プロローグ
異能者なんて二次元だけだ。現実に居る訳がない。日本中、世界中、一般人に聞くとたいていの人はそう答えるだろう。だがしかし、社会の闇に隠れて潜んでいることは一般人は知らない。
時はXX50年、日本の都市とされている東京には一般人立ち入り禁止の場所がある。だが、そこがあることを知っているのは政府の上層部の人間だけとなる。
悠常学園。世間的には有名な中高一貫の進学校であり、国内唯一の学園都市である。とてもハードな進学校であり、選ばれた人間にしか進学できない学校として世間的には有名だ。そう、学校側、政府側が勧誘するのだ。その勧誘された者こそしか進学できない学校である。ゆえに東京にあるのは知っているが、東京のどこの場所にあるのかも学校側と政府側にしか分からない事実であり、公開されていない。
しかし、そんな悠常学園の裏側は進学校ではない。政府が血眼になりながら日本中にいる異能者を探し、その異能者こそが悠常学園に進学できるのだ。いや、できるのではなく、しなければならないのだ。そう、強制的に生まれながら異能の力を持つ日本中の子供たちを集めた学校。それが、悠常学園なのだ。
子供ということは親がいる。政府は子供に勧誘するが強制的である、やはり親も黙っていない。肯定しない親に政府は裏金を使ったり、言いくるめたりして親に認めさせるのだ。
なぜ、裏金を使ったりまでして異能者を政府は集めたがるのか。それにはもちろん、理由がある。建前上には異能を制御できるように。たいていの親はこれを言えば了承してくれる。異能を持ってかわいそうだと思う親もいれば、気持ち悪がる親もいるからだ。
しかし、それはあくまで建前上の話だ。政府の本当の目的は、悪用しないように教育する事である。そう、異能の力の中ではやっかいなものもあるのだ。例えば炎を出せたりしたら、犯罪の時に使われたら捕まえるのも大変であり、政府に逆らおうと思えばいつでも焼き殺せるのだ。実際にそんな事件もあったみたいだが、真相は闇の中に隠れた。
強制的に政府は子供たちを悠常学園に移動させるので、親から見れば学園でいて楽しいものなのかと心配になるが、そんなことはないのだ。むしろ、同じ立場にいた子供たちが集められることによって話が合う場合が多いのだ。寮から、学園内から休み時間や自由時間はいつも楽しい声が上がっている。その声を聴いて政府も学校側も親も安心するのである。実際に学園外の連絡方法としては、手紙と携帯電話、スマートホンが許されている。なので心配になれば手紙を書くなり、メールを送るなり、電話をするなりすれば子供と連絡は取れる。なので、子供が悠常学園に行き1ヶ月程でほとんどの両親は安心するのである。
そして、そんな悠常学園は今日も賑やかな声が上がっていた。
「どーも、今日はいい天気ですね、神影先輩?」
神影と呼ばれた男子…いや、よくみれば女子。そうこの神影が主人公なのである。神影 零緋、高校一年生、彼女はれっきとした女子なのだが学ランのボタンを全開にし、中にはTシャツを着ている男装女子。黒に紫のメッシュの入った髪はポニーテールとして束ねられており、風にそよそよと揺れて青色の瞳は自分のことを先輩と呼んだ者をしっかりと睨んでいた。
「うん、せやな。朝倉?」
朝倉と呼ばれた女子。朝倉 芽生、中学校3年生。彼女はセーラー服を身に包み紫苑色のスカーフを校則通りつけている。ただ少し違うのはミニスカートの下に黒色の黄緑のラインが入っているジャージを穿いていることである。前髪を黒ピンで斜めに×のようにとめて、ストレートのセミロングの長さのはを黒に近い紫紺色。そして藍色の瞳はしっかりと目の前の零緋を睨んでいた。
「で、そこどいてもらえたら嬉しいんですけど?」
血管をぴくっと動かせながら、零緋を睨む芽生。
「何言ってんねん、後輩がどけ。」
零緋の方が背が小さいので芽生を見上げて睨んでいる零緋。二人は今、校舎の靴箱付近の角でぶつかり、どちらかがどけばいいのだが両者ともどく気は全くないようだ。
「変なとこで先輩面してんじゃねーよ、そういう風にしてるの神影先輩だけっすよ?」
「他は他や。悪いな、オレはこういう奴や。分かったらさっさとどけ」
「じゃあ、どきますねって何で同じ方向に動くんだよ?」
芽生はイライラ度が過ぎて来たのが、先輩に対しての敬語がすっかり抜けていた。
「お前が動けへんからやろ?つーか、お前こそ一緒の方向に移動すんなよ!」
「いや、そっちどけっつーんなら動かなかったらいいだけの話だろ!?何で動くんだよ!?」
「そっちもやろ!!何なん、自分!?喧嘩売ってんか!!?」
「上等だ!!」
何とも小さい事での喧嘩…見ている方が思わずため息をつくくらいだ。だが、しかし。周りの物は口から暴力へと移った喧嘩を誰も止めようとはしない。そう、この二人学園内では有名な問題児であるからだ。毎日一回は喧嘩を起こし、それを止める者の命はない。…しかし、二人だけこの喧嘩を止めることのできる人物がいるのだ。
「ねえ、紅葉。れぃがまた喧嘩してるよ?」
阿 夜琉、高校一年生女子。肩にかかりそうな白髪の髪を、夜流は少し右手で払いのけて左手では大切そうに本を持っている。セーラー服を身に包んでいるのだが、セーラー服の象徴と言ってもいいスカーフを夜琉はしていない。理由は邪魔だから。死んだ魚のような黒目は紅葉をちらりと見ていた。
