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ドッタン! バッタン!

作者: ベルベル


一章 布団最高!


心地のいい朝日、無駄にさえずる小鳥の鳴き声、恐らくめちゃくめちゃ良い朝だろう。これだけなら……既に俺は目を開けている。気持ち良い朝の空気も吸った。

だが! 布団から出ることは出来ない。なぜなら先ほど布団から手を出して解った。

寒いのだ! 異様に寒いのだ! 尋常じゃなく寒いのだ! という訳で布団の中に思いっきり潜り込んだ。当然の答えだろう? このぬくぬくとした暖かく包容力のある布団から出るなど今の状況では愚の骨頂でしかない! むしろこの状況で出ることなど不可能に決まっているではないか、と全世界の駄目人間たちに叫びたい。

しかし、この暖かい布団という名の天国から引きずり出されるのも時間の問題だと俺は悟った。

マイ・マザー未藤春菜の階段を上がってくる足音がするからである。

せ、せめて上がってくるまでの数秒の時間にも、せめてこの温もりを味わおうと俺は必死に布団にしがみ付き、頭まですっぽりと布団に潜り込んだ。

もしくは戦闘準備とも言う!

そして無常にもマイ・ルームの扉は開け放たれた!

「宏也! 何時まで寝てるの、とっとと起きなさい!」

多少イライラしている母の怒鳴り声でいつもの朝の戦争が始まる。

「頼む! せめて後五分こうさせてくれ! さすれば眠れるんだ!」

俺は暖かき布団の中で、精一杯の篭城を始めた。とりあえず布団を全力で握り締め体に巻き付ける。

さぁ、これどうだ! こうなってしまえばマイ・マザーとて、そうそう起こすことは不可能なはず! そんなことを考え俺は布団の中でほくそ笑む。

「はぁ、この程度しか考えられないなんてお母さんは悲しいわよ」

本気で悲しんでいるような母のセリフに俺の全身は震えた! そうこのままではまずい、布団から出されると予感できた。だが、解ったところでどうしようもない、布団を完璧なまでに密着させたため体を動かすことが出来ないのだ。

そう、この状態は! す・ま・き(てへ)って、そんなこと考えてる場合じゃねぇ!

俺は全力で体を横に1回転してベットから掛け布団と共に落下する。マイ・マザーの攻撃よりはましと判断したこの行動は見事成功したのか、母からの攻撃はなくしかも掛け布団という名の鎖も外れ、俺を万全の状態へ導いた。

しかしだ、そうのんびりもしていられない。マイ・マザーを舐めていると、とんでもないしっぺ返しがくる。だからこそ俺は軽く痛めた体を無視して起き上がった!

「残念だったな、マイ・マザー! これが俺様の実力、だ……あれ?」

居なかった。全く何処にも居なかった。俺の眼前には誰も居なかった。ただ冷たい風だけが俺の体を攻撃し、俺を小さくさせた。

「……これがプレッシャーと言うものか」

俺のむなしい声だけがマイ・ルームに響いていた。

「宏也、ご飯出来てるからねぇ」

っふ、これが敗北感か、悪くない。どうやら俺は母の足元にも及ばなかったらしい……はぁ、陽光が眩しいな(あはは)心の中で乾いた笑いを浮かべながら机の隣に掛けてある制服に手を伸ばし、紺色のブレザーの制服に着替えた。部屋の片隅に掛かっている時計を見れば結構な時間になっていた。

そうして部屋のドアを開け一階のダイニングへと降りていく。ダイニングの方からは味噌汁の匂いがふわりと漂ってくる。そこに俺は滑り込む。

「飯! おはよう!」

焦って大声になってしまった俺の声に動じることもなく。母さんはゆったりとご飯の入った丼を、長い髪をゴムで結んだ馬の尻尾を揺らして運んでくる。

相変わらず優雅ですなぁ、こっちまでのんびりな気分になっちまうよ。

母さんは今年で35に成るがとてもじゃないが、そうは見えない。下手すりゃ、20歳前半に見える時だってあるくらいだ。その証拠に先週の火曜のことだ、学校から帰ってダイニングへの扉を開けたら……20歳ぐらいの知らない男とゆっくりお茶を飲んでいる母が居た。

あれは焦った、相当マジで焦りました……それなのに母さんときたら凍り付く俺と知らない男を見ながら平然と「宏也、おかえり。ご飯、今日は少し遅れるけど我慢してね」もう、何も言えませんでしたよ。とりあえず見なかったことにして自分の部屋にこもりました。まぁ、夕飯はきちんと食べれたから良かったんですけどね。ちなみに男は勿論帰ってました。

まぁ、騙されるのも無理はないと思う。とても30代とは思えない白いツヤツヤの肌にきっちり手入れされた髪、そして穏やかな微笑みは反則的な神業だろう。確実に性格は狸ですけどね。

「何してるの宏也? 今日も走るんでしょ? 早く食べなさい」

言葉自体は急かしてるのに口調は穏やかなので全然焦る気がしない。そして表情は非常に楽しそうな笑顔な当たりがかなり狸だと思う。って、うっわぁ! 確実に走らないと間に逢わない。

え……俺は置かれた丼の中身を見てあまりの事に感心した。

丼にご飯を半分だけ入れてる所が分かってますねマイ・マザー! そして俺は勢い良く味噌汁をご飯に入れて、今度はそれを軽く掻き混ぜ一気に口に掻き込んだ。

「っぶ! あっつ!」

掻き込んだ猫まんまが勢い良く丼に吹き出す。

熱い! とんでもなく熱い! 味噌汁とご飯を同時に食べるという朝の究極の時間短縮技、いや朝が忙しい日本人が作り上げた神秘! そう猫まんまは奇跡のブレックファースト! だが今だけは破滅的な熱さを持った激物と化していた。

その熱さに俺の舌はヒリヒリ痛み、飲み込んでしまった物は胃の辺りで暴れ狂い、胸を締め付けるような痛みを感じさせる。

「あらあら、そんな急いで食べるからよ」

母さんは穏やかな笑みを崩さず、俺に目線を合わせ柔らかい口調で諭すかのように言う。これは普段の行いの罰だと言いたいかのように目だけは真面目だった。

要はせっかく作ってあげてるんだから味わって食べなさいと言うことだ。

「だいたい宏也は朝食を、手料理を何だと思っているの? 愛情なのよ、愛情! 母の愛なの、解るでしょ? そして朝食とは朝の始まりを飾る素敵な時間でありながら、栄養と言う名のエネルギーを補給する時間であり、また心を穏やかにしてくれる癒しの時! 人を育み成長させ健康の未来あしたを作る。日の初めにして極上タイム! それを…………」

だが! 今はそんなことに構っている余裕は無い! そう時間が無い。今は100%長くなるマイ・マザーの小言を聞いてる場合じゃない。

つぶらで大きく綺麗な母の目から瞬時に目を逸らし俺は立ち上がり、まだ熱くて痛みを感じる口を無理矢理に動かす。

「いふてきまぁしゅ」

そうして俺は鞄を持って家を飛び出す。遠くから母のいってらっしゃい、と笑いを押し殺した声が聞こえた。

そんないつものドタバタした朝から今日という寒い、寒い2月の少し特別な日が始まった。


2章 危険な弁当箱!


