実際には痛いし羞恥プレイな、ね。

ゲームとしての状況は叩き壊したはずなんだけど、こうしたイベントは発生しちゃうものもあるみたいで困る。でも、現実だしね。もう邪魔は徹底的にやってやろうかと。


「桃香さんに怪我がなくて何よりでしたわ。それに、こうしてお話する機会も貰えましたし。桃香さんとお友達になりたいなって思ってましたのよ」

「そんな!! わ、私だって苑宮さんともっとお話ししてみたいなって……」


あら、さっきとは違う意味で赤くなっちゃって。ほんとに桃香さんって可愛いな、女の子もつい胸キュンするタイプの可愛らしさなんだよね。

これは男どもが恋しちゃう訳だ。納得。私だって仲良くなりたいって思うもん。


「ふふ、でもこの状況を他の人に見られたら嫉妬されちゃいそう。だって今、桃香さんを独り占めしてるんですものね?」

「あ、苑宮さんになら、別に……嬉しい、です」

「そう? 私も桃香さんと一緒にいられて嬉しいわ」


心からそう思って言ったら口をパクパクさせちゃって、涙目で真っ赤とか。可愛い。


「……傍から聞いてると口説いてるぞ、波音」

「あら、そう聞こえます?」


はあ、と溜息を吐いた夏樹にくすくすと笑っていれば、差し出されるカバンと制服。隣で男子も体育してたんだけど、私が怪我した時に一番先に駆けつけて指示出して保健室連れて行ってくれたんだよね。あれは格好良かった、お姫様抱っこは恥ずかしかったけど。

そして帰りの車の手配とかもしてくれちゃうとか、流石私の幼馴染。仕事が早くて素晴らしい。

ちなみに怪我をしたのは左の太ももでした。ざっくり切れたから白い靴下がとんでもない事になってた。この後病院に行く事が確定です。

縫うかなー、縫うのはやだなー。一応きつめに包帯巻いて血は止まったから、いい加減着替えたいは着替えたい。


「桃香さん、手を貸していただけますか? 着替えをしたいので」

「わかった。カーテン閉めるね」


ベッドのカーテンを閉めて貰ってごそごそと着替えをですね。上はいいんだけどスカートがね、もう体操服のズボン履いた上からでいいか。格好悪いけど。

立ち上がるのが難しいので桃香さんに被せて貰って着替えをしていたら、バンと勢いよくドアが開いた音がして。いきなりカーテンが開いた。


「桃香、無事か!?」

「小鳥遊!!」


あ。俺様お坊ちゃんだ。じゃなくて。


「……これ、上を着替えてる最中だったらしっかりセクハラというか訴えて勝てるレベルですよね」

「そうだと思います。というか、小鳥遊君最低」

「な!! 俺はただ、桃香が心配で!! 怪我は? どこが痛いんだ?」


おい。この状況見てその反応ですか。さりげなく桃香さんの手を握るとか、図々しいと言うかなんというか、こういう男殴りたい。

と思ったら、夏樹が先に殴ったって言うね。軽く吹っ飛んだよお坊ちゃん。


「いってぇな、何すんだよ!!」

「何してるのか聞きたいのはこっちだ!! いきなり入るなりカーテンを開けた挙句、着替え途中の女性には謝らないで一方的に桃香へ捲し立てて、ここには怪我人がいるんだぞ、何してるんだお前!!」

「だから!! 俺は桃香を心配して!!」

「桃香は怪我してないだろう!!」


え、みたいな顔してるんだけどこのお坊ちゃん。馬鹿なの? 馬鹿なんだろうね、うん。

桃香さんも呆れちゃってるじゃないですか、やだー。じゃなくて。


「私は既に着替え終わってますし、そんなに怒らないで下さい。それよりもそんな非常識で思い込みの激しいどこかの誰かさんに関わる事で大事な幼馴染が怒られるような可能性の方が嫌です」

「わあ、苑宮さん辛辣」

「当たり前でしょう? 百歩譲って着替えてるのはわからなかったとしても、具合が悪い人がいるかもしれない保健室に騒々しく入り込んだ挙句一言もなくカーテンを開けて大声を出すなんて非常識ですわ」

「なんだと、この女……!!」


あ、怒ったー。と思ったらいきなり嘲るような笑みをですね。うわ、むかつく。


「なんだ、誰かと思えば鳥海をフった女か。結局この女に未練があるのか? 桃香にもフラれて、可哀想だな」


おっと、初耳な事が。何、夏樹ってばもう告白してフラれてるの? それでも桃香さんとの関係悪くはなさそうなのが不思議なんだけど。

思わず夏樹を見るけど、私達の方を向く事なくお坊ちゃんを見てる夏樹の表情は特に変化をしてなくて。


「確かに俺は桃香に告白してフラれてる。だが、それだって当然の結果だ。自分で納得しているし、そのうえで桃香と友人でいるのは俺と桃香で決めた事だ。他人に口出しされる筋合いはない。波音の事も悪く言うのなら、幼馴染として怒る」


