彼女の記憶
生まれてこの方恋愛経験は皆無。
そんな僕の運命の出会いだと思った。
身体に電流が走ったような痺れる感覚があった、そして彼女が視界に入った。
「あっあのっ・・・」
突然の僕の声掛けに怪訝そうに振り返る女性。
彼女に駆け寄ろうとするが、身体が上手く動かない。
「ふふっどうされました?」
彼女が天使のような笑顔でにこやかに微笑む。
「あっあのっそのっ」
上手く言葉が出てこない。
一体僕はどうしてしまったのだろうか?
「あのっ大丈夫ですか?」
心配そうに僕の腕をとり覗き込む彼女に顔が赤らむ。
そして身体に力が入らない。
「あっあの・あねっ・・」
そして口からは自分の意図した言葉とは違う言葉が出てしまう。
「大丈夫、少し落ち着いてください」
彼女はそういうとポンポンと僕の肩を軽く叩いた。
「はひ、ふひまへん」
(はい、すいません)
もはや人類の言語かもあやしい言葉だ。
「******************」
彼女がなにか語りかけてくるが、舞い上がりも最高潮で何を言っているのかも理解できない。
ダメだ、頑張れ、これは僕にとって最後のチャンスなんだ。
僕は最後の力を振り絞り彼女に声をかけた。
「ひゅうひゅうひゃ・・・」
(救 急 車)
気がつくと僕は病院のベッドの上だった。
「脳梗塞でした、発見が早くてよかったですね。後遺症も残らないでしょう」
意識がもどった僕に医師はそう告げた。
「しかし、たまたま声をかけた女性がナースだったのも運が良かった。応急処置も完璧だった」
そして、僕の幸運を医師が褒め称えた。
僕は答えた。
「ええ、たまたま近くの病院の看護師さんの顔を覚えていたのは幸運でした」
勘の良い人なら最初の三行目でネタバレでしょうw