「うぁ〜マジかよ……」

俺はうなだれていた。何でだろ? あんなに走ったのになぁ……何でだろ? 何でこんなに早く着くんだよ! つか何故!? いや解ってるんだけどさ、時間ずらされたんだよな確実に……じゃなきゃ、教室に一人ぼっちなんてないですよね。

でもさ、やり過ぎでしょ軽く30分以上ずらされてますよ。ってことは何か30分ほど小言聞かせる気満々だったのかよぉ〜。

うぅ、寂しいよぉ、腹減ったよ。……ちかれた、もう動けん。

誰も居ない教室ってのはどうも落ち着かない。当たり前だけどいつも居るはずの人は居ないし、整頓された30個ほどの椅子と机なんて寂しさを倍増させる。それはまるで隠れんぼをして、一人だけ見つけられずに取り残された子供のような切なさに近い。

黒板に書かれた日直の名前なんて、破滅した世界に唯一残された平穏だった時代の一部のようで切なすぎる。なにより2月の寒さが心にも体にも冷たすぎる。

そして何よりも辛いのは物欲しそうにお腹が鳴くことである。これ以上切ない物があるなら教えてください。

「ううう」

なんというか自殺したい人の気持ちが分かる気が……

などと不穏なことを思いながら俺は鞄を開け、漫画を取り出すためにゴソゴソと鞄の中を漁る。すると何か硬い物を探り当てた。……? このまともな物など全く入ってない鞄の中で硬い物といえば、CDかゲームソフトくらいの物なのだが大きさが合わない。

良く分からないのでとりあえず取り出してみる。

それはピンク色の布切れに包まれた。縦20cm横15cmの長方形の箱だった。

弁当? そう思いつつも慎重に慎重にゆっくりと箱を開けていく。油断してはいけない! これを母が入れたのなら、何らかの仕掛けが有ったとしてもおかしくない。むしろ有った方が自然なのだ。前に弁当だと思って開けた箱からは得体のしれない白い煙が湧き上がり、その後生徒達が体調不良を起こしたのはここ最近のことだ。

ちなみに本人が言うには新作の料理だったらしい。なんでも科学と料理が融合することにより絶妙な味のシンフォニーを奏でようとしたが、自分で試すには危険すぎるとかどうとか……そういうことで適当にカポっと開けるなどの行為は自殺行為と言っても過言ではないのだ。

慎重に慎重に、落ち着け、落ち着け俺!

そろり、そろり、ビクビク、かたかた……ジレッタイ! ジレッタイ!! ジレッタイ!!!

あぁぁぁあああ! めんどくせぇ!

俺はもう何も考えることなく迷わずに、一気に蓋を開けた。

「……な、ななななななな!」

こ、これは! 日の丸弁当ならぬハートマーク弁当? しかも見事にオカズありませんね(しくしく)にしてもハムで出来たハートがメッチャ恥ずかしいわ! いや、陰謀か?

つっても背に腹は変えられんよな。

気を取り直して付属の可愛いウサギのイラストのついた、ピンク色の箸入れから箸を取り出す。そして気合を入れてなんとなく、肩より上に手を上げて構えてみる。

それを振り下ろそうとした時、そいつは来てしまった。つか来ちまった……

そいつこと君島志織は一瞬普段と同じように見える、切れ長の目を見開いて、こっちを見ていた。腰まである長い髪と整った顔立ちの為か、黙っていれば外見は可愛く見えるのだが……人を外見で判断してはいけない。

志織の口から出るのは鋭利な刃物が4割、毒物3割、猫の皮2割、その他1割という割り合いなのだ。とんでもない毒舌女である。

「……なんで居んのよ。マザコン」

「マザコンじゃねぇ!」

思わず反射的に俺は叫んだ。朝一番の開口でそれって、酷くありません? むしろ俺が何したっていうんですかね? そう俺は何もしていない! 俺には何の落ち度もない。早く来ているのだから褒められるならともかく、罵倒されるなど理不尽の極みでしかないはずだ。

そんな理不尽に晒された怒りを、ぶつけようとして気が付いた。なんとも可愛らしいビニール袋を、志織が大事そうに俺の視線から隠すように握り締めていることに。

視線に気づいたのか、慌てて後ろに手を組んで袋を隠すと志織は俯いた。そうして僅かに唇を動かして最悪と小さく呟いたようだった。

なんだよそれ、最悪なのはこっちだよ。なんだよ、何が気にいらねぇんだよ! ……俺が悪いのかよ。

「あはは、今日はずいぶん早いね。変な物でも食べたの? それとも学校で野宿?」

声こそ穏やかだが上げられた顔は、必死で取り繕われた物だと一目で解る。笑顔にするために引き上げた口元が僅かにゆれ、目は忙しなく辺りを見回し、決して俺の方を見ようとはしない。

……そんな顔されたら言い返せねぇじゃん……

「いや、家の時計が狂っててさ、遅刻だと思ったらこんな時間だった」

「あはは、本当に馬鹿だねぇ。頭の中身、出ちゃってるんじゃない」

だからそんな曖昧な表情で、憎まれ口を叩くなよ。どうして良いか分かんねぇよ。

「あはは、そういうお前だって部活にも入ってないくせに早いじゃんかよ」

分からないから、せめて志織に合わせてやろうと笑みを浮かべようとしてみるが、頬が硬くて上手くいかない。結局俺は志織よりも下手な作り笑いを浮かべているだろう。

「宏也、日直って言葉知ってる?」

「え? あ、あぁ」

「そういうことなので失礼」

そうおちゃらけた様に言うと志織は早々と踵を返し、教室から出て行った。

「……確かに日直だったら、分からんでもないんだけどさ」

小さな違和感を口に出し、俺は黒板右下の日直の書いてある部分を眺めた。

やっぱりそこには君島志織なんて名前はなく、葉山椿という名がしっかりと書かれていた。

また一人になった教室は広くて寒くて寂しくて、居心地が悪かった。まだ手を付けていなかったオカズの無い寂しい弁当が、余計に寂しく見えて、それが嫌で弁当をしまい俺は教室を出た。


3章 口は災いの元!