あらま。なんというか、格好よさに磨きがかかってません? そして桃香さんが私の袖をきゅっと握ってて……ああなんかもう、面倒になってきた。


「夏樹、そろそろ車はついたのかしら。帰れそう?」

「あ? ああ、そろそろいいんじゃないか」

「なら、早く病院に行きたいですわ。桃香さんも一緒に来てくださいます?」

「私、も?」

「おい、桃香に何する気だ!! 大方お前の不注意に桃香が巻き込まれただけだろう!!」

「桃香さんに傍にいて欲しいんです。お嫌ですか?」


お坊ちゃんはスルーして微笑めば、どうしようかと言うように瞳を揺らす桃香さん。うん、普通はそうだよね。付き添いに夏樹が来てくれるってもう言ってる訳だし。

でもね、この状況でひとりにさせる方が嫌だもの。だから桃香さんが一緒に来てくれるように、耳元に唇を寄せる。


「乙女ゲーの展開だと、小鳥遊が保健室に来たルートもありましたわね?」


バッと振り向いた桃香さんに頷けば、みるみるうちに大きな瞳が潤み出す。うん、わかったようで何よりです。

好きでもない人にベッドに押さえつけられて無理やりキスは嫌だよね、やっぱり。


「ね、一緒に帰りましょう?」

「カバン、取ってきます!!」


勢いよく立ちあがってから、ハッとしたような顔になる桃香さんにもう一度頷けば、唇をきゅっと噛みしめて。


「ちゃ、ちゃんと話してくださいね!!」

「もちろん。そうじゃなきゃ、こんなに誘いませんわ」


うん、桃香さんが夏樹をフった理由知りたいからさ。手の内を明かすくらいなんでもないよ? もちろんさっきの耳打ちは桃香さんにしか聞こえないようにしてあるから二人は不思議そうな顔をしているだけだし。

体操服の上をちゃんと畳んでカバンに詰めて、立ち上がれるかなーって思ったらさっと夏樹が支えてくれる。


「ありがとうございます、夏樹」

「まったく。無理はするな」


溜息を吐いて、それでも優しいところに苦笑する。


「ただの幼馴染に気を使いすぎじゃありません事?」

「そうか? 普通だろ。許嫁って言っても、意識して振る舞っていた訳じゃないからな」

「まあ、そうですけど。ちょっとは気まずかったりしません?」

「波音は気まずいか?」

「まあ、多少は」

「俺的にはすっきりした気持ちだからな。色々なしがらみがなくなって考えて、やっぱり俺にとって波音は大切だって事もよくわかったし」

「お待たせしました!!」


何それまるで口説き文句なんだけど。思わず絶句してたら桃香さんが戻って来てくれたので、うん、早く話題変えようか。


「お帰りなさい、桃香さん。もう行けますか?」

「大丈夫だよ。先生にもちゃんと女手が必要だからって許可貰ったから」

「そうですか、なら早めに行きましょう。先程保険の先生に縫うかもと脅されてますから」

「だよね、行こう」


支えてくれる夏樹にありがたく寄りかからせて貰いながら立ち上がる。


「桃香さん、荷物を持って下さってありがとう」

「ううん、これくらいしか出来なくて」

「とてもたすか、きゃっ!?」

「さて、行くぞ」


またお姫様抱っこにされるとか!! 流石に恥ずかしいよ、夏樹!!


「あ、あの、夏樹?」

「病院で許可が下りるまで歩かせるつもりはないからな」

「そんな先手を打たなくても。重いでしょう?」

「いや? 羽みたいに軽い。ちゃんと支えないと、簡単に失いそうで怖いな」


そう言ってふっと笑った夏樹に顔が熱くなるのは仕方ないと思うのよ。うん。でも桃香さん楽しそうに笑うのやめて恥ずかしい。


「おい、桃香!! そんなのほっとけ!!」


完全にお坊ちゃんはスルーして帰ろうとしたら、なんかまた吠えたんだけど。桃香さんが怒ろうとしたのを視線で宥めてにっこりと笑ってあげようか。


「ああ、すみません。ところであなた、誰ですか?」

「なっ」


パクパクと口を開け閉めするお坊ちゃんにほくそ笑む。この人を同学年で知らない訳がないんだけどね、何せ理事長の孫だから。でも、そんな事はどうでもいい。

大事なのは、この人が私にとって邪魔だって事。


「ごめんなさいね、記憶力はいいはずなんだけど自己中心的な考え方で世の中は自分の思うように動くと思い込んでいるお坊ちゃんの記憶はなくて。それに着替え途中で踏み込んでくるような常識知らずも」

「き、さま!!」

「では失礼。病院に行かないと」

「覚えてろよ、貴様など!!」


はい、スルースルー。だって私、こういうタイプの男嫌いなんだもの。

あーあ、本当は颯爽と歩み去ってやりたかったんだけどな。残念。




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― 新着の感想 ―
[良い点] なんかニヤニヤ出来る [気になる点] 連載じゃない [一言] 短編のままでもこんな終わり方はしないよね(チラッ)
[良い点] 転生者達はまともな感性と道徳をもっていること。 [一言] 始めましで、前編も一緒に読みました。 確かに、キャラゲーや乙女ゲームによくあるラキスケベなどのイベントは、第3人視野では面白いで…
[一言] 続きありがとうございますm(__)m とっても気になる!楽しみに待ってます。
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