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私と猫と魔女の契約  作者: 帆立
私と猫と魔女
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第9話:魔女と呼ばれた少女

「まあ、可愛い猫さん」

 私の足元にいるシリウスを見るや、時乃さんは声を弾ませる。

 猫が好きなのだろうか。時乃さんの態度は一変する。私の姿を認めたときの上品な微笑とはまた違った類の――ケーキを差し出されて眼を輝かせ歓喜の声を上げる無邪気な少女の笑顔を、無防備に晒していた。

「魔女め、今日こそ引導を渡してくれる」

「この子、私を見つめていますわ」

 時乃さんははしゃいでいる。

 シリウスが喋っても私以外の人には「にゃー」と鳴いているようにしか聞こえないらしい。少なくとも時乃さんには聞こえていない。猫が人間の言葉を話すのを目の当たりにして、しかも自分を魔女呼ばわりされて「可愛い」で済むはずがない。

 時乃さんは腰をかがめてシリウスに顔を近づける。そして彼女はおもむろに腕を伸ばしてシリウスの額に手を触れて、無遠慮になではじめた。

「我輩に触れるな」

 右前足で時乃さんの手を払う。シリウスは表情こそ変わらないものの、口調から明らかに時乃さんを敵視している。

 この場所は元々この黒猫の寝床だということを、シリウスに代わって私が時乃さんに伝える。

「あら、そうでしたの。ごめんなさい、黒猫さん」

「理解したのなら早々に立ち退け」

「お詫びにたくさん可愛がってあげますわ」

 シリウスが危機を予感して逃れるよりも早く、時乃さんはシリウスを抱き上げる。いたずらっ子がいたずらをするときに繰り出すような、妙に素早い手つきだった。シリウスの両足を使った必死の抵抗も無意味に空中を掻くだけだった。もがき苦しむ彼には悪いが、その様はとても愛らしかった。

「魔女よ、分際をわきまえよ」

 両足をばたつかせながらシリウスが鳴く。

「ユズさん、この子のお名前は?」

「シリウスだよ」

「ユズさんの猫ですの?」

「まだ野良猫。いつか飼おうと思ってたりしてる」

「放せこの魔女め」

 時乃さんは「かわいい」とシリウスを愛しげに抱きしめる。シリウスは苦悶の声を上げる。時乃さんにはやはり「にゃーにゃー」と鳴いているようにしか聞こえないみたいだ。嬉しがっているのだと勘違いして、ますます強く抱きしめる。頬ずりまでする。

 両耳を巻き込みつつひたすら頭をなでたり、首の下をなでたり、尻尾に触れたり、鼻先が触れ合うくらいに顔を近づけて見つめあったり、無遠慮に抱きしめたり――普段のおっとりした身のこなしから打って変わって、幼稚な愛情を力いっぱいシリウスに注いでいる。彼女の豹変に私はしばし面食らっていた。

「ユズ! 助太刀を!」

「シリウスさんはなんとおっしゃっていますの?」

「えっ! えっと『お嬢さんこんにちは』かな」

「ユズめ、この狡猾な魔女にほだされたか! おい魔女、貴様はここで悪魔的な儀式をするつもりなのであろう。我輩を生贄にするようだが、そうはいかんぞ」

 まさか罵詈雑言を浴びせているだなんて、間違っても告げられない。

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