俺は前の席の男と話していた。何故かいつもよりも教室はざわついているし、皆楽しそうに少しだけはしゃいでいる。男子はなにかそわそわし、女子の方は何やらビニールの袋を持っていた。

「って、ことなんだよ。な、意味わかんないだろ」

「はぁ? お前、本気で言ってるのか?」

不機嫌そうに金髪で鋭い目つきの楚之矢和喜そのや かずきが言った。

呆れきった和喜の表情とは裏腹に、俺は何やら察しの付いたような和喜の言葉に期待していた。

で、何でこう成っているかと言うと、志織と別れた後で俺は校内の屋上に出る前の踊り場で、漫画を読んで時間を潰しながら他の連中が登校して来るのを待った。

そうしてしばらくして何人かの足跡が聞こえてきたので教室に戻った。

早い時間だったのでせいぜい10人居れば良いかな、と思っていたのだが20人くらい居て、驚いた。

そしてそれよりも驚いたのが、今俺の目の前で話している和喜が居たことだ。

さも、いつもこの時間には居ますと言うような表情をしながらも、目立つ金髪の髪と耳に付けている海賊の旗の骸骨だけを抜き出したようなピアスで、存在感を主張していた。

こんな時間にこいつが居るわけが無いのだ。学校をサボるのは当たり前、来ても遅刻してくるのが普通だと、そう本人も豪語しているのだからおかしい事このうえない。

だから最初は何でこんな時間に居るんだよ、って感じのどうでも良い話をしていた。そうしている内に志織との話が自然と出てきた。

で、全部話した結果、和喜の野郎ときたら罵倒の連発だった。

帰れ! お前は男か? 生きている価値すらない! 今日という日を分かってない時点でお前は男失格だ! などと言われ流石に怒の感情が膨れ上がり、爆発寸前になったものだが「今日という日」と言う単語のお陰で、和喜を撲殺しなかったことは救いである(撲殺されるの間違いである)。

そうして今に至る。

「まぁまぁ、そう言わずに教えてくださいな」

手を広げ、まるで俺は神様に許しを請う信者のような素振りをしながら、おちゃらけた感じで言った。

それを見て和喜は溜め息を吐いて、呆れた様な哀れんでいる様なそんな目で俺を見た。

なんですか? その目はまるで俺が可哀想な人みたいじゃないか!

「なぁ、廻り見て気が付かないのか?」

「はぁ、忙しそうですね」

「……」

一分ほどの沈黙が出来上がった。当然俺は理由なんて知らないが和喜がおでこに手の平を当てるジェスチャーをしていることからして、一般常識レベルのことをド忘れしているらしいことが分かる。

えっと今日は2月の14日の火曜日で、一時間目から学校があって何故か皆楽しそうで……あはは、分からないや。

「あのさ、バレンタインって知ってるよな?」

「え、あ、あぁ? あぁぁぁあああああああああああ!」

俺の絶叫でクラス中の視線が俺達に釘付けになる。残念なことに冷たい視線ですけどね。

「そうお前は大変重大な失態を犯したのだ! 分かるか? 分かるよなぁ?」

つまり俺はあの時志織の恋路を邪魔してしまったのだ! あの小声で言った最悪って意味がようやく分かってくる。

最悪だ! 確かに最悪だ! バレンタインに早く学校に来ていること自体が間違いなのだ! 朝の誰も居ない時間にチョコレートを、机の中に入れるなどの行為をしようとする人間が居る可能性なんて、安易に予測出来ることじゃないか! そこに女子ならともかく男子なんて居てみろ! ただ邪魔しに来てる様なものじゃねぇ、かぁあああああああ!

やべ、馬に蹴られて死にたい気分だわ……

「そう、お前は俺様と志織の恋路を邪魔したんだよ」

……あまりに当然そうに勝ち誇って和喜が言うので、一瞬何を言っているのか分からなかった。

「うむ、この罪は重いな。とりあえずお前の母さんを紹介しろ!」

クラスの温度が下がる。俺の止まっていた思考も回りだす。

志織の邪魔をしたことは認めよう。だがお前の恋路は確実に邪魔していない! しかも母親を紹介しろ、だぁ? 決定してやろう! 天と地が引っ繰り返っても和喜、お前は変態だ!

「髪、むしるよ」

冷たく淡々とした物騒な声が俺の後ろから聞こえた。和喜といえば青い顔をして震えている。

振り向けばそこに志織が据わった目を輝かせていた。

「誰が誰に恋してるって?」

「わ、わわ、私めが宏也様のお母様に恋しているんですよ!」

上ずった声で、とち狂ったことを言い出す和喜が哀れでならない。いや、本気かもしれないが……

「次、そんなデマ喋ったら喋るから」

「あの、どなた様にでしょうか?」

志織はゆっくりと手を挙げ、小指を立てて不適に笑う。

俺は良く知らないのだが志織はこの学内では相当の情報通らしく、知らないことなどほとんどないらしい。ついでに言うとこいつがデマを流すと本当のことして流されるらしい。

だから志織がもし和喜の彼女に喋れば、本当のことだろうが嘘だろうが関係なく極地的な特大ハリケーンが巻き起こるのは間違いなかった。

だがさっきまで青かった和喜の表情は不敵な笑みに変わっていた。

気でもふれたか? むしろ壊れたのかな、と次の言葉を聴くまでは思っていた。

「なら俺も今朝のこと喋っちまおうかな?」

「へぇ、何を喋ってくれるのかな? 汚物君は」

そう言われて和喜は俺の方を見て押し黙る。無理も無い、朝の話なんて結局確証はないし、例え本当だったとしても此処で言っても共倒れになるだけだ。

ついでに言えば後になれば和喜の方が劣勢になるだろう。下手をすれば俺にだって危害が及ぶ、とは言うものの志織がこれ以上挑発してこないところから見て、あながち間違いとも言えないようだ。

しばらく二人の睨み合いが続き、周りの連中は何のことだろうかと小声で話し始める。

俺と言えば二人に挟まれて困っている。どうしていいか分からないが本音を言えば「此処から離れたい」の一言だが、一応自分も関わっていることを自覚しているのでなんとも言えない。

ソ連とアメリカの冷戦ってこんなのだったのかな、などと歴史に軽く思いをはせてみる。

歴史の成績悪かったな……どうでもいい悲しい過去を思い出せた。

「君島さん、先生来ちゃうよ」

ドアの近くに居たショートカットの女の子が言った。それを聞いて志織は教室に掛かった時計を素早く確認する。

「あ、うん、今行く。暇人のあんたと違って忙しい私は失礼しますねぇ」

などと嫌味を和喜に叩きつけて志織は出て行った。和喜は話の展開に付いて行けてないようで呆然としていた。

そうして俺がふと黒板の方を見ると日直の名前が君島志織に変わっていた。


4章 二人だけの議会


あぁぁあああ! 分かんねぇ! と頭の中で叫びながら自問自答を繰り返しながら午前中の授業を俺は過ごしていた。

ちなみに今は四時間目、国語の授業だ。

シャカシャカと皆の板書する音だけが静かに響く。俺はと言えばそれどころではないので延々と自問自答を続けている。ちなみに一時間目から今までノートは真っ白綺麗なままだ。何も書かれていないノートほど嬉しい物はない、なぜならこれから沢山書けるという事なのだから、とかアホなこと思って脱線してみたりもする。

まぁ何だかんだで今日の日直は志織らしく、先ほどから休み時間に黒板を消したりしていた。

だが、そもそもそれがおかしい! どう考えたってあの今朝逢った志織は動揺していたし、日直として朝に書かれていたのは葉山椿だったはずだ。ちなみに昨日の日直は忘れているので当てにならないが、葉山の後にも先にも名前順で回される日直に君島なんて名前が出てくるわけが無い。

なら、志織がチョコレートを持ってたのは……? って可愛いビニール袋だからってチョコレートが入ってるわけじゃないよな。……でも、もともと日直だったとしても30分前から居る必要なんてないからなぁ。

結局のところ分かってんのは俺が教室に居たあの時に、何かを仕様としてたってことか。

で、それが今日バレンタインだからチョコレートを誰かの机なり、何なりに入れようとしていたって可能性が大きくなるわけだ。

マテ! 俺はバレタインという物に囚われ、現実が見えなく成っているんじゃないだろうか? 志織という人間を思い出せ! 思い出すんだ佐山宏也!