「あー、もうっ!!!また零緋、芽生と喧嘩してんのか!?ゴメン、夜琉ちょっと止めてくるわぁ!」
紅葉と呼ばれた人物。秋藤 紅葉、高校一年生女子。セーラー服の上から紺色のセーターを身に包み、朱色のスカーフを校則通りつけている。スカート丈が膝と腿の中間と短い部類に入る。夜琉に零緋と芽生が喧嘩していることを聞いた紅葉は、茶色の眼鏡の下にある黒目で夜琉に視線を送り、すぐさまにセミロングのストレートの栗色に茶色のメッシュの入った髪なびかせながらを階段へと向かった。
「…今週で6回目かな?」
まだ火曜日なんだけど。と夜琉は階段へ駆け下りて行った紅葉の後姿を見てそう呟いたのだった。
階段を駆け下りている紅葉に、季節関係なしに校則通りきちっと着こなし、紫苑色のスカーフをし、セーラー服を見に包んだ少女は声をかける。
「紅葉さん!!」
「波音!」
波音と呼ばれた少女。汐海 波音、中学三年生女、黒髪で肩につくくらいのショートヘアをなびかせながら、黒目を階段の方へ向け紅葉の元へと駆け寄った。
「波音も気づいたんか?」
「はい、委員会室で芽生がいないことに気づいたのです。靴箱付近が騒がしいようなので、もしやと思い…」
「どうやら、その予想当たってるみたいやな…二人とも異能を使う前に靴箱へ急ぐで!!!」
「はい!!」
二人は階段を一緒に駆け下り、靴箱へ向かって行った。そう、この人物こそが零緋と芽生の喧嘩を止めることのできる学園のある意味での英雄、紅葉と波音であった。
―――――――――――――で、その頃の問題児…ゲフンゲフン。零緋と芽生は。
「ッチ、さっさとくたばれ、朝倉あああああああ!!」
「こっちのセリフだ、神影えええええ!」
二人とも強い。しかし、傷が見られるのは零緋だけだった。それは、芽生の異能の力は不死身で傷が回復する。というか痛みを消すこともできるからである。
「相変わらず、傷全部回復しよって!!!そっちがその気ならこっちもや!!」
その瞬間、零緋の右手からすさまじい稲妻が見れた。そう零緋の異能の力は電撃、放電である。
「防ぐに決まってんだろ!!それに、当たってもどうせ死なねーよ!!」
芽生はいつも持ち歩いてる武器、伸縮できる幻の武器如意棒をバトンのようにくるくると回していた。
「しゃらくせえええええ!」
零緋がそう言い、稲妻を放ったと思われる瞬間だった。ぴきっと零緋の手が凍ったのだ。
「二人とも!!!そこまでです!!」
零緋と芽生が聞き覚えのある声の方を向くと、波音の右手から氷が生産されていた。波音の異能の力、氷生産である。そしてその横には紅葉が茶色の眼鏡を外し、黒目だった瞳が青色に変化していた。
「お前ら喧嘩するんやったら、人に迷惑かけんと、外でしぃてずっと言ってるやろ!!何でいつも委員会室やったり、学園内やったり、寮ですんねん!!」
「「だって、紅葉/紅葉さん!!!こいつがどけへんから/どかなかったんです!!」」
二人とも紅葉を見て似た言葉を言った。芽生も怒りが収まって来たのか、紅葉に先輩として敬語だ。そして二人は似た言葉を言ったことに納得しないのかまたタイマンをはっていた。
「喧嘩両成敗!!それ以上ここで喧嘩して、人様に迷惑かけるんやったら石になって25分間反省してもらうで!?」
紅葉の異能の力、25分間だけあらゆる物質を石化することができるのだ。発動する時はいつも身に着けている茶色の伊達眼鏡を外し、青目になるのだ。逆に言えば、伊達眼鏡で能力をいつも制御している。そして二人は一度、喧嘩で紅葉の大好きなカフェオレをこぼして紅葉の怒りから石にされたことがある。石化の間体は全く動かなくなり、石になってしまう。のだが、意識はあるのだ。石化されていた25分間は地獄のような時間だったので、二人はもう石になりたくない。零緋は稲妻を発生するのを止め、芽生は武器である如意棒をスカートにつけているベルトへと収めた。
「それでいいのです…しかし、被害が壁に数カ所ひびが入っているだけで良かったです…。二人とも、ぼくも手伝うので後で一緒に理事長に謝り、壁の修理をしましょう。」
波音は零緋の手を凍らせていた、氷を解き、壁の方へ目を向けた。
「分かったよ、波音。迷惑かけて悪かったな。紅葉さんもすいませんでした」
芽生は波音と紅葉に謝り、波音は「いいですよ、ちゃんと理事長に謝り壁の修理をしてくれれば」と言い、紅葉は「構へんよ、あと敬語やなくてええよっていつも言ってるやろ?」と愛想笑いを浮かべた。
「零緋、アンタも謝りに行って修理するんやで?」
幼馴染である零緋に紅葉は、確認するように言った。
「分かってるよ、ちゃんとするって」
確認するように言われた幼馴染に、零緋は困ったように笑ったのであった。
―――――生徒会室
生徒会室からある人物は、窓から零緋と芽生の喧嘩の様子を見てふっと笑った。
「…そうか、やはり予想通りになったか…完全に把握ではないが、多くの予想の中にあった結末だな。」
黒のナチュラルショートの少年は、茶色の瞳を靴箱付近の人物たちへと向けていた。そしてその瞳は口元と同じように楽しそうに笑っていた。
3/30 AM1:50 誤字の指摘がありましたので修正。
ご指摘ありがとうございました。