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私と猫と魔女の契約  作者: 帆立
私と猫と魔女
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第8話:お姫様が目を覚ます

 透き通る肌、端麗な顔立ち、やわらかそうで艶やかな髪、すらりと高い背、制服の上からでもわかる胸から腰にかけての曲線。時乃さんは美少女と呼べるあらゆる要素を兼ね備えていた。穏やかな日差しも、心地よい微風も、みんなこのお姫様のためにあてがわれたと錯覚してしまうくらいだ。

 乱れた髪をそっと手で直す。一瞬だけ見えたうなじ。そんなさり気ない仕草で同性の私すら魅了するのだから、彼女を『お姫様』とたとえても、ちっとも誇張ではないはず。

「はしたないところをお見せしてしまいました。まさかこの場所に誰かが来るだなんて思っていませんでしたから」

 長い脚を曲げてゆっくりと立ち上がり、スカートの埃を払う。両手を後ろにやって苦笑いする仕草もどこか上品だ。とても同級生とは思えない。

 時乃さんは容貌だけでなく、性格や雰囲気もお姫様そのものだ。おしとやかで優しくて、誰であろうと分け隔てなく笑顔を振りまく。学校での男子からの人気はもちろん、女子からの羨望と嫉妬の眼差しもすさまじかった。

 うわさによると、時乃さんの家は日本有数の資産家で、お城のような豪邸に住んでいるらしい。もう婚約者もいるという話まで耳にしたことがある。海外の大学からの推薦もすでに決まっているとか。

 私とはまるで違う世界の住人だ。

 隣り合ったところでとても釣り合うような人間ではないことを私は自覚していた。恐れ多い、というのだろうか。クラスメイトであるにもかかわらず、私は時乃さんの姿をいつも遠くから眺めているだけで、直接話したことはなかった。もっとも、他の生徒も私と同じ気持ちらしい。時乃さんと接する人はどこか遠慮がちで、自然と距離を置いていた。

 そんなお姫様がどうして丘の頂上で眠っていたのか。悪いおばあさんに毒リンゴでも食べさせられたとでもいうのか。

「ここは私のお気に入りの場所なんです。陽だまりがあったかくて、景色がとてもきれいで、空がとっても近くて……目を閉じていると幸せな気分になるんです」

 私の疑問に答えるかのように時乃さんはそう言って、うっとりとした表情になる。

 確かにここは、この町で一番空に近い場所だ。

 何者にも遮られず、自動車や列車の騒音すらもここまでは届かない。ただただ静寂ばかりがあって、温かい陽光が降り注いでいる。心が落ち着く。

「つまり、気持ちよくて寝てたっていうこと?」

「はい。お恥ずかしながら」

 赤らめた頬に手を添える。

 夢見がちなところもお姫様らしい。

「ユズさんこそどうしてこちらへ?」

「この子が連れてきてくれたの」

 私は足元のシリウスに目をやる。するとシリウスは思いもよらぬことを口走った。

「近頃、この『魔女』が我輩の寝床を占拠しているのだ。ユズ、この魔女を退けよ。それが飼い猫となるための条件だ」

 魔女。

 そう呼んで、シリウスは時乃さんを睨んだ。

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