君島志織、学園内の情報に強く外見清楚だが口からでるのは大抵毒、何気に人気者だが怒らせると怖い。

でも……笑うと可愛かったりするんだよなぁ。

「諸君! 愛とは何かね!」

突然、国語教師の魂の雄叫びが教室を爆発させた。眠っていた生徒と俺のように違うことを考えていた生徒がギョッとする。

「チョコレートを貰うことか? 違うだろ? 断じて違うはずだ! バレタインのように物を貰ってまた返すような物々交換ではないはずだ! よってバレンタインは色恋沙汰のイベントとするのは間違っている。諸君もそう思うだろう!」

「意義あり!」

あ、やっちまった! 勢いで答えちまったぁああ嗚呼!

「意見があるなら立って発言したまえ、佐山君」

仕方なく俺は渋々と重い腰を上げ立ち上がった。そして丸眼鏡を光らせる国語教師に立ち向かう……いや向かわせられる。

教室中の人間の目が俺に向かい、何を言うのかと楽しそうにその目で眺めてくる。

ど、どどど、どどどどどどうするよ!

じわりと俺の額に汗が浮き出してくる。

「どうしたのかね佐山君?」

勝ち誇るように国語教師は丸眼鏡を光らせる。廻りの生徒も俺から目を逸らさずに見ている。

あぁぁああああ! やけだ! やけっぱちだ!

そう頭の中で叫んだ瞬間に、熱かった頭が冷めていくような不思議な感覚を感じた。

「物々交換と先ほど先生は言われましたが、まずバレンタイン自体には返さなくてはいけないなどの強制力は有りません。返すのは感謝の気持ちを表すためなのですから物々交換とは言えません。よって物々交換だからバレンタインは色恋沙汰のイベントとして不適切だと言う、先生の主張は却下されます!」

そう言って俺は一息を付いた。周りと言えば目を丸くして俺を見ている。国語教師も唖然として固まっているようだ。

「そして愛とは好きだという気持ちであります。そしてバレンタインと言うのは愛という感情を発生源として行動する、個人個人の行動を集団規模でやるという素晴らしいイベントなのです! っふ先生、あんたバレンタインにチョコレートが貰えなくて駄々をこねてる、子供みたいだぜ」

言い終わると恥かしい言葉を連続に口にしたせいか俺の心臓の鼓動が早まる。嵐の後の静けさが教室に漂う。

生徒は目を点にし、先生はもう完全に硬直し口をパクパクとしているだけだ。俺は緊張で動けなくなっていた。

パチパチと誰かが拍手をした。それが段々と波のようにクラス中に広がっていき大きな音に成っていった。

「うっわぁぁぁああああん!」

と大きな声と共に先生は教室を走りながら出て行ってしまった。そして段々とクラスの連中が席を立ち少しずつ俺の周りに集結し、口々に凄かったなど言い出し始めた。

はっきり言って恥かしい、凄く恥かしいので俺は此処から逃げ出すことを決定した。

「え、あの、その、ですね」

それだけで先ほどの成果なのか分からないが、皆が黙り教室が静まり返る。

「……トイレ行ってきます!」

そう叫んで人波を掻き分け、俺は教室から抜け出した。

後ろから逃げやがったとか言う笑い声が聞こえていた。


5章 カレーパン&パンカレー!


昼なのに薄暗い場所に俺は座っていた。屋上前の階段の踊り場である。

まだ心音は早めに動いているし息も少し乱れているが大分収まっていた。教室の方はまだ騒いでいるだろうな、とか思いながらさっきの出来事を思い出して俺は苦笑していた。

それにもだんだん飽きてきてしまい、退屈な時間を此処で過ごし始めていた。未だに志織のことは気になるのだが、分からないという諦めが出来てきてしまっていて、どうにも考える気にはならなかった。

時間としては既に四時間目は終わり、昼休みになっていた。教室に戻るのは悪くないがまだ皆にチヤホヤされそうなので、戻る気にはならない。結局此処で暇を潰すしかないと覚悟を俺は決め始めていた。

突如トントンと誰かが階段を登ってくる音に気づいて階段の方に注意を払う。

長い髪を揺らしながら志織が白い袋を持って階段を一段飛ばしで登ってきていた。そして志織も俺の方に気づいて目が合うと、志織は悪戯っ子っぽい表情で笑うと白い袋を投げた。

それは物凄い速度で俺の顔面一直線に飛んでくる。慌てて俺は両手を顔の前にかざして、それをキャッチする。ちょっと強めに握った為に白い袋の中身が、ぐにゃっと潰れたのが分かった。

目の前にはもう志織が踊り場まで登ってきていた。

「やっほぉマザコン」

「へいへいマザコンですいませんね」

そう言うと志織が楽しそうに笑いながら、白い袋からパンを出して隣に座ってきた。それを見て俺は自分の持っている白い袋の中を覗いてみる。

……カレーパンだった物がパンカレーになっていた(此処ではカレーが中に入ってるのをカレーパン、塗られているのがパンカレー)。

あぁ悲しい! 悲しいよ! ママ! ちょっと心の中でネタを騒いでみる。すっげぇ切なくなった。

「それ、あげるね」

悪意とか全く無い無邪気な笑みで志織が言うと、何故だかワザとみたいに感じるのが可笑しくて苦笑した。

「うんじゃ、いただきます」

言って俺はパンカレーにかぶりついた。志織は片手で長い髪を後ろの方に流し、また前に戻ってくる髪を流しながら、小さな口で少しずつ食べていく。

「それにしてもさっきの凄かったね。先生きっと泣いてたよ」

可笑しそうに志織に言われ、俺はちょっと困った顔に成りながら笑う。

たく、そうやってりゃ可愛いのに……とか不届きなことを思ったりもする。そうこうしている内にパンは無くなってしまい、手持ち無沙汰になる。とりあえず俺は手を組んでみたりする。

志織も食べ終わってしまうと、やっぱり手持ち無沙汰なのがアレなのか落ち着かない様子で手をモジモジと動かしている。

「何か落ち着かないなぁ」と思ったことを言ってみたりして、自分が何故か緊張し始めているのをどうにかしようとする。

でも結果的に志織から返事が返ってこないし、志織は俯いてこっちを見ようともしないので、余計に緊張するだけだった。

あれ? なんかこの光景見た気が……つか、このせいで今朝から参ってるんじゃねぇか! と一人ぼけ突っ込みを脳内でしてみる。

この落ち着かない感じも、志織らしくない志織も、今朝と似ている。

また、またですか! また何故か微妙な世界が待ってるんですかねぇ?

