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私と猫と魔女の契約  作者: 帆立
らせんの坂道を上って
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第5話:木漏れ日に導かれて

 シリウスに導かれるまま、人気のない町外れまでやってきた。

 土地分譲中。

 と書かれた看板の立つ、四角でまっさらな土地がそこかしこにある。ススキが一面に茂り、家屋はまばら。秋風が少し冷たい。うらさびしい光景だ。

 十年前に山を切り開いて作られた新興住宅地。駅までの道のりが遠いせいか、建っている家はまだまだ少ない。八年前の好景気の時分、我が家はここへ引っ越してきた。そして不況真っ只中の現在、お父さんは家族を養うため日々ローンにあえぎつつ家と会社を往復している。お母さんも家事と仕事に忙しい。

「ユズ、あれを見ろ」

 丘のふもとに私たちはいる。シリウスの琥珀色の瞳が見つめる先――丘の頂上にある白い円柱形の建物は、ここら一体の水道を管理する給水塔だ。

 遠目に見えるその巨大な給水塔は日差しをまぶしく照り返している。

「ここを上るの?」

 給水塔へと続く坂道の手前は鉄の門で封鎖されている。門は車除けのために作られた代物で、女の子の私でさえ簡単にまたいで乗り越えられる。だからといって「お邪魔します」と不法侵入できるほど私は図太くない。

「ここは我輩の盟友メルクリウスの領地だ。既に許可を得ているから安心するがいい」

「そのメルクリウスさんて、猫だよね」

「左様。それがどうかしたか」

「え、えっと」

「ここを管理する職員は月末にしかやってこない。今は誰もおらんよ。『魔女』以外はな」

 躊躇う私を差し置いて、シリウスは平然と門を下から潜り抜けた。

 猫の許可で大丈夫なのかなぁ。

 不安がりつつ、私も門を乗り越える。スカートを手で押さえながら門をまたぐとき、どうしても気になって後ろを確認する。わざわざ気にするまでもなく、ススキが風にそよそよと揺れる光景があるだけだった。

 門を乗り越えた先は、らせんをなぞるように右回りの上り坂が続く。いつ上りきれるとも知れないそのコンクリートの坂道を、私とシリウスは一緒に歩いている。先頭がシリウスで、彼の後ろに私が続いている。

 好き放題に伸びた木々の枝と葉が頭上で交わって屋根を作っている。屋根の隙間から木漏れ日が射し、坂道の向こうの頂上へ私たちを導いている。まるで自然のトンネル。冒険心をくすぐられる神秘的な空間だ。

「ねーシリウス。どこまでいくの?」

 坂道を上りながら、前を歩くシリウスに尋ねる。

「言うまでもなかろう」

 そっけない返事。私は質問を変える。

「いつになったら頂上に着くの?」

「もうしばし歩けば着く」

「この上に『魔女』がいるの?」

「まったく最近の子どもは……少しは辛抱できんのか」

 あまりにしつこく尋ねるものだからシリウスに呆れられてしまった。

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