11、 ペルセウスは反省せよ
星を見るにはちょうどいいが、たき火が小さくなり心もとなくなったので俺は薪をくべた。
パチパチと火の粉がふわっと上がり、あたりが明るくなった。
闇に慣れてきた目には、少しまぶしい。
「ホシ、じゃなかった北野。教育実習の先生はメガネだった好きだったわけじゃないから。っていうか、恥ずかしいからそんな昔の話するなよ」
「伊達メガネは不要??
ふうん。そうなんだ。
大地君の好みのタイプを色々調べてるんだけどな……ちがったか……」
ホシコよ。またもや最後の方がブツブツ独り言でよく聞こえなかったぞ。
もっとボリュームを大きくしてくれ。
二人の間に静寂が流れた。
今日は初めの頃は、ホシコとの会話が途切れたらそれで終わりだと必死につないでいたが、今は少し気持ちに余裕がある。
ホシコは俺のことを怒ってないし、嫌ってないし、むしろヒーローだと言ってくれた。
それだけで、この空白が息苦しくない。
子供の頃のように、すぐに仲の良い友達とは行かないかもしれないが、夏休みが終わって学校に行けばホシコは、クラスメイトとして会話をしてくれるだろう。
それだけで、俺はなんだか幸せいっぱいの気持ちになった。
けれど、クラスにもどればクラスメイトの一人になってしまう俺だが、今なら一対一で会話ができる。
やっぱりチャンスだし、もう少し、もう少しだけ仲良くなりたい!
「ホシ、北野はキャンプしたことあるか?」
「ううん。ロッジには泊まったことがあるけど、テントを張って泊まるのはしたことがないよ」
「そうか、でも今日星の観察に来たってことは一晩中こんな山や高原にいても怖くはないってことだな」
「うん。ひとりだったら少し怖く思うかもだけど、みんなでいれば大丈夫」
「みんな……俺だけでも怖くはない?」
「だって、大地君キャンプの達人なんでしょ?」
「いや、そこまでではないけどまあ、ソロキャンプは結構やってるかな」
「大地君は、どうしてそんなにソロキャンプしてるの?」
「それは……」
これを言うのは少し恥ずかしい。
けれど、ホシコとの会話が続くなら話してもいいかもしれない。
「あの時、北野と山で遭難した時に俺は火起こしひとつ出来なかった。天気が良かったから救われたけど、安全地帯も分からないし、雨よけも作れない。俺は山のこと何も知らないなって情けなかったんだ。
だから、色々知っていざって時に頼りになる、アウトドアのことを良く分かる人になりたいと思ってソロキャンを始めたんだ」
「毎週、楽しそうにキャンプに行ってるみたいだなぁと思ってたけど、そういう理由があったのね」
「まあ、きっかけはそんな感じだ。今は趣味だけどな」
「大地君はそうやって努力しちゃう人なんだよね。やっぱりすごいよ。おかげでまた、こうやって話すチャンスがあって、キャンプさまさまだね」
ホシコは目を細め、俺を見てにこっと笑った。
しかし、その後何か思い出したのか表情が曇る。
「正直、今日声かけるの怖かったんだ。大地君と高校で同じクラスになったのに、あのことで嫌われてると思ってたから……」
「いや、俺もそう思ってたからさ。今日話してくれて、誤解がとけてうれしいよ」
「じゃあ、今日で仲直りってことでいいかな? 私が聞くのもなんだけど、許してくれる?」
ホシコが、華奢な小さな手を差し出してくる。
その手は、少し震えていた。
やっぱり無理してるんじゃないのか?
「許すも何も、俺は北野のこと怒ってないし。それより、無理しなくていいぞ? 俺みたいな、ガサツなの好みじゃないんだろ?」
「ちょっと、今まで何を聞いてたの!?
からかわれたから、照れ隠しでとっさに言っただけで、本心じゃないって言ったよね」
「うん、それは聞いた。理解してる」
「じゃあ、仲直りの握手!」
きゅっと強引にホシコが俺の右手を奪った。
なんだか柔らかな手に、胸の奥がこそばゆくなりながら軽く握り返す。
「お、おう。仲直りなっ!」
心臓がぴょんと跳ねた。
ど、動揺が隠せないぞ俺。
小学生の頃は、こうやって俺が強引に手をひいて、ホシコをあちこち気に入った遊び場に連れて行ってたけど、あの頃の俺すごくない!?
今は絶対にできない。
ドキドキして無理すぎるっ!
「あと、ちゃんと知ってて欲しいんだけど、嫌いだったら仲直りしようと思わないし、キャンプ場まで追いかけてこないし、好きなタイプリサーチしないし……」
段々ボリューム小さくなってホシコの声が聞こえないんだが、今日は俺の耳が悪いのか!?
「ともかく、北極星だって教えてあげないんだから!」
「え、それは困る。今日はちゃんと覚えて帰りたい」
俺の真面目な言葉に、ホシコは頬を膨らました。
俺は、何か間違ったことを言ったか?
「んっ、もう!!
遠い。君は17万光年遠いよ!!
全然伝わってな~い!」
林から、ホウとフクロウの鳴き声が聞こえた。