そう思っているうちに志織が俺の死角になる位置から、可愛らしいビニールの袋を取り出した。

何処に隠していたのか一瞬悩んだが、上ってくる時のことを思い出して気付いた。おそらく最初に志織は購買の白い袋で隠して階段を登り、俺の死角になるように自分の座った場所の横に置いたのだろう。

そして更にビニール袋から、リボンなどで飾られた小さな箱を取り出すと、俺に手渡した。

「あげる」

それだけ言われ何がなんだか分からなかったが、今日が何の日かということは身をもって体験したので気が付いた。

志織は少し顔を赤らめうつむき気味にチラチラと俺の方を見ている。見慣れないものを見たせいか俺の心臓が早まるのを感じた。

「えっと、あのサンキューな。義理でもやっぱ貰うと嬉しいな」

少したどたどしく言う自分に苦笑しながら、ぎこちない笑みを俺は浮かべた。志織は俯いたまま小さく何かを言った様に見えたが、俺の耳には届かなかった。

「本命にもちゃんと渡せると良いな」

なんて朝のことを思い出しながら俺は言った。また志織が俯いたまま僅かに口元を動かした。

「……馬鹿」

え? 何で……え? えええ? また分からない意味が分からない。何で罵倒されなきゃいけないのか分からなくて俺は困惑した。

「本当に鈍いね。……三回くらい人生やり直した方がいいよ」

俯いていた志織が顔を上げ俺に今朝の作り笑いをする。でも今朝とは決定的に一箇所違っていた。

志織の目元からは涙がこぼれていた。

あまりのことに俺の脳は機能を停止し、俺は困惑した表情のまま固まってしまっていた。

え、何? 分かんないよ! 何で泣いてんだよ……

「はぅめいなんだくぁら……」

嗚咽交じりの志織の言葉が耳から入り鼓膜を振動させ、脳で何度も何度も繰り返すように反響する。

頭の中が真っ白になってしまい、何も考えられなく成りそうになる。

本命? 何が? 今俺が持ってる奴が本命? 志織は俺が……好き。

「…ぅ、ぐぅ……ぁ…」

此処まで来てやっと分かった志織の気持ちに、答えようとするが頭の回転が鈍くてどう答えて良いか分からない。更には志織の押し殺された泣き声が、思考する為に空いている僅かなスペースまでも埋めていく。

もう頭の中は詩織の声が一杯で考えることが出来ず、ただ自分を呪う言葉しか出てこない。

何で気づかなかった? 志織を泣かした。泣かした! 俺が泣かした? 泣かした泣かした俺が泣かせた! 何で? 何で何で何で!

鈍い脳が役に立たない言葉ばかりを出す。

他にあるだろ、言うことがあるだろ! あるはずだろ? ごめんなさい? 違う! ありがとう? 違う! 好きです? 違う! 違う違う違う違う!

ちくしょう! 言うことなんて見つからねぇじゃねぇか!

頭が痛いくらいに熱くなって胸の辺りが締め付けられるように痛い。

泣いている志織を見ているだけで、心臓を鷲掴みにされている様な気がする。志織の泣き声が入れば入るだけ、頭の中が壊されるような苦しさを感じ、どんどん体温が熱くなる。

「ぅぁ…宏也の、こと…ぅっく、好きぃなんだくぁら」

精一杯の志織の言葉で俺の頭の回路は完全に焼き切れ、思考を回せなくなった。志織も我慢の限界を超えてしまったのだろう。必死で押し殺していた泣き声が堰を切ったように溢れ出し、子供のように大声で喉を枯らすように吐き出した。


―――何時の間にか俺は志織を抱きしめていた―――


最初それに気づいた志織が引っかいたり、殴ったりして暴れたが全部無視して抱きしめた。考える機能は止まってしまったし、良く分からないけど他に出来ることなんてないと感じたからそうした。

そのうち疲れたのか志織が暴れるのを止め、泣き声も小さくなっていった。俺も最初こそ強く抱きしめていたがだんだんと力は抜けていった。

どれくらいそうしていたのかは分からないが、気づけば志織はすやすやと眠っていて俺の意識も段々と遠のいていった。


第6章 マザコン


生徒の帰った教室に一人の少女が夕日を眺めていた。儚い夕方の陽光が少女の肩まであるしなやかな髪を淡く染める。そして窓から入る風が少女の髪をなびかせた。

それは本当に綺麗で幻想的だった。だから俺はしばらくの時間少女に目を奪われた。だがそこには何故か綺麗で幻想的な世界が余りにも似つかない寂しさが篭っていた……だから俺は少女に声を掛けた。

「やっほ、何してんの?」

少女が振り向き、驚いてる様な戸惑っているようなそんな表情を見せる。俺はただ黙って少女の返事を待つ。

「別に関係ないでしょ」

ただそれだけ言って少女は俺を睨んだ。だから俺は何も言わずにただ笑いかけた。理由なんてない、ただそうした方が良いと思った。もし理由が有ったとしたら本当になんとなく少女が泣いている様に感じたからだ。

だってこいつ学校も終わってんのに教室で一人、夕焼けを見てるんだから寂しい奴に違いない。

そして俺はそういう雰囲気が嫌いだ。

「そうなんだが……暇なんだ」

は? 何言ってんのって感じで少女は目を吊り上げる。だから仕方なく俺は苦笑する。

「お前も暇だろ? 教室で一人夕焼けなんて眺めてるくらいなんだから」

反論できないのか少女はチラッと後ろの夕日を見て困ったような顔をする。

う〜ん、そんな怪しい人に見えんのかな俺……

「ナンパしてんの?」

鋭利な刃物のような冷たく機械のように淡々した口調で少女に聞かれ、一瞬俺は誰が声を出したのか解らなかった。

戸惑っているのを見て少女は維持の悪そうな笑みを浮べた。

「いや、まぁ似たようなもんなんだが……」

少女は完全に馬鹿にしきった冷たい目で俺を見る。俺は戸惑うばかりで何も言うことができない。

あぁ! なんか完全に舐め切られてる気がする!

「はぁ、まぁお茶くらいなら付き合ってあげても良いよ」

いかにも仕方なさそうな少女の態度に流石にイラっと来るものがあるが、敢えて全力で流すことにする。

だってさ、なんか言い方のわりに嬉しそうな笑顔ですもん。

「うんじゃ、名前でも教えてもらいますかね」

「人に名前を聞くときは自分からするものですよ」

満面の笑みで意地の悪いことを言う少女を軽く小突いてやろうと思うが、一応言ってることが正論なので止めておいた。

「佐山宏也、隣のクラスのものです。年齢と性別は秘密です」

「……君島志織だよ」

少し笑いを堪えるように少女は言うと床に置いてあった鞄を持ち上げ、少女はまたチラッと背後の夕日を見た。

もう夕日は暗い闇の中へ沈みかけていた。

「……お前また一人寂しく夕日観賞してるのか?」

本当にこいつ友達居ないなとか思いつつ志織を眺めていた。いつもなら此処で振り向くはずの志織は何も答えずに夕日を見続ける。俺は仕方なくのんびりと夕日を眺める志織を眺める。

「ねぇ、もし太陽がこのまま沈んで昇ってこなかったらどうする?」

志織の問いかけは問いかけのはずなのに何故か断定的で、明日にはもう太陽が昇ってこないというような気に俺をさせた。だから真面目に志織に答えた。

「昇ってこなかったらしょうがないさ。まぁきっと代わりに月が昇ってきてくれるさ」

「それじゃぁ、私は納得できないよ」

諦めるようなそんな覇気の無い志織の声が耳に響き、何か胸が痛くなるような感触を感じた。

「でも太陽が昇らないなら俺たちは月の明かりで我慢するしかない。それでも駄目なら太陽の代わりを探すしかない。俺らに出来ることなんてそんなものだ」

志織は何も言わず夕日を見続けた。結局その日は夕日が沈むまで俺と志織は教室に留まっていた。


ふんわりとした春の温かい日差しに照らされながら俺は張り出された2年の組み分け表を眺めていた。

「Bだよ。マザコン」

誰かがそう言って俺の肩を叩いた。

「だからマザコンじゃないって言ってるだろ!」

振り向きざまに抗議の言葉をぶつけるが、もちろん言った本人は気にすることもなく楽しそうに笑みを浮べていた。

「……志織、頼むからその呼び方だけはどうにか成らないか?」

「ならないよ。宏也はマザコンだもんね」

たまたま志織が家に来たときに、これまた母さんに耳かきをしてもらっていただけでマザコン決定ってのは酷いと思うのだが……

「で、志織は何処だったんだよ」

「えへへ、私もBなんだな、これが」

志織はずいぶん上機嫌のようで笑顔を絶やさないし声も幾分か弾んでいるように聞こえる。そして俺はそういう人を見ているとついおちょくりたくなる性格らしい。

「えぇぇ? マジかよ……マジで志織と同じか?」

心底嫌そうに俺は振舞う。

それを見て志織の頬が僅かながら膨らみ、切れ長の目が鋭くなる。そして俺は不満そうな表情のまま心のそこでほくそ笑む。

「なに? 私と一緒だと不満?」

「だってさぁ、マザコンなんて呼び方されたら参るじゃん」

さらに志織は目を細め不機嫌そうな表情になるものの、呼び方に問題があることを認めているらしく困惑の表情が混じる。

そんな志織の表情の変化の変わりように俺は面白みを感じて仕方ない。

「じゃ、マザコンはマザコンらしく、家でママといちゃついてなさい!」

そう言って志織は俺に背を向けて校舎へと早足で進んでいく。俺は心の中で苦笑しながらからかい過ぎたなと反省しつつ志織を追う。

春の風が俺を押すように強く流れていた。


第七章 我侭


俺はゆっくりと目を開けた。踊り場の窓からは薄い月明かりが入ってきていた。もう踊り場は真っ暗で寒さが身にしみる。

そんな寒さの中太股だけが何か温かくて重い。

……こいつまだ寝てるよ。たく無防備な奴だな。黙ってりゃ可愛いのに……

思いつつすやすや寝ている志織の頬に手を伸ばす。もちろん抓るつもりで触れたのだが、温かくて柔らかくて、それが何か気恥ずかしくなってしまい指に力が入らない。

だから結局志織の頬を撫でるような状態に成る。

結構これはこれで悪くないと思い始める。なにかゲームの悪役のボスに成った気分だ。

「ねぇ、いつまでそうしてるの?」

志織の柔らかい声で慌てて俺は手を引っ込める。志織は切れ長の目をパッチリと開いていることからして、頬を撫でてる間に起きたのは確実だ。

……どうする? どう言い逃れをしようか?

「気にするな、アレは頬を抓ろうとしたんだ。そういうことにしておけ」

「お断りだよ。変態」

そう言って志織は小さな口から少しだけ舌を覗かせた。変態ってあんまりじゃないか? と思いながら俺は不満を漏らす。

「なぁ、お前なんでそう意地悪いこというんだ?」

半ば呆れ気味の俺の質問は以外にも、志織にとってはクリティカルヒットだったようで、あからさまに志織は目を逸らし言いよどむ。

「……べ、別にいいでしょ馬鹿」

こんなセリフで怯むわけもなく俺は追い討ちを掛けようとするのだが、逆に追い討ちのセリフが気恥ずかしくて言いよどんでしまう。

「いや、その、なんだ……好きなんだろ……」

流石に自分とは言えず指で自分のことを指してアピールする。志織の表情が僅かに赤くなったような気がして、視線を合わせようとした。それに気づいたのか急に志織が起き上がって表情を隠す。そして震えるような小声で言った。

「……恥ずかしいから」

「……え」

自分の顔が熱くなったように感じる。

やべ! 顔赤くなってるぞ俺! と思いながら慌てて赤らめた顔を見られまいと俯く。

結果的にお互い背中合わせのような状態に成ってしまう。

さっきまで何ともなかったのに心音が早くなり、頭の中はパニック状態に近い。顔は熱を帯びたままで周りの寒さなど忘れてしまうほどだ。

「は、恥ずかしいって何だよ。普通に会話してるだけじゃん……」

こんなことを言ってるくせに、声は上ずっていて自分が気恥ずかしさで緊張してしまっていることに気づく。

「だ、だって好きなんだもん……って何言わせんのよ! 馬鹿、鈍感、マザコン」

心臓が一瞬止まるような感覚の後、熱かった頬が更に熱を増して後ろの方の志織の罵倒がどうでも良くなってしまう。

え? ちょっと待て俺って志織のこと好きだっけ? いやいや、無いだろ! 無いですよね? で、でも志織は……がぁぁあああ! 自分で体温の上昇を加速させてどうすんだぁ!

「ねぇ、せ、なか、借りても……良い?」

「……良いよ」

切れ切れの、聞き取り辛い志織の声を、何とか聞き取って俺は返事をした。

志織の背中が俺の背中に乗っかり、熱が伝わってくる。きっと自分の熱も伝わってるんだろうなって、そう思うだけで恥ずかしくて熱が上がるような気がした。

でも、意外と背中を合わせてるってのは落ち着くもので、熱は上がったものの心に余裕が出来た。

冬の大気の寒さが今は暑い肌に触れて心地が良い。横目にチラッと移っている月明かりの青さが綺麗だった。

「なぁ、何で髪伸ばしたんだ?」

何となく思ったことをそのまま聞いた。一瞬だけ志織の体が強張って少しの間志織は押し黙った。

「願掛け……ふふ、みたいなものかな」

志織の声は恥ずかしそうで苦笑交じりだった。だから何となくだけど自分が関わっているような気がした。でもそれ以上は志織が話したくないような気がしたから何も聞かなかった。それで会話は途切れてしまって俺と志織は背中合わせのまま黙りこくった。

時間だけ緩やかに進んでいく。気恥ずかしさのおかげで寒くはないけど、やっぱり緊張する。

「私ね。我侭なんだよ」

沈黙の終わりを告げた志織の言葉は唐突して意味が解らなかった。ただ志織の言葉は何処か何かを吹っ切るようなに聞こえた。

「だから、太陽でも満足できないの……それ以上じゃないと我慢なんて出来ないんだよ」

「どういう、意味?」

本当に解らなかった。こんなそのまま直訳してみろ、太陽でも満足できないって強欲にもほどがあるぜ。

「宏也がさ、太陽が昇らないなら俺たちは月の明かりで我慢するしかない。それでも駄目なら太陽の代わりを探すしかない。俺らに出来ることなんてそんなものだ。って言って慰めてくれたことがあったよね?」

「あぁ、有ったな」

俺が覚えてるかを確認してから志織は続きを話した。

「あの日ね。弟が死んで一年目の命日だったの」

「そっか」

それしか言えなかった。志織に弟が居たことなんて知らなかったし、あの日にそんなことが有ったなんて思わなかったから……

「弟はしゅんって名前でね。サッカーが好きで、たまに私も相手してたんだ」

そこで志織は一息ついた。少しだけ志織の体が震えているのが分かる。でも俺が言えることは何か有るだろうか? 何もないよな……

月明かりの淡い青だけが横目に映っていた。

「あの日は帰ってきたら相手をしてあげるって約束してた。だからきっと待ちきれなくて俊は私を迎えに行ったの。だからあの日、俊はいつも遊んでた公園の近くじゃなくて、私の通ってた中学校への通学路に倒れてたんだと思う」

志織の体の震えがだんだんと大きくなっていくのを感じていながらも、俺はそれも喋ろうとする志織止めるなんてことは出来なかった。

「きっとボールを蹴りながら歩道を走ってた。それで強く蹴っちゃって歩道からボールは飛び出し、それを追って俊も飛び出して車とぶつかったの。そして……寝ちゃった……道路の真ん中で、あはは馬鹿だよね。あはは」

震えが大きくなる。それでも志織は震える声で無理に笑って、自分を落ち着けようとしている。きっとまだ喋れないといけないことがあるっていう理由で……

お前馬鹿だろ? そんなに辛くなっても喋ろうとすんのかよ。泣けばいいじゃんかよ、辛いなら泣いて吐き出せばいいだろ! 悲しいことの塊なんて吐き出せばいいじゃんかよ!

絶対に口には出せない言葉を心の中で俺は叫び続ける。出せばきっと志織は続きを喋らない。でもきっと後で俺は後悔する。今この瞬間に志織が喋ろうとした勇気を踏みにじったことを……

「だから宏也は我慢できなかったら代わりを探せば良いって言ったけど……代わりなんて居ないんだよ! 俊の代わりなんて居ないの! 代わりでなんか我慢なんて出来ないんだよ! 好きな人の代わりなんて居ないの! だから……うっく、もっと好きな人を探すしかないんだから」

後はもう志織の口からは押し殺された嗚咽しか出なかった。

俺はこのとき初めて知った。あの時自分が志織に言った言葉の残酷さを、志織はきっとそれを攻めないけれど俺はあの時の自分を心底恨む。

もし太陽が永遠に昇って来なかったら我慢するしかない。でも我慢をするってことは何処かに不満があるから我慢をするわけで、我慢するしかないって言葉は諦めの言葉だったりする。本当の意味での解決法は……太陽以上の物を探し出すしかないのだ。

俺は弟のことは諦めろと、遠まわしだけれども志織に向かって俺は言ってしまったのだ。

だから今、背中越しに震えながら泣いてる少女を抱きしめることなんて出来なかった。

罪悪感だけが俺の胸に広がっていくのを感じていた。今は淡い月の光だけが無性に優しい気がした。


8章 馬鹿


凍えるような夜風が俺たちを叩いていた。さっきまで有った月は空を覆う雲で隠れてしまい。暗い夜道を更に暗く見せた。

俺の背中越しで志織が泣いてから何時間経ったか分からないが、志織が泣き止んですぐ学校を出た。お互いずっと黙って歩き続けた。

そうやって俺たちは分かれ道まで歩いてきた。

「じゃぁ、またな」

俺はそれだけ言って自分の家への方向を歩き出そうとした。ところがブレザーの裾に何かが引っかかったので足を止めた。

振り向けば志織が裾を掴んでいた。

「志織?」

「まだ……聞いてない。返事聞いてないよ」

……頭の中身が凍りついた。

え、返事ってそんなの返せるわけないじゃん。俺あんな酷いこと言ってたんだぜ! まともな返事なんてしていいのかよ!

「返事なんて……俺が言う資格有るのか?」

志織の顔が強張り、困惑の表情を見せる。

「俺はお前に、弟を諦めろって言ったんだぜ。お前に好きになってもらう資格なんて……」

バチンと大きな音が聞こえて、俺の顔は自分の意思とは関係なく横を向いた。左の頬がだんだんと痛みを感じ始める。そうしてようやと志織に引っ叩かれたことが分かった。

見れば志織は平手打ちをし終わった体制のまま切れ長の目に涙を溜めていた。でもその表情は怒りという感情そのものだった。

「次そんなこと言ったら! 髪むしって簀巻きにして錘つけて海に沈めてやるから! 何のために私があんな話したと思ってんの? あんたが聞いたからでしょ。宏也だから話したんでしょ! なんでそうなるのよ! なんで……馬鹿!」

切れ長の志織の目が釣り上がるが、その瞳からは流れ出していた。

なんだよ、お前また泣くのかよ。俺、間違ったこと言ってないよな……

もう呆然とするしかなかった。

「何よ……最後まで言わなきゃ分からないの? 資格がなかろうと私はあんたのこと好きに成っちゃってるの! それなのになんでこんな惨めな想いをしなきゃいけないのよ!」

涙で崩れそうな顔を必死で抑えているような表情で志織は俺を睨みつける。

志織の身勝手な言葉が突き刺さり、それに対して頭で思ったことが何の加工もなく口から飛び出す。

「なんだよそれ! だから俺はお前に好きなってもらう資格なんて無いから、お前に好きになられちゃ困るんだよ!」

「なによ! そんなの自己満足じゃない! 私に悪いと思ってるなら……責任取んなさいよ。それとも、なに? あんたの責任の取り方は相手を傷つけることなの? そんなの最低だよ」

そこでもう志織の表情は崩れた。くしゃくしゃに崩れた。

俺はもう何かを言うことなんて出来ない。当然だ……志織の言葉が痛いほど心に突き刺さったのだから。俺はとんでもない勘違いをしていた。

志織に酷いことを言った、だから志織に好きになってもらう資格なんてないと思った。

でも、それは志織から俺を好きになるという選択肢を奪うだけであって、それは謝るってことでもないし、もちろん責任を取るということでもない。

本当にただ傷つけただけだ。

ならどうすれば良い? どう責任を取る? ……何迷ってんだよ。分かってるくせに俺は知らない振りをするのか? 決まってんだろうが責任の取り方なんて!

「取ってやるよ。責任とってやるよ」

緩んでいた志織の目がまた釣り上がり、痛いほどに胸の奥に突き刺さる。だが、それを俺は無視をして近づく。

「今更……今更どうやって責任取る、うぅん!」

俺の唇に僅かに温かくて柔らかい物が当たる。

完全な俺の不意打ちに一瞬後れて志織の体が震え、目が見開かれる。そしてゆっくりと志織の唇から離れ、志織を抱きしめた。

突き放される覚悟でした行為はどうやら受け入れられたようで、俺の背中には志織の手が添えられていた。

涙で濡れた志織の服が冷たい。これが志織を自分が傷つけた量なんだと思うと申し訳なさで心が埋めつくされた。

「足りないよ。こんなじゃ、たりなぁいんだくぁら」

「……」

嗚咽混じりの志織の言葉を黙って聞く。今はどんな酷い言葉だって黙って聞くしか俺には出来ないから。

志織が俺を引き剥がし、感情を抑えるように大きく息を吸った。

「同情なんかじゃ、嫌だから……」

そう言った志織の肩は震え、やや表情が強張る。目と目が合い俺の心音が何だか大きくなったように感じた。

「宏也、君は……私のこと、好きですか?」

慣れない君付けで呼ばれ、照れ臭さに目線がそれそうになってしまう。それは詩織も同じなのか、恥ずかしさで無意識に表情を隠そうとしまって、やや俯いてしまい自然と上目遣いになる。

詩織の僅かに赤らんだ頬と落ち着きの無い態度で、恥ずかしさがどれだけのものか読み取れる。それでも詩織は目線を逸らすことなく真っ直ぐな目で俺を見る。

だから俺も瀬一杯の言葉で素直な気持ちを伝える。

「理由なんて解らないけど……俺は君島志織のことが好きです。志織に泣かれたり、志織を傷つけて痛いと思った気持ちが好きって気持ちなら間違いないと思う。いや、きっともっと前から好きだったと思う。最初に逢った時の夕日を眺めていた志織を見た時から好きだったのかもしれない」

そこで俺は大きく深呼吸をして上がった体温と心拍数を下げる。

最後の言葉が上ずったり噛んだりしないよう願いながら、迷いの無い気持ちを告げる。

「まだ許してくれるなら……俺と付き合ってください」

頭を思いっきり地面に着くくらいの気持ちで俺は頭を下げた。そしてゆっくりと上げる。

何故か目の前には志織の顔が凄く近くにあった。

詩織がゆっくりと瞳を閉じた、穏やかな表情に俺は目を離せなくなる。視界に詩織以外のモノが見えなくなる。

あっと気づいた時には柔らかい志織の唇が触れ、ぶわっと酔った時のような暑さが体を回る。

それはほんの一瞬の出来事でスグに唇は離れる。けれど体の中の温かさは穏やかにゆっくりと熱を増していく。

志織は嬉しそうな恥ずかしそうな、悪戯をした子供のような笑みを浮かべ、俺はただ詩織を見詰める。

「ずっと好きでいてくれなきゃ、酷いんだから……」

そう言って志織は俺に有無を言わせる前にキスをしてきた。

さっきとは明らかに違う甘いキスを……それをまるで覗き見するかのように雲間から月が流れた。


終章 甘い物はお好き?


心地のいい朝日、無駄にさえずる小鳥の鳴き声、恐らくめちゃくめちゃ良い朝だろう。これだけなら……既に俺は目を開けている。気持ち良い朝の空気も吸った。

だが! 布団から出ることは出来ない。なぜなら先ほど布団から手を出して解った。

寒い! 死ぬ! この寒さは死ぬ! 布団から出たら5秒であの世行きに違いない!

だから俺は全身全霊を込めて布団の中に潜り込む。まるで風のように素早く布団に潜り込み、林のように心を穏やかにし、火のごとき執着心で布団に包まり、山のごとく動かない! これぞ風林火山!

と、そこまでしたものの此処から出るのも早いなと感じていた。

そろそろアイツが叩き起こしに来る時間なのだろう、階段をマイ・ルームに向かって誰かさんが駆け上がってくる音が聞こえた。

とりあえず、部屋に来るまでほくほく布団で夢心地を味わう。そうすること5秒かそこらで部屋のドアが開く。

「まだ寝てるの? 早くしないと三枚に卸してドブ川に沈めるよ」

なんて物騒なことを言いながら迫ってくる。

「おねがい、もうちょっとぉだけぇ」

かなり甘えた声で子供があまえるような感じで言った。布団の外の誰かさんが深い溜め息を付いたのが聞こえた。

「今起きて無残な人生を過ごすのと、起きないで死ぬほど惨めな人生を過ごすのと、どっちが良い?」

冷淡な声で淡々と誰かさんは言った。

「志織と学校サボるのが良い」

布団を掛けたまま顔だけ出して起き上がりながら言う、と志織は少し赤らめた顔で困ったような嬉しそうな顔をして苦笑いをする。志織の手には何やら可愛らしい袋が握り締められていた。

「それは……良いから早く起きてよ。本気で髪むしるよ」

なんとも困ったような恥かしいような表情をしながら少し弾んだ声で志織が言う。聞きながら俺はサクサク着替え始める。それを志織は確認するとさっさと部屋を出て行ってしまった。

ちなみに恥かしそうに苦笑いをする志織が、最近のお気に入りだったりするのは本人には内緒の話だ。

そうやって着替え終え、味噌汁の匂いを漂わせてくるリビングに入ると、ソファーに座っていた志織がそそくさと近寄ってきた。

「はい、あ・げ・る」

そう言って志織に俺は小奇麗な紙で包まれた箱を渡された。

「あぁ、サンキュー」

とは言ったものの俺は相当不思議そうな顔をしているに違いなかった。志織がじとっと切れ長の目を細めて俺を見る。キッチンでご飯をよそっていた母があらあらとか言っている。

……なんで?

「宏也また忘れてるでしょ」

「えっとなんでございましょうか?」

などと言いながらテーブルの前に座る。そこに母が焦げ茶色のご飯を俺の前に置き自分の席に座った。

って、焦げ茶色のご飯!?

志織もビックリしたのだろう返事をすることなど忘れてて固まっている。それはどくどくとな異様な匂いを発生させていた。

「マイ・マザーこれはなんですか……?」

母は気にする風もなく、当たり前のように答えた。

「チョコご飯よ」

おっとりしたなんとも和む言い方だ。

もちろん俺は絶句し、志織は完全停止状態に入り、母だけが楽しそうに笑顔を振りまく。

「……なぜ?」

暖かい笑みのまま、これまた当然のように母は答える。

「バレンタインですから」



おわり


 最後までお読み下さってありがとうございました。

 今回は楽しいのメインで書かいたので書いてる側としては非常に楽しかったです。

 

 貴方にとっても楽しい物だと良いなと思いながら、次作に向かって精進させていただきます。

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[一言] すごく感動しました! こんなに読んだ後に心が温かくなる小説を読んだのは久しぶりです! 二人の心情をとても身近に感じられる文章はベルベル先生だからなせる技ですね。 こんなに良い小説を書